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ファスナー(短編小説「ミスチルが聴こえる」)



「好きです、付き合ってください!」
 告白しちゃった。三年間ずっと好きだった。頑張って距離縮めて、だけどなかなか想いを伝えられなくて、もどかしい時間を過ごした。いや、それじゃあいけない! となんとか自分を奮い立たせて、放課後空いてる? なんて意味深な誘い方しちゃって、授業中もずっとドキドキしちゃって、死ぬかと思ったけどここで死んだら告白できないだろ! ってやっぱり自分を奮い立たせて、やっと放課後になってトイレに行って気持ち整えた後で、二人きりになれる場所まで行って、もう迷いなく告白しちゃったんだ。
「ふふっ」
「ん? どうしたの?」
 なのに。笑われた。なんで? もしかして、馬鹿にされちゃってる? 一生懸命さが仇となっちゃった?
「空いてるよ」
「空いてる?」
 彼女の視線は、僕の股間にあった。
「嘘でしょ?」
「ほんとだよ」
 僕はおそるおそる、視線を下へ向けた。
「おい、全開じゃねえか……」
「ファスナー閉めないで告白って、やっぱり圭くんは面白いね」
「いや、これはなんというか」
 終わった。僕の高校生活はぜーんぶ、水の泡。もう、ポワポワ。
「いいよ」
「え?」
 いいよ? 何がいいんだ? え、嘘、まさか。
「告白。受けるよ」
「マ、マジですか?」
「うん。だって圭くんといると笑っていられるから」
「笑っていられる……」
 僕は全開になった社会の窓を見て、そしてその奥にあるパンツを見て、色々と可笑しく思えて笑ってしまった。

 

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