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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2022年8月の記事一覧

『「レジ袋はご利用ですか」』

『「レジ袋はご利用ですか」』

「レジ袋はご利用ですか」

あぁくださいとこたえる

口を開くのもめんどうだが

これも時代だ

「2円になります」

ホームランは600本打った

日本で2番目の記録だ

断ったけれども

日本人で初めて

大リーグからスカウトされた

そんな俺もすっかり

後期高齢者になっちまって

よぼよぼ情けない

「割り箸はお付けしますか」

こくっと頷いて

一膳もらう

現役時代は人一倍

道具を大

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『ぼくの夏休みはきょうで終わった』

『ぼくの夏休みはきょうで終わった』

けつろんから言えば

完全に負けた

ぼくは

ぼくたちは

少しの譲歩も

得ることが出来なかった

8月28日

ぼくの夏休みはきょうで終わった

小学生さいごの夏

ぼくはクラスのために

宿題のてっぱいをもとめて

たたかった 

パパが会社で

きゅうりょうをあげろと

たたかうらしい

ろうし交渉とかいったかな

ぼくはその小学生版

きょうしとじどうのたたかい

きょうじ交渉に

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『お金の人』

『お金の人』

「あんにゃろう、俺の貸した金溶かしてからに」

よもやま話というよりは

愚痴に近い

「だから嫁さんにも逃げられてっからに…」

清ちゃんは酒さえ奢れば

いくらでも俺に付き合ってくれる

俺が話してる間はずっと

目を薄めてうなずいている

たまにグビっとやりながら

「あ、ごくろうさまですぅ、ほらどいて」

お金の人に迷惑をかけないよう

清ちゃんに云う

お金の人はだいたい

火曜と木曜と

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『バスツアーが好きだ。』

『バスツアーが好きだ。』

バスツアーが好きだ。

気軽に観光ができて、それと食事をたらふく食べられるから、ちょっとした自分への褒美として、時折参加する。

冬は蟹の食べ放題、春は花見など。今の時期でいえば、ちょうど桃やぶどうなどのフルーツ狩りのシーズンだ。

私はかれこれ30年以上、とくに恋人も友人もいないので、バスツアーにはいつも一人で参加する。目的は観光とグルメなので、隣り合った人と会話をすることなどはあっても、それ以

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『「来月末を以って…」』

『「来月末を以って…」』

「お呼びたてして申し訳ありません」

中村さんは、いつ会っても溌剌として、凛とした透明感がある素敵なひとだ。このひとからの面会アポイントなら、毎日でも構わない。

「きょうは平田さんにお話がありまして」

そうだろうね。何もないのに呼ばれるなんて、彼氏でもあるまいし。

「来月末を以って…」

俺がハケンになった4年前、たしか彼女はこのエージェントの新卒で、その時からずっと俺の担当をしてくれている

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『マラッカ海峡冬景色』

『マラッカ海峡冬景色』

バンコク発の夜行列車降りたときから

クアラルンプール駅は炎天下

原油バイヤーの群れは

誰も無口で

海鳴りだけを聴いている

わたしもひとり

原油のタンカーに乗り

凍えさせちゃならん

日本想い

交渉をしました

あぁああー

マラッカ海峡

常夏景色

アンカラ発の夜行列車降りたときから

イスタンブール駅は炎天下

LNGバイヤーの群れは

誰も無口で

ケパブだけを食べている

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『桃』

『桃』

親より息子のが田舎に住んでるって

いまどきめずらしくはないだろうけど

なんだか滑稽な話

島への定期便は

台風のおかげで2日欠航した

母から届いた桃が

だいぶ傷んでた

そんな事情はわざわざ

伝える必要もないから

無事に届いたとのメールを送る

都会に母はひとり暮らしている

身体は歳のわりに丈夫で

送られてきた桃は

お友達とバスツアーに行ったから

だって

親父と兄貴があの時

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『めちゃくちゃダッシュして駆け抜けるやつ』

『めちゃくちゃダッシュして駆け抜けるやつ』

きょうもバイトだるいなガキの夏休み早く終わらねえかな

と思いつつ

控室のドア開けたら先輩からなんか一枚紙渡されて

「おばけやしきスタッフが選ぶ!”逆に”怖い客ランキング アンケート」

だって

吹いた

なかなかいい企画じゃね

何これテレビっすか?って聞いたらやっぱりテレビだって

おばけやしきの怖いおばけとかランキングはつまんねぇけど

たしかに客の方のがやべえのいるから

こういうラ

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『問い合わせフォームを送ってみた』

『問い合わせフォームを送ってみた』

記事に綴るネタも尽きて

ネットを徘徊していたら

なんだか興味深い

バナー広告

冷やかしに

リンクをクリック

ちょっと酔っていた勢いも借りて

興味本位で

問い合わせフォームを送ってみた

真夜中だというのに

すぐに電話が鳴った

番号からなんとなく

その業者のひとつだと

わかったけど

面倒なのでスルーした

メールボックスを開けば

瞬く間に何十もの受信通知が

挙句はインタ

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『ねぇケンちゃん!そうだねおねえさん!』

『ねぇケンちゃん!そうだねおねえさん!』

「どうしても、ですか?

「どうしても、だ

「先輩も、そうだったんですか?

「いや、俺は行かなかった

「じゃあ、どうしてわたしは

「それは、きみがあまりにも

「あまりにも、なんですか?

「あまりにも、上達しないからだよ

「わたし、自宅でも毎日練習して

「このままじゃ、任せられないんだ

「次はきっと、うまくやりますから

「これは、署長からの命令なんだよ

「そんな!

「わかった

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『お父さんと別れると言い出して』

『お父さんと別れると言い出して』

記憶では

校庭の西の隅に

大きな欅の木があったはず

二十年ぶりに訪れた母校

その大木の存在を

たしかめようにも

そんな友人はいなくて

この小学校には

6年生の2学期から

半年だけ通った

当時はあまり

事情が掴めなかったけど

母が急に

お父さんと別れると言い出して

僕の手を引いて

この街に越してきた

つまり母の故郷

中学に合わせて

また都会に戻ったから

なんだか

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『ことしは3,200年にいちど』

『ことしは3,200年にいちど』

ことしは3,200年にいちど

神様が

我々人類の質問に

答えてくれる年

採用される質問は

全人類から寄せられたうち

じつに1件だけ

とっても狭い門を

すり抜けないと

採用されないよ

ちなみに3,200年前の質問は

「ぎゃえwdsんvsd?」

現代の日本語に訳すと

「なぜ我々は立ったのですか?」

だって

その前

つまり6,400年前の質問は

「gvfづgbdヴhcん

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『”ゾーンに入る”って感覚ですかね。』

『”ゾーンに入る”って感覚ですかね。』

「わたし自分でも信じられないんですけど、あのとき、突然視界に入るものすべてがゆっくり、まるで止まってるように見えたんですよ!なんだろう、あの万能感!よく一流アスリートが言う、”ゾーンに入る”って感覚ですかね。わかります?まさにあのときはその状態だったんだと思います。さすがに神様の姿は見えなかったですけど!でも一文字ずつしっかりしっかり、目に焼きつくんじゃないかっていうくらい、もうほんとにゆーっくり

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