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Photo by
rupikorupiko
『お父さんと別れると言い出して』
記憶では
校庭の西の隅に
大きな欅の木があったはず
二十年ぶりに訪れた母校
その大木の存在を
たしかめようにも
そんな友人はいなくて
この小学校には
6年生の2学期から
半年だけ通った
当時はあまり
事情が掴めなかったけど
母が急に
お父さんと別れると言い出して
僕の手を引いて
この街に越してきた
つまり母の故郷
中学に合わせて
また都会に戻ったから
なんだか子供ながらに
落ち着かなかったのを
覚えている
母の一周忌は恙なく終わり
父と思われる番号から昨晩
メッセージが来ていたけど
まったく読む気には
なれなかった
母を悲しませた父を
僕は許せない
はっきりと理由は知らないけど
きっとたぶん
いやぜったいに
父が母を
傷つけた
そう思っている
僕に対しては
悪い父親ではなかったけど
あの6年生の夏休み以来
音信不通の父が
僕に連絡を取ってきたことは
正直驚いている
まずどうして
僕の携帯番号を
母との関係よりも
そのことが気になって
ついメッセージを
返信してしまった
父からの返答は
小一時間経って
それはとても長く
そしてまとまりのない
文章だった
要約すると
こんな感じ
二十年前の夏
父は母を裏切った
別の女性と
関係をもって
そのとき母は
探偵を雇って
父を尾行させ
証拠をつかんだらしい
母と僕ふたりの生活が
苦しいものにならなかったのも
父からたくさんの
慰謝料と生活費を
貰えたからだという
そしてそして
僕の連絡先を
いま知っているのは
当時父のことを尾行した
探偵と懇意になって
その人に頼んだんだと
なんでも
その探偵さんは
実は父の幼馴染で
小さい頃から
ものすごく美人さんで
子供同士とはいえ
お互いに結婚の約束を
する仲だったんだって
そんな奇遇って
あるものかな
僕はなんともいえない
読後感をもって
スマホをポケットにしまった