『ねぇケンちゃん！そうだねおねえさん！』

「どうしても、ですか？

「どうしても、だ

「先輩も、そうだったんですか？

「いや、俺は行かなかった

「じゃあ、どうしてわたしは

「それは、きみがあまりにも

「あまりにも、なんですか？

「あまりにも、上達しないからだよ

「わたし、自宅でも毎日練習して

「このままじゃ、任せられないんだ

「次はきっと、うまくやりますから

「これは、署長からの命令なんだよ

「そんな！

「わかったな、週に２回だ

「もっと、大事なことがあるはずです！

「これだって、大事なことなんだよ！

「法律の知識や護身術とか！

「腹話術だって大事さ！

--

こうして

交通課の警官であるわたしは

あまりにも腹話術が下手で

交通安全教室を任せられない

という理由から

週に２回

腹話術の先生のもとに

通うことが決まりました

税金を使うわけにはいかないし

だからってわたしも

自腹ではとても

行く気にならないと言ったら

署長がポケットマネーを

出してくれたようです

だからわたし

立派な腹話術師

じゃなくて

交通指導員になれるよう

がんばらないと

ねぇケンちゃん！

そうだねおねえさん！

右をみて

左をみて

もういちど右を

みるんだよケンちゃん

うんわかった！

こえが…

おくれて…

きこえるよ！

ケンちゃんそれは

ちがうひとのネタだね！

どろぼうはいけないよ！

いっけね！

あはははは！

こうして今夜も

自宅でひとり

練習に励んでいます

寮の隣室の

同期からは

夜中にひとりで

何やってるのって

訊かれますけど

あはははは！