『「来月末を以って…」』
「お呼びたてして申し訳ありません」
中村さんは、いつ会っても溌剌として、凛とした透明感がある素敵なひとだ。このひとからの面会アポイントなら、毎日でも構わない。
「きょうは平田さんにお話がありまして」
そうだろうね。何もないのに呼ばれるなんて、彼氏でもあるまいし。
「来月末を以って…」
俺がハケンになった4年前、たしか彼女はこのエージェントの新卒で、その時からずっと俺の担当をしてくれている。
「平田さんの現派遣先を解除という通達を受け取りました」
たしかけっこうな高学歴で、実家も裕福だった気がする。まさに才色兼備とはこのことだよなぁ。
「いちおう1か月前での通達なのでルール上は問題ないですね」
時間の経過とともに、仕事っぷりは上達している。そしてオトナのオンナとしての魅力もいっそう増してるように思えて。
「突然だったものですから、次の派遣先は次の担当に申し送りしておきます」
けっこう仕事が忙しいようだから、プライベートの時間はしっかり取れてるのかな。恋愛なんてしてる時間ないかもなぁ。俺でよかったら家事は全部…
「平田さん、平田さん!いつもの悪い癖でてますよ!」
あぁまたやっちまった。中村さんに見とれて、まったく彼女の業務連絡が耳に届いていなかった。罪なオンナだなまったく。えっと、なんだったっけ。
「平田さん、来月いっぱいで今の現場の契約解除です」
えっ?
「次の派遣先については、次の担当に申し送りしますね」
えっえっ?
「あぁそうだお伝えしないとですね。私、このたび転職することになりまして。今までお世話になりました」
えっえっえっ
「次の担当は藤浪と言いまして…」