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唐仁原昌子
2024年5月26日 19:09
「いいですか、きみ。よく聞くがいいよ」 不意にどこからかそんな声が聞こえて、その声の持つ緊張に、私は思わず微睡から身を起こす。 ぐるりと部屋を見渡して声の主を探すけれど、この部屋には自分以外誰もいない。そっとスマホの画面をつけて、時間を確認した。 十五時過ぎを示している、その画面の明るさとは裏腹に周囲は随分と薄暗い。 大学の授業の空き時間に、使われていない教室でうたた寝をしていた。
2024年5月19日 22:00
授業中、教科書とノートを自分の座る席の机上に広げる。 そこは私にとって、五十分を過ごすにはあまりに狭い世界なので、私はときどきノートの「なか」に救いを求める。 授業がつまらないなとか、教室を出てどこかに行きたいなと思うたびに、ノートの最後のページにさかなの落書きをすることにしたのは高校一年生の頃だ。 本当に、「つまらないな」と口に出して言ったり、どこかに行ったりしてはいけないというこ
2024年5月12日 22:28
寝ぼけたまま、まともに目も開けずに手探りで窓を開ける。 ぶわりとカーテンが広がって、部屋の中に渦巻いていた灰色の空気が一気にかき回される。 昨日、五年付き合った人と別れた。 おしゃれで聡明な人だったけど、いつも難しい顔をしているから、それを和まそうと私はいつも一生懸命だった。「元気なところが好きだよ」と言われて、素直に嬉しかった。だから私はいつも元気でいた。いつも元気でいたくて、い
2024年5月5日 23:52
昨夜、俺は結構酒に酔っていた。 職場の付き合いで行った飲み会で、日頃の仕事の話に始まり、休日の過ごし方へ話題は移行する。 元々プライベートと仕事は分けたいタイプだし、恋人の有無や家族の話になる頃、俺はすっかり疲れていた。 早く帰りたいなあ。 まあ帰ったところで、上司や先輩のようにそこに待つ人がいるわけではないけれども。 それでも俺にとっては、俺の好きなものだけを集めた、唯一無二の