「百日紅の下の約束」ー詩ー

我が家の　夏の訪れは
庭の百日紅の　香りと
一緒に　やってくる

真紅の　鮮やかな　色合いは
花のすくない　夏の庭で
ひときわ　華やかさを添える

父さんは　この花が　好きだった
晩年は　窓辺にすわり
よく　この木を　眺めていた

「どうして　そんなに
百日紅が　好きなの」と
父さんに　聞いたことがある

その時は　少し笑うだけで
何も　答えてくれなかった

父さんの　旅立った後で
母さんが　その訳を
話してくれた

出征して　朝鮮の戦場で
一番仲の良かった
戦友が　弾に当たって
負傷した

戦闘中の　出来事なので
傷の手当ても　できずに
戦友を　残して
そのまま　前進しなければ
ならなかった

「必ず　戻ってくるからな」

父さんは　そう約束したけれど
結局　約束は　果たせなかった

その戦友が　負傷して倒れたのが
真っ赤に　花を咲かせた
百日紅の木の下　だった

血で染まった　軍服の色が
百日紅の　花の色と重なり
記憶に残ったようだ

窓越しに　目をやれば
丹前姿の　痩せた姿の父さんが　
満開の花を　じっと　
見上げている姿が
見えるような気がした

でも　天国に　行って
数年　すると　その姿も
見えなくなった

「きっと　戦友と　
天国で　巡り会えたのよ」と
母さんは　しっとりした
口調で　つぶやいた

百日紅は　この夏も
紅紫色の　あでやかな姿で　
父さんの霊を　慰めるように
庭で　咲き　踊る

人の魂の　痛みを
消せる　消しゴムは
現世には　無いのだろうか・・・

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