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展覧会レビュー:ブダペスト国立工芸美術館名品展

──酎愛零が展覧会「ブダペスト国立工芸美術館名品展」を鑑賞してレビューする話──

 どうも、月食を見ていたらすっかり冷えた私です。タコス!(くしゃみの音)

 以前の記事でもお伝えした通り、この秋冬に行きたい展覧会のひとつに行ってきました!

 今回は、東京都港区、パナソニック汐留美術館で2021年12月19日まで開催されている「ブダペスト国立工芸美術館名品展」です!パナシオ!😃パナシオ!😃

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歴史遺産、新橋停車場跡。パナソニック汐留美術館はその隣に建つパナソニック 東京汐留ビルの4階にある。

 パナソニック汐留美術館は、2003年に開館した美術館で、19世紀フランスの画家、ジョルジュ・ルオーの初期から晩年までの絵画および代表的な版画作品など約240点をコレクションしていることで有名です。常設展示「ルオー・ギャラリー」を持ち、ルオーに関連する企画展を開催するなど、私のようなルオー好きにはたまらない美術館です。また「建築・住まい」「工芸・デザイン」をテーマとした企画展も多く開催されていて、生活に密着したパナソニックという会社の側面を体現するような美術館でもあります。


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 今展覧会のリーフレット。これ自体もアール・ヌーヴォーぽいデザインで制作されている。すごく完成度が高い。


 アール・ヌーヴォー・コレクションで知られるブダペスト国立工芸美術館は、1872年に創設され、設立当初はハンガリー国立博物館から引き継いだ古美術品の「歴史コレクション」と、1873年のウィーン万博、1878年と1889年のパリ万博での購入品、およびヘレンド製陶所、ジョルナイ陶磁器製造所など有名企業からの寄贈品からなる「同時代のコレクション」を基盤としていました。ここをはじめとして、20世紀後半からは、ハンガリーの現代作家の作品を中心として収集が行われています。現在は大規模な改築工事中で閉館中です。まあ、だから巡回展示とかできるんですけどね。


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 ティファニーとエミール・ガレはわかるけど、ジョルナイって知らない。学んでいこう。


……と、その前に!おなかがすきまくりでこのまま展覧会に突入するのはやばい(現在13:30)。へたするとおなかぐーぐー鳴らしながら静かな展示室内を1,2時間徘徊することになるので、ここでお昼ごはんをたべる!✨😃✨


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 近くのビルにフードコートがあったので、トマトソース・オムライスのランチBOXを買ったよ!うまうま!😋


 さて、おなかもいっぱいになったので、いよいよ入館です。エスカレーターで4階まで上がり、受付でひとりひとり予約時間を確認します。予約の照合が済んだら、警備員さんの立っている前でマスクの確認と検温と手指の消毒。今まで巡ってきた美術館の中で最も厳重です。でも有無を言わさずきっちりしているところが( ・∀・)イイ!!


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〈蔦蔓葡萄文花器:ジョルナイ陶磁器製造所〉
(リーフレットより撮影)


 展示は全部で6章に分かれています。まずはヨーロッパが初めて日本や中国の工芸品と出会った頃、ジャポニスムの黎明期ですね。

 19世紀──1862年のロンドン万博、1867年のパリ万博(渋沢栄一が行ったあれです!)で出品された日本の文物は、瞬く間にヨーロッパのアートシーンに熱狂を巻き起こしました。その理由とは?

 この頃のヨーロッパのアートは、「歴史主義」とも呼ばれる、綿密な計算の上に成り立ち、形状から模様にいたるまで、偶発性の入り込む余地のないものでした。〈竹文ティーセット:ジョルナイ陶磁器製造所、ファイアンスフィーヌ〉に見られるような、一見東洋風の文様であっても、日本や中国の陶磁器のような余白の美や、自然にできた効果などはあまり感じられす、どちらかというとゴテっとした印象を受けます。また、東洋の生き物や伝説上の生き物などを完全には理解しておらず、ところどころにヨーロッパの似たもの(輪をくわえた獅子面がノッカーをくわえたガーゴイルになっているなど)と混ざっている部分が面白いところですね!

ファイアンスフィーヌ:イギリスのウェッジウッド社が展開する陶磁器「クリームウェア(のちのクィーンズウェア)」に対抗してフランスで作られた中上流階級向けの陶器。


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〈植物文栓付香水瓶:ルイス・カンフォート・ティファニー〉
(リーフレットより撮影)


 それから時代が下ると、それまで古代ギリシャ・ローマに範を取っていたヨーロッパの陶磁器は、東洋によく見られる「自然をかたどった」形を追及していくようになります。ひょうたんそのものの形を模している、ジョルナイ陶磁器製造所の作成した作品No.16の〈瓢形花器〉はその典型例でしょう。

 庭園の造り方を見ればわかるように、ヨーロッパ人にとって自然は従えるものでしたが、自然の中に生き、自らも自然の一部とする東洋の考え方が広く波及することになったんですね。

ジョルナイ陶磁器製造所:クロアチアと国境を接するハンガリー南部はバラニャ県の県都、ペーチに工房を構えた陶磁器製造所。


 また、作成中の偶然性を美として取り込むことにも挑戦し始めました。私が最も目をひかれた作品No.21の〈結晶釉花器〉では、真っ白な磁器に結晶釉をまとわせ、まるで雪原に降る雪のような模様を出すことに成功しています。結晶の成長は人間にコントロールすることはほぼ不可能ですから、これは東洋の陶磁器が得意としていた「偶発性の美」にほかなりません。

結晶釉:釉薬の中の結晶が核を形成して表面で大きくなり、はっきり目視できる釉薬のこと。通常の釉薬は微細な結晶が無数に集まり、マット(緻密)な質感となるため、視認はできない。



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〈黄色のヤグルマギク文花器:ジョルナイ陶磁器製造所〉
(リーフレットより撮影)


 表面をなぞるだけでなく、その美意識が何を根源として発せられているのかをつかんだ時、それまで異国趣味エキゾチシズムにすぎなかった流行は、日本趣味ジャポニスムとしてヨーロッパじゅうを席巻しました。その潮流は工芸、絵画、建築、デザイン、文学へと流れ込み、新しい芸術アール・ヌーヴォーの源流のひとつとなっていきます。

 特に作品No.47の〈アニス花文花器〉はまさしく同年代の日本で興った横山大観、菱田春草らの画風「朦朧体」をほうふつとさせる絵付けであり、また作品No.50、54の〈芥子花文花器〉は『あれれ、いくら目をこらしてもピントが合わないぞ』と思ってしまうほど妖しく幻惑的な仕事を見せてくれます。この二つは私いち推し、必見の作品ですよ!

朦朧体:日本画伝統の線描ではなく、色彩の濃淡によって形態や構図、空気や光を表す技法。最初は何が描いてあるのかわからないと酷評され、朦朧体という名称もやや蔑視の響きがある。



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〈竹文ティーセット:ジョルナイ陶磁器製造所〉
(リーフレットより撮影)


 今回の展覧会で私が思ったのは、まったく異なる文化、異なる美意識を、どうやって自分のスタイルに溶け込ませるか、ということでした。

 私も日々いろいろなものを見聞きして勉強するように努めていますけれども、そうした日々の中で「なんだこの価値観わ!(;゚Д゚)」とか「理解不能!(;゚Д゚) 理解不能!(;゚Д゚)」となってしまう価値観や美意識の持ち主と出会うことがあります。

 そんなとき──それまで自分のもっていた常識や尺度では測れない何かと遭遇したときに、どういう態度で接すればよいのでしょうか。考えるに、19世紀ヨーロッパの人も、全員が全員、もろ手を挙げてジャポニスムを受け入れたわけではないはずです。中には、なんて平面的なのっぺりした絵柄だ、と思ったりした人とか、虫やトカゲやカエルなどの絵をお皿に入れることに抵抗を感じた人とか、計算通りに製作できないなんて工芸じゃない、と思ったりした人とかがいたと思うんです。

 これは、時代や場所を問わずいつでも起こり得ることではないでしょうか。もちろん、受け入れられない価値観はありますし、自分の信条や美意識を貫くことが必要なときもあります。しかし、新たな美──未知なる美との遭遇が起きたときに、それを拒絶するか、学んで取り入れるかでは、アートの進化という意味ではどちらが有用でしょうか?


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〈多層間金箔封入小鉢:ドーム兄弟〉
(リーフレットより撮影)


 有用か否かでアートを論じるのは無粋かもしれませんね。

 それでも、私は、初めて東洋のアートに触れ、それを咀嚼し取り入れ、本質を理解することによって、ただ表面をなぞったたけのものではなく、ヨーロッパ人のヨーロッパ人による日本風の芸術的アプローチ──「ジャポニスム」が生まれたのと同じように、未知の価値観や美意識といったものを見つめ、理解したいと思うのです。たとえそれが脊髄反射で「これヤダ!キライ!(;゚Д゚)」となってしまうものでもです。目を背けていては見ることはできませんし、耳をふさいでいては聞くことができません。これは芸術の世界にかぎったことではなく、日常生活でも言えると思います。タブーとして臭いものに蓋をし続けていては、その蓋の下にあるものが本当はなんなのか、知ることもできませんからね。

 

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〈狩りをする雌ライオン像:ジョルナイ陶磁器製造所〉
(リーフレットより撮影)


 この時代に生きていた職人やアーティストが現代によみがえったら、ネット全盛の環境を見てどう思うでしょうか。情報の波に飲まれてしまうでしょうか?あまりにも違う価値観はさすがに拒否してしまうでしょうか?

 いいえ、きっとこう言うでしょうね。

『オッ、また新しい記事が更新されたか!どいつもこいつも、同じジャンルでもこうまで違う方向性とは、な!』『面白おもしれぇ!こいつとこいつの特徴を合わせれば、この層にウケるはずだ!』『オイオイオイ、どうやらあいつは生い立ちからしてフクザツみてーだな。上ッ面だけなぞっててもラチがあかねえ。こりゃあ分析のし甲斐があるぜェ!』『嬢ちゃん、アンタの作品はどうなんだ、エエ?見せてくれたら、飛びッきりの絵皿を焼いてやるぜ!』『おう、ガラスだったら、俺らに任しときな!』

 作品を鑑賞している間、ずっと、私は、試行錯誤する彼らの声が聞こえているような気がしてニコニコしていました。その声は、今でも……


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 最後に、私がもっとも目を引きつけられた作品をいくつかご紹介します。展覧会にお越しの際は、ぜひともご覧いただきたく思います。

作品No.12〈菊花に蝶文皿〉
 緻密に緻密を重ねてていねいに引かれた背景の斜格子文が圧巻。正確性と計算によって成し遂げられた大作。

作品No.21〈結晶釉花器〉
 雪原に降る雪の結晶のように美しい、白と白の競演であり協演。偶発性の美ここにあり。

作品No.32〈花器〉
 四耳花器(取っ手が前後左右に四つあるタイプの花器)。見た目が「ジョジョの奇妙な冒険」第3部に出てくる肉の芽ぽい。

作品No.47〈アニス花文花器〉
 幽玄という形容がふさわしい大作。日本画の朦朧体を思わせ、下に行くほど色が沈んでいく玄人好みの逸品。

作品No.50、No.54〈芥子花文花器〉
 ともに北欧スウェーデンはストックホルム、ロールストランド磁器製造所で製造されたもの。妖しくも幻惑的な絵付けは必見。

作品No.75〈水辺風景図花器〉
 影絵のようにガラスにガラスを重ねていった作品。夕暮れの風景も見事、水面に反射した風景もまた影絵で表現されている技巧が素晴らしい。

作品No.94-1〈花瓶 日本趣味文様花器〉
 文様うんぬんより形状そのものに注目。まさにコカ・コーラの瓶。四耳の取っ手が瓶の下の方についているのも特徴的でおもしろい。





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 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 それでは、ごきげんよう。

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