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海に落ちた記憶 蒲郡の海

海に落ちた記憶を

思い出そうとすると

蒲郡の海がでてくる

まだ小学校低学年くらいの頃

家族で蒲郡に行った時の事

当時蒲郡水族館の裏手には

船着場があって

僕はその船着場から

身を乗り出して

海の中を覗いていたんだ

空はどこまでも青色で

海はどこまでも緑色だった

きれいな海と呼ぶには

いささか無理のあった海だったが

なにかあれば父親にねだって蒲郡水族館に

遊びに連れて行ってもらっていた

海辺を散歩したり

竹島に向かって歩いたりしていたりすると

蟹がかさこそ動くのを見つけると

追いかけて上手く捕まえたりできると

両親に見せびらかして喜んでいた当時の僕は

蒲郡の海が大好きだった

磯の香りが強く漂う海だった

海藻類が砂浜に打ち上げられて

イソムシたちがざわざわと騒いでいた

蟹が岸壁の隙間や

海面のすぐ下を

かさこそ動いてるのを

見るのが好きだった僕は

その日も

何か動いてるものは

いないかなと

海の中を覗いていたんだ

貝類が張り付き凸凹の

岸壁を打ち寄せる波が

洗っていく

よく見えないから

腹ばいになって

さらに頭を海面に

近づける為にずいっと

身体をずらしたのが

いけなかった

頭と身体の比重の

バランスが崩れた時

自分の力じゃもはや

どうしようも無くなる事を

当時の僕は身をもって

思い知る事になったんだ

目の前にあった海面が

ゆっくりと岸壁から空へと

視線がずれていき

そのまま背中から

ばっしゃん‼️

あっという間の

出来事だった

スローモーションで

景色が流れていく

感覚というのは

不思議なもので歳月がいくら

過ぎようとも忘れないものだ

僕が海に落ちたのを目の前で

見ていた父親が慌てて

飛び込んできて

僕を助けてくれたエピソードは

何年か経った時に

母親から聞いた事だった

僕は泣きじゃくりながら

海亀がいたんだよぉ〜と

言い訳なのか恥ずかしさから

ヘンテコな嘘をついて

わんわん泣いていたそうだ

恥ずかしくて

怖くてびっくりした感覚を

子どもなりに色んな表現で

父親や母親に

見せていた様だ

蒲郡の海は当時の様な

野暮ったくてざわついて

哀愁が漂う砂浜や

船着場は失われて

しまったけど

それでも当時を思い出す

きっかけは風景の

そこかしこにまだ残っている

僕が人生で初めて海に落ちた記憶は

蒲郡で生まれ

それは今も僕の記憶の

中でぱちぱちと弾ける泡粒となって

懐かしい気持ちにさせてくれる

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