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不登校支援についての私の考え方の整理~大人が抱える困難性について~

 スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの活動の中で、不登校の支援をする時に、どういった状態を目指し、何を重視して、どう取り組んできたのかを整理してみたいと思い、文章にしてみました。
(※あくまでも私の視点を置いた文章です。他の人から見ると、色々なズレを感じられるかもしれません。この視点を受け入れていただけるかどうかはお任せ致します。)


不登校で目指す状態

・本人が自分や周りに安心を感じている状態。
・本人が心から楽しめることがあってそれを追求している状態。
・本人が嫌いなことがわかって、くつろげることができる状態。
・本人が多様な教育の機会を受けられる状態。多様な交流の場とつながっている状態。
・本人が学校に戻りたい希望がある場合は、戻ることができる状態。
 
などがあるかと私は思います。ほぼ斎藤環さんの受け売りになっておりますが、上記の目指す状態においては、学校に復帰することがゴールではなく、いったん大人の社会規範的なものは脇に置いて、本人が安心を感じて、主体的に活動できる環境を整えることが大切だと思います。その中で、教育の機会の確保も多様な選択肢の中から主体的に選択できる状態が作れるといいと思います。
というわけで、仮に不登校の状態でも多様な学びの機会があり、自分や周りへの安心を感じながら、主体的に活動している方は、「不登校」ではないと私は捉えております。
 

不登校の状況を改善していく上で、私が大切だと思うポイント


・周囲の大人(養育者、学校の先生、専門家等)が自分自身の心身の状態を自覚しているかどうか。
・周囲の大人(養育者、学校の先生、専門家等)が、落ち着いた状態で、本人と接することができているかどうか。
・本人や周囲の大人が、今起きている状態を「トラウマインフォームドケア」の視点や「ニューロダイバシティ」の視点、つまり、本人が閉じこもったり、回避行動をとったり、不安やイライラを感じやすいのは、自律神経系の防衛反応(ストレス反応、ストレス反応特性、トラウマ反応など)によるもので、決して「甘え」ではないし、自分の行動を理性的に制御するのが難しい状況にあることを理解した上で、サポートできているか。
 
などです。状況を良くしていく上で、私が大切だと思うのは、周りの大人の状態だと思います。まずは、周りの大人が自分の心身の状態を自覚し、落ち着いた姿勢で、本人と交流できるかがポイントになると思います。
家族療法の視点で考えると、いわゆる「問題行動((暴力、不登校、自傷行為、依存行為等))」は、関係性の中で一番弱い部分(子ども)に現れるので、関係性の中で強い立場にある大人の関わり方が子供に大きな影響を与えていると考えます。
 
子どもが「問題行動」をしているせいで、周りの大人がイライラしたり不安になっているという因果関係を逆に捉えている言説を、学校の先生や保護者の方からたまに聴くことがありますが、色々と関係者から話を聴いていくと、生育歴において、周りの大人との関係でストレスを持続的に感じていた状況や、トラウマ体験が浮かび上がってくると感じます。
 
関係性の中には、もちろん支援者である私も含まれているので、自分の心身の状況になるべく自覚的でありたいと思っています。定期的に自分の心や体の状態を言葉にして、安心できる場で話せるような環境を作っていきたいと思っています。また、深呼吸ができるような習慣(瞑想、散歩、ジョギング、筋トレ等)を整えたり、自分の状態を「心拍数(自律神経の状態)」や「皮膚電気活動(防衛反応の測定)」などで観察できればと思っています。
 
 

周りの大人が目指す状態


★ポイント:周りの大人がまずは落ち着いている状態が必要。
・自分の心身の状態を自覚することができる状態。
・自分が安心できる時間、落ち着く時間を作れている状態。
・他者に助けを求めることができ、誰かに自分の気持ちを聴いてもらう時間がある状態。
・呼吸を整えることができる状態:深呼吸、マインドフルネス、ヨガ等。
・落ち着いて、当事者(子ども)と交流をしている状態。

ご自身の心身の状況を確認するのに、自律神経の状態をチェックしてみることもお薦めです。
 




周りの大人の心理的な状況が最もキーポイントになると思います。子どもに関わっている大人が、なんからかの要因によって、不安やイライラを感じやすい状況や、こうするべきという考えが強かったり、無関心だったりすると、不登校の長期化が起きやすいと考えております。
ただ、今現在の大人の接し方が適正であっても、元々の特性(神経発達傾向や、HSC等)や、過去の経験(虐待やいじめ、持病等)の影響も考えられるので、本人の成育歴や、環境に対する反応特性のアセスメントも重要と考えます。
 
 

周りの大人が抱えている困難性


・仕事のストレス、多忙、育児のストレス、介護のストレス、家族関係のストレス等。
・経済的に困窮している。
・世代間伝播による不適切な療育を自分も受けており、それを再現している:・DV、虐待、過干渉、無関心。
・辛い離婚経験がある、夫婦仲の不和。
・ひとり親である、周りに頼れる親族がいない。
・精神疾患、薬物乱用。
・神経発達特性、HSPなどの特性。
・障害がある、持病がある。
・感情教育を受けてこなかった:自分の感情を言語化できない、人に相談できない。
・指導や指示、パターナリズムが染みついてしまっている。
・旧態依然としたコントロール性に価値を置く考え(体罰、ハラスメント、虐待、「昭和の非行対策モデル」をイメージした教育理念等)に囚われている。
 
等々、子どもが不登校の状況下において、大人自体が様々な困難を抱えており、心に余裕が持てない、子どもと安心を感じる交流ができない環境にあり、そういった環境が子どもに大きな影響を与えていることが少なくないと感じます。今子ども達が抱えている問題は、大人が抱えている問題を反映したものだと感じます。
実際にお話を聴くと、様々な事情により、大人が心に余裕がなく、寛容な態度で子どもと接するのが難しい状況があると感じます。
子どもと過ごせる時間をどれだけ作れるか、自身が落ち着いた時間をどれだけ作れるかには、大人の間で格差が発生していると感じます。
様々な困難を抱えやすい大人に寄り添って、どういった工夫や、サポート体制が作れるかじっくり丁寧に一緒に考えていく必要性があると私は感じます。
 
 

大人の抱える困難性がどうにもならない時はどうすればいいか


周りの大人(養育者、学校の先生、専門家等)が、自身の心身の状態に自覚的でなく、非常にストレスフルな状況で、自尊心や安心感が低く、不安やイライラを感じている状況は、事態を改善するうえでとても大きな壁になると考えております。
中々打開策が見いだせず、行き詰る感覚になることがよくあります。周りの大人へのアプローチが難しい、周りの大人が変わる見込みが無い場合は、児童生徒本人への心理的な支援をより強化したり、友人とのつながりや、安心できる大人とのつながりを強化できるといいと思います。
具体的には、傾聴を行える持続的な環境を作る。授業プログラムなどでクラスメイト同士での安心できるコミュニケーションができるグループワークを定期的に行う。フリースクールや居場所支援の団体とつながり、第三の居場所で信頼できる大人と交流し安心を感じられるような支援をするなどが考えられると思います。
ただ、こういった状況下では、本人へのアプローチも難しくなったり、第三の居場所へつなげるのも非常に困難になる場合があると感じています。危機的な状況においては、SSW、市町村の児童福祉課、児童相談所、児童民生委員、要保護児童対策地域協議会、医療、訪問看護などの活用も必要になってくると思います。
 
 

改めて私ができることを整理する


・本人へのサポート:傾聴、心理教育的なこと、聞き取りによるストレス反応のアセスメント、一緒にどうしていけばいいか考えること。継続的な関わり。本人の代弁。
・周りの大人へのサポート:傾聴、心理教育的なこと、聞き取りによるストレス反応のアセスメント、一緒にどうしていけばいいか考えること。継続的な関わり。
・当事者の児童生徒を中心に、関係者(養育者、家族、学校の先生、他の支援者)などが集まって対話をする場を作ること(オープンダイアローグ、未来語りのダイアローグ、防衛反応が起きずらい対話の場のファシリテーション等)
・第三の居場所につなげること:フリースクールや、居場所支援をしている民間団体につなげる。行政のサービスにつなげる。自分自身が第三の居場所を作っている人達と信頼関係を結ぶ。
・授業プログラムなどで、児童生徒の心理教育、お互いに安心を感じるコミュニケーションの促進。
・学校の先生の相談にのること、傾聴。校内研修で、学校の先生方への各種課題に応じた心理教育的なプログラムを実施すること。
・具体的な登校できない問題(いじめ、教師の不適切な対応等)がある場合は、それを改善する話し合いの場でのファシリテーターを行うこと。
 
などだと思います。
 
 

参考にしている考え方


・フィンランドの対話性(関係者が集まって、安心できる場で対話を続ける。コミュニティの自尊心を回復する。)
・トラウマインフォームドケア(関係者がその状況を理解し、連携して配慮できるようになる。)
・ポリヴェーガル理論(その行動は問題行動ではなく、防衛反応として起こっている。)
・ソーシャルワークの原理(人権の尊重、多様性の尊重、関係性の回復など)
 
などを私は参考にしていると思います。
私の中で、一番基本にあるのは「対話性」で、安心できる対話の枠組みの中で、なるべく関係者が集まって、お互いの気持ちや視点を共有したり、対話的な共同作業の中で、具体的な協力体制づくりの話し合いができるといいなと思っています。
 
  

ポリヴェーガル理論の観点から不登校を捉えると


ポリヴェーガル理論の観点から不登校を捉えると、不登校になる要因としては、具体的な強いストレスを受けた(いじめ、大人の不適切な関わり等)、生まれ持った特性(神経発達特性、障害等)、他者との交流で「安全」を感じる体験が不足しているなどが考えられると思います。
それらの要因によって、交感神経が過活動(誤作動)になり、回避して自分を守ったり、あらゆる関係をシャットダウンして自分を守る不登校という現象が起きると私は捉えています。
そこから抜け出し、回復に向かっていくには、第一には、他者との交流で「安全」を感じる体験の質と量を高めることがあり、それには身近な安心できる大人との交流が不可欠となってくると思います。次に、ストレス負荷のかかる環境自体をできる限り変えていく必要があると思います。そして、他者との対話を積み重ねていくなかで、自分の感情や考えを言語化し、自分をみつめる多様な視点を持てるようになり、自己調整ができるようになってくると思います。
 
 図に現わすとこんな感じでしょうか?


大人に説明するために自作した図(間違っていたらスミマセン)
小学生に説明する場合の図(注:お腹側、背中側は脳幹の前面、後面の意です。)


本人の安心感(≒自尊心)が下がっている時のお薦めのコミュニケーション


☆ポイント:存在承認。話をただただ聴く。一緒に安心を感じる交流を行う。

・相手の名前を呼んで挨拶する。 例)〇〇おはよう。※返事がなくとも気にしない。
・あなたのことをもっと知りたいという姿勢
例)「今何か話したいことはある?」「あなたの気持ちをもっと知りたい。何か言いたいことはある?」などの話す内容を限定しない声掛けを毎日できるとよい。
・評価や否定、解釈などはせず、ただただ話を聴く。
・子どもが特に何もしていない時に、「〇〇のこと大事に思っているよ」「〇〇のこと大好きだからね」などと定期的に伝える 。
・外に出かける誘いかけを定期的に行う。※断られてもよい。
・お願い事をする。例)お手伝いや、ご飯を一緒に作ったりなど
・時事ネタ、芸能ネタなど、軽い話、くだらない話をする。※あまり大事な話はしない。
・一緒に深呼吸をする、マインドフルネスをする、ヨガをする、散歩をする。
・一緒にのんびりなにもせず、ゆったり過ごす。※別々ではなく同じ空間で。
・一緒に歌ったり、踊ったり、一緒にスポーツやゲームを楽しんだりする。
・一緒に自然と触れ合ったり、一緒に何かを作ったりなどする。
・本人と関係が深い家族や支援者が集まって継続的にお互いが安心を感じるための対話をする(例:オープンダイアローグ)。
 
 

本人の安心感(≒自尊心)が下がっている時に控えた方がいいコミュニケーション


★ポイント:一方的に指示する、評価するなどのコントロール性の高いコミュニケーションは避ける、無関心は避ける。
例)ダメだしのみ、こうするべき、先回りして否定、親が求める結果しかほめない、正論、叱咤激励、大事な話、指示、指導、評価、アドバイスなど結論を大人が握っている発言は控えることをお薦め致します。

例)無関心、話しかけてきても応答しない、別のことをしながら片手間で話を聞く(スマホをみながら、ゲームをしながら等)

無関心な状態は、周りとの安心できる交流が損なわれ、本人に不安やイライラが起きやすい環境になってしまいます。
 
ここもほぼ、斎藤環さんの受け売りです。保護者の方が不安だったり、余裕がない状態、自分があまり存在承認されていないと、相手をコントロールしようという意識や無関心が高まる傾向があると感じています。
 
 

不登校という呼び方への違和感


文部科学省の通知(令和元年10月)にもある通り、『不登校児童生徒への支援は,「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく,児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて,社会的に自立することを目指す必要があること。児童生徒によっては,不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で,学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること。』とあるため、学校に登校できない状態自体(不登校)が望ましい状態ではなく、教育の機会が保障されず、本人が主体的に行動できていない状態が望ましくないということになると思います。ということで、「不登校」という言い方には、現状を捉える言葉としてズレを感じます。
何かこの状態を捉える別の言い方はあるでしょうか?「不登校」⇒「学びと主体性の危機状態?」「学校や家庭の環境が生み出すシャットダウン状態?」など考えてみましたが…新たないいネーミングがあるといいなと思います。
 
 ここまで、お読みくださいありがとうございました。

主な参考文献


・「ポリヴェーガル理論入門」ステファン・W. ポージェス(著)/花丘 ちぐさ(訳)春秋社 2018年
・『発達障害からニューロダイバシティへ~ポリヴェーガル理論で解き明かす子どもの心と行動』モナ・デラフーク著/花丘ちぐさ訳 春秋社2022年
・「トラウマインフォームドケア」 野坂祐子 日本評論社 2019年
・「こどものトラウマがよくわかる本」 白川美也子 講談社 2020年
・「オープンダイアローグ」ヤーコ・セイックラ、トム・アーンキル 日本評論社 2016年
・「オープンダイアローグ 私たちはこうしている」森川すいめい 医学書院 2021年
・「ソーシャルワークのグローバル定義 2014年」 日本ソーシャルワーカー連盟(JFSW)
・「北欧子育て7つの鉄則!自己肯定感を高める育児とは?」「Nord-Labo」youtubeチャンネル
・斎藤環さんの講演資料等

※上記の文章は、修正や変更などしていく予定です。
 


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