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小説

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超短編小説。短編小説。漢字一字シリーズなど。
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#短編小説

濁り、沈澱、上澄み(裏)

濁り、沈澱、上澄み(裏)

ありとあらゆる食べ物を口に放り込み飲み込む。そして全部吐く。後悔と罪悪感にひどく苦しめられるがやめることができない。泣きながら食べ泣きながら吐く。このことは誰にも言っていない。

夜、薬がなくては眠ることが出来ない。胸がざわざわしとても不安になる。自分が衝動的に何かをしそうになる。薬を飲むと落ち着くし眠ることができる。

私の体も心もおかしくなってしまった。心身ともに健康で元気だったのに、いつから

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濁り、沈澱、上澄み(表)

濁り、沈澱、上澄み(表)

妻は体調が悪いようだ。夜中に大量に食べ、食べたものを吐いているのを知っている。心の状態も関係しているのだろう。僕は気づかぬふりをしている。
妻は太ったり痩せたりして外見が変化していないから誰も異変に気が付かないだろう。

妻が精神科に通い薬を処方されているのも知っている。

妻の話を聞くのがいいのだろうと思うが妻とは会話が続かず、どう話せばいいのかわからない。いつのまにか、わからなくなってしまった

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妻が消えた日②

妻が消えた日②

 妻が突然消えた。警察にも届け、義両親や僕が知りうる妻の友人達にも聞いてまわった。皆、驚き、どうしてこんなことになったのか、どうしたらいいのかわからない状態だった。

 僕と妻がうまくいってなかったのでは、と思っている人もいた。僕から逃げたのでは?と。
僕が殺したんじゃないか、と疑っている人もいた。

 何を言っているのだろう、僕たちはなんの問題もなくうまくいっていた、幸せだったのだ。なんで僕がな

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妻が消えた日①

妻が消えた日①

 僕の妻ななみが消えた日のことは今でもはっきりと細かいところまで記憶している。
これから帰るとLINEをしてななみから返信もあった。

 僕が帰宅するとクローゼットが少し開いていてハンガーが床に落ちていた。部屋の灯り、エアコンもついていた。飲みかけのマグカップ。フライパンには炒め物。味噌汁も出来ていた。炊飯器もonになっていた。ついさっきまでここにいたのだろう。

 僕がプレゼントしたバッグがいつ

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何でもない日。みんなの12月某日①

何でもない日。みんなの12月某日①

 早期退職し実家に戻ってきた。これからは両親のフォローをしながらここでずっと暮らす。僕は独身で、幸いなことに両親は元気だ。老いた両親の為に実家をアップデート。欲しい位置に手すりをつけた。お風呂、トイレをリフォーム。使い勝手のいいように家具を移動したり、冷蔵庫とベッドを買い替えたり、室内の電球をLEDに取り替え、家の外の電灯も増やし、センサー付きのものにした。
 物置の中をチェックし不用品を処分した

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告白

告白

 「神さまはわたくしのことをお赦し下さるのでしょうか」

 「あなたは罪をおかしたのですか?」

 わたくしが通っている教会の神父さまは神父らしくいつも穏やかで落ち着いていて安心感を与えてくださいます。かなりご高齢の神父さまのお顔はたくさんの皺があり、顔のパーツが垂れ下がっていて、特にまぶたが瞳を少し隠しているのでこちらのことがちゃんと見えているのか不安ですが。
いつも同じ表情なので人形のようにも

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ライブ配信

ライブ配信

 みんなは私の赤ちゃん時代から現在まで知っているでしょ。ママパパは私が赤ちゃんの時から公開育児をしていたから。秘密なんてないよ。私が初めて、しゃべった日も歩いた日も乳歯が抜けた日も救急病院へ運ばれた日も自転車に乗れた日もパンケーキを作った日も留守番した日も、何もかも知っているよね。生まれた時からずっとこうだからこれが普通だと思っていた。いつもレンズは私を追っている。
 困ったことわからないことはい

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