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「考え、考えるだけでなくアクションを」 イスラーム映画祭5に行ってみて


こんにちは🕊

3月15日、渋谷のユーロスペースで開催されていた「イスラーム映画祭5」へ行きました。
この日観た映画は、「ゲスト:アレッポ・トゥー・イスタンブール」。シリア第2の都市アレッポから戦火を逃れ、トルコのイスタンブールへ向かう少女らの姿を描いた作品です。

映画の後には、考古学者でありシリア紛争被災者支援プロジェクト「イブラ・ワ・ハイト」の発起人でもある、山崎やよいさんによるトークショーもありました。

この日のことをTwitterに書いたところ、リツイートやいいねなどの反響をいただきました。
そこで、noteにまとめて書こうとずっと思っていたのですが、気づけば数週間が経ってしまっているという状態に。

どうしようかなと考えていた時に、新型コロナウイルス感染拡大の影響が、ユーロスペースなどのミニシアターにも及んでいることを知りました。

今回は、映画とトークショーを通して、わたしがミニシアターで出会った世界、考えたことについて、書いてみようと思います。


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「ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール」

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「ゲスト:アレッポ・トゥ・イスタンブール」は、トルコとヨルダンで2017年に作られた映画。
「イスラーム映画祭5」の公式ウェブサイトに掲載されている紹介を以下に引用します。

【物語】
爆撃で家族を失った8歳のリナは、幼い妹を連れ、隣人のマリヤムや友だちの家族と一緒にイスタンブールへ避難する。
シリアに帰りたがるリナは何かとマリヤムに反抗するが、ある朝全員で住み処を追い出されてしまう…。

【解説】
実際に難民の少女が主人公を演じている作品です。
幼い妹を必死で守ろうとする少女と、彼女を懸命に世話しようとする女性の物語が、“数”でしか伝えられないシリア難民それぞれの人生や尊厳について考えさせてくれます。


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⚠︎注意
詳しくは書いていませんが、以下ややネタバレにつながる部分もあります。
真っ白な状態で作品をご覧になりたい方は、次のセクションまで飛ばしてお読みいただければと思います。


映画を観ていて、とても不思議な感覚に襲われました。

作中で起きていることが、同じ世界、同じ時代のできごとだということ
いまこの瞬間にも、リナやマリヤムたちと同じような境遇を辿っている人たちがたくさんいること
人間に、これほどまでに「非人間的」なことができるということ

それがとても信じられなくて、頭で理解するのに時間を要しました。

一方のわたしは安全な空間で、静かにスクリーンに映された映像を観ている。
その姿は、まさに「傍観者」そのもの。

映画を「観る」という行為ことそのものが、「シリアで起きていることを目の前に、沈黙している国際社会」という空間を作り出しているようでした。


一方、この作品が伝えようとしてることは、ただシリア人が「かわいそう」であるという以上のものであることも感じました。

作中ではリナやマリヤムたちが、避難先のトルコで生計を立てようとする姿や、シリア人同士の交流も描かれています。そこにあるのは、まさに困難のなかでも日々を強く生きるリナたちの姿でした。
言葉にすると陳腐になってしまいますが、それらがきちんと感じられるのが、映画の、そしてこの作品のすごいところだな、と思いました。

それでも、最初から最後まで涙なしでは観られませんでした。


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映画は、個人的にはここでいちばん終わって欲しくないなあ、と思うところでエンディングを迎えました。
最後に全てが解決するわけでもなく、主人公たちに安全がもたらされたのか、幸せになったのかを知ることもできません。

ですがそこに、いちばんリアリティーを感じました。

わたしたちは、映画に「ハッピーエンド」を求めてしまいます。
作品を観終わった後に、どこかで安心したい気持ちがあるのだと思います。

ですが、現実は必ずしもそのようにはなりません。

シリアではいまも人びとが殺され続け、たくさんの人が故郷を追われています。
その現実に目を背け、物語の中でのカタルシスを求めるのは、もしかしたらあまりにも自己中心的なのかもしれません

もちろん映画にも、描けること、描けないこと、そして描ききれないことがあります。
その中でもこの作品には、(実際にそうした意図があるのかは分かりませんが) 映画の世界だけで完結させないような、現実に目を向けさせるような「仕掛け」を見出すことができました。


山崎やよいさんトークショー 「帰還できる日は来るのか」

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映画の後は、山崎やよいさんのトークショーが行われました。
題目は、「帰還できる日は来るのか」。ご自身がシリアに滞在されていた頃の経験を交えながら、現在のシリアで起きていること、それを取り巻く国際社会のことなどについて、お話されていました。


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作品で使われていたアラビア語のアレッポ方言に、「懐かしい」と語る山崎さん。考古学者として、かつてアレッポに暮らしていました。
用意した50枚以上の写真を見せながら、当時の人びととの出会いのほか、街や自然、そして発掘現場のことを紹介してくれました。

中心に13世紀に建てられたお城があるのが、アレッポの特徴。
ですがこの街も、激しい戦闘とアサド政権による包囲攻撃や残虐行為を経て、2016年12月、政権側が奪還しました。

アレッポ東部は、今でも壊滅状態とのこと。
「みんなどこかへ行ってしまった」と山崎さん。住宅はどこも空き家となっており、公園も草だらけのままの状態だといいます。

リナは映画の中で「シリアに帰りたい」と言っていたけれど、きっと帰れないだろうな、と思いながら観ていた
山崎さんの心の痛みがひしひしと伝わってくるその言葉は、ずっとアレッポに暮らしに寄り添い続けてきたからこそのものなのでしょう。


それでも山崎さんの知るシリア人は、「「前は良かった」と言わないで」と話しているとのこと。
国は国としてあるけれど、それとは別に、昔も今も、シリアの人びとはとても優しいということを強調していました。
「国とシリアの人を分けて見る必要がある」と山崎さんは指摘します。


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映画とトークショーがあったのは、3月15日。ちょうど9年前のこの日に、シリアでは人びとが「自由と尊厳」を求め、立ち上がりました。
ですが「このことが、各国の介入やIS台頭などによって忘れられている」と山崎さんは話します。

シリアで起きているのは、戦争ではない
反アサドを掲げる武装組織が人びとの声を汚してしまったと話す一方、いまシリアの人びとが直面しているのは、アサド政権とロシアによる虐殺だと山崎さんは断言します。


同国では、2014年ごろからISの支配も拡大。同じ年には、米国が主導する有志連合軍による空爆も始まりました。
しかし「ISもシリア戦争の本質ではない」と山崎さん。むしろ注目するべきは、平和的なデモを弾圧したアサド政権だと繰り返します。

特にシリアに対して、「対テロ戦争」という言葉を使うことに注意が必要だそうです。理由は、アサド政権の残忍性を見えにくくしてしまうから、とのこと。
「アサド政権は当初から、すべての反対派を「テロリスト」と呼んでいる。体制に反対する活動家が住む地域全体に爆撃することもある」


映画に出てくるシリア難民を巡る見方も、改めて考える必要があると山崎さんは話します。

例えば、わたしたちが日々目にするニュースでは、欧州の「難民危機」が取り上げられることが多い傾向にあります。
ですが、それよりも多くの数の難民が近隣諸国に逃れているほか、国内にもたくさんの避難民がいることを忘れてはいけないと言います。


シリアからの難民を最も多く受け入れているのはトルコ。UNHCRによると、同国には2020年4月現在、登録されているだけで358万人以上のシリア難民がいるそうです。

そのトルコの軍は2019年10月、シリア北部への越境作戦を開始。狙いの1つとして、国内のシリア難民の一部を帰還させたいという思いがありました。


これについて山崎さんは、「トルコの堪忍袋の尾が切れたようなもの」と説明。「難民が生まれる原因、理由を考えてほしい
シリアで難民が生まれ続ける根本原因に、国連をはじめ国際社会が全く触れてこなかったことが、トルコの行動に象徴されていると指摘します。

忘れられているのは、シリアの人びとの自由と尊厳


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最後に山崎さんは、「わたしたちの姿勢自体が問われている」と強く訴えました。難民を数字で語ることなどに、わたしたちの無関心が表れていると言います。

「平和というのは便利な言葉で、免罪符になる」と山崎さん。口にするだけでなく、行動を起こすことが大事だと話します。
ご自身も、困難な状況に置かれながらも声を上げ続ける人がシリアにいることを思い、それに応答する形で活動を続けているそうです。

考え、考えるだけでなくアクションを

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山崎さんの熱量のこもったお話に、わたしもA5ノート3ページ分のノートを取っておりました。
「国と人を別に考えるべき」という部分は、リビアにも同じことが言えるなあ、と感じました。


参考


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冒頭で触れた通り、新型コロナウイルス感染拡大の影響で現在、映画館に足を運ぶ人が減っているそうです。
中でも、ミニシアターは厳しい状態に置かれているところが多いとのこと。


渋谷や吉祥寺などにミニシアターを持つアップリンクでは、3ヶ月2,980円で映画60作品を観ることのできるサービスをスタート。
寄付込みの見放題プランもあるそうです。

わたしも申し込みをしてみました。観るのが楽しみな作品ばかりです。

政府に対して、新型コロナウイルス対策に伴う損失補填を求めるオンライン署名もあります。4月14日(火)の夜まで。


全国のミニシアターを支援する方法を、リストにまとめてくださっている方もいらっしゃいます。


なお、イスラーム映画祭5ですが、4月11日現在、名古屋は予定通り、神戸は秋以降の開催となるようです。
「ゲスト:アレッポ・トゥー・イスタンブール」をはじめとした作品、今後もご覧いただけます。

ただし愛知県も10日、県独自の緊急事態宣言を発令したとのことですので、今後変更があるかもしれません。最新情報はTwitter等をご覧いただければと思います。


考え、考えるだけでなくアクションを
そんな気づきを与えてくれた、ミニシアターという空間。
微力ではあるかもしれませんが、今度は自分が「アクション」をする番だと思いました。

ここまで読んでくださったみなさまにも、その思いが少しでも伝わっていれば幸いです。


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Also read:

リビアとシリア、比べられることも比べられないこともたくさんあります。その中でも、「わたしたちの姿勢が問われている」という点では共通していると考えます。
直近の戦争が20年近く続くアフガニスタンでも、人びとの尊厳が奪われ続けています。
「わたしたちが続けなければ、"彼ら"が力を持つ。ただ殺されるくらいなら、活動を続けるほかない」。現地で平和教育を続けるアジマールさんのお話しです。

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