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#エッセイ

頼りなく外へ出る|まちは言葉でできている|西本千尋

唐芋通信  記憶が確かであれば、子どもが2歳になるかならないかの頃、近所に住んでいた友人が、「奥田直美さんという方がね、編集していてね」と言って『ちいさい・おおきい・よわい・つよい』(『ち・お』)という育児書を見せてくれた[*1]。  「直美さんは、京都の西陣でね、ご夫妻でカライモブックスっていう古本屋をやってらして。直美さんが石牟礼文学に親しいことからね、カライモなんだって。カライモは、ほら、熊本とか、南九州の方言でサツマイモのこと!」「西陣で、カライモブックス、そうな

手を伸ばせば届きそうな幸せこそ限りなく遠い

晴れたあたたかい春の午後、満開の桜の下で、「死ぬなら今だ」とはっきり思った。別に生きていたくないわけではない。悲しいことも苦しいこともない。ただ、もし自分の命が終わるのだとしたら、この景色の中で死ぬのが良いなと思った。だって最高じゃん。こんな絶景の中で笑って人生の幕を閉じることができたなら、まさに卒業します!って感じじゃん。久しぶりに、たしかな望みを持った。 春に死にたくなる人が多いと聞いたことがある。五月病なんかとも関係があるのかもしれないが、詳しいことはわからない。春の

赤信号と猫の店

地元の市街地の車線も信号機も多い国道沿い。少し長めの赤信号のおかげでちょっとした楽しみをみつけたのは2年ほど前。 今ではそこの赤信号でひっかかることを期待しながら仕事帰りの車を走らせている。 そのお店は白い二階建てのつくりで、色あせた看板に店名、日用雑貨、文具などと大きくかいてあるのだが、外から見る限り商品らしきものは奥の方に少しだけしかない。 お店が閉まっている日は、ひと昔前お昼のサイコロトーク番組に出ていたライオンちゃんと、その奥さんと子どもたちであろう四人家族のライオ

「東京大改造」は持続可能な開発か?|まちは言葉でできている|西本千尋

 「クレーン車だね、いま、クレーン車あったよね、大きいねえ、いっぱいあるねえ。ビルもあったよねえ」3歳になったばかりの子が目を大きくして画面を見つめている。めずらしくわたしたちは、19時半に偶然、テレビの前にいた。NHKクローズアップ現代。特集は東京大改造[*1]。「ママ、まちづくりのテレビをやるの?」「うん、そうみたいだね」6歳はわたしの緊張を嗅ぎ取ったのか、静かに画面を見つめていた。 「東京大改造~大規模開発の舞台裏~」  渋谷、「100年に1度の大規模再開発」――。

人をはかる「ものさし」は一つじゃ足りない

進んでいることが「常に実感できる」「目に見えてわかる」というのは、案外難しいことだと思います。 「ちゃんと成長できているか」は、自分の中にある不安要素の一つ。人からいただく客観的な評価も大事にしつつ、できるだけ自分で自分と向き合う時間も確保するようにしています。 特に「数値化してはかる」のは重視している手段です。だけどそうやって「可視化できる数字が全て」と考え、それをそのまま成長曲線と捉えるのはなかなかシビアだったりする。 数字はなによりインパクトの強いものなので「頑張

自由とはなにか。

勤めている美術館には、ろうや難聴のお客さまがやってくることも多い。音声を文章化してくれるアプリケーション、『UDトーク』などを利用することもあるが、お客さまによっては声とジェスチャーだけでコミュニケーションを取ることもある。 つい先日も、立て続けにそんな2組のお客さまの来館を対応した。1組はUDトークを利用したが、もう1組は声とジェスチャーでコミュニケーションを取った。ぱっと見ただけでは判断しにくいため、他の場所に待機しているスタッフにも、念の為お客さまの特徴を伝える。

私には、私がいるから大丈夫

朝の満員電車で聴いた
 the pillowsの「funny bunny」が
 ここ最近の中で、何よりもエモかった。 満員電車で泣きそうになっている私。 これがドラマだったら、私が主演で視聴者が これまでの私の日々を見てくれているので 
一緒に泣いてくれる感動的なシーンになると思うんだけど、視聴者はいない。 だからひとりで噛み締める。 でもさ、こういう自分にしか分からない感動ってめちゃくちゃエモくないですか? 先日、会社を退職した。 詳細は以前の記事に書いてます ↓

『無職本』:「本のなかを流れる時間、 心のなかを流れる時間」全文公開

弊社が2020年7月に刊行した『無職本』の収録作の一作「本のなかを流れる時間、心のなかを流れる時間」(著:小野太郎)の全文を公開致します。小野太郎さんは数々の書店に勤めた経験を持ち、現在は福岡県北九州市で「ルリユール書店」を営んでいます。本を取り扱う現場を知る書店員ならではの本音や心の風通しを良くしてくれる数々の良書が紹介されているブックガイドとしてもオススメの一編となっています。 ※ルリユール書店では『無職本』及びその他取扱い書籍の郵送サービスをおこなっています。詳しくは

まざりのいた頃 -いつも そばに ねき がいた

子供のころ、猫を飼っていた。 最初は、母が知り合いから1匹の雄猫をもらってきたことがはじまりだった。その雄猫は、当時流行だった「アメリカンショートヘア」という種類に似ていて、シルバーの模様に、ふわふわした毛並みがしゃれていた。 私は小学校高学年くらいだったろうか。猫は好きだったので、素敵な毛模様の猫が来たことがとてもうれしかった。 雄猫がうちに来てしばらく経つと、「友達」を連れてくるようになった。母が、ガレージに、変な模様の猫がいるという。顔がどこにあるのかもわからない。も

下手でも苦手でも歌っていたい。

一人カラオケが楽しすぎて、もう毎日通いたいくらいには好きです。 毎週金曜日の仕事帰りに駆け込むカラオケボックスのオーナーさんに、 ついに常連さんとして認められてしまいました。 小学1年生のときに劇団四季のライオンキングを見てからというもの歌やダンスや表現に夢中で。 けれども何せ私は歌が決してうまいとは言えず、合唱部に入っていたときも大会メンバーに入れなかったりして、悲しい思いをしました。 それでも歌うことが、表現することが好きすぎる。どうしよう。 だからせめて歌い続け

いつか、ここではないどこかへ動くときが来たらちゃんと動き出せるように。

「問う」という行為を大切にしたいと思っている。他人に対してというよりかは、自分に対して。問い詰めるのではなく、もう少しやわらかな意味合いで。 自分の行動を制限されるしんどさを自覚するのは、おそらく制限されているときではなく、その制限が解除されたときだ。 人間は環境に慣れる生き物なので、はじめはつらいと感じても、徐々につらさを感じなくなる。個人差はあれど、人間には適応能力がある。 制限されていることが通常の状態で、制限される前の感覚は徐々に薄れてゆく。その人にとってそれが普

変わらないために変わる

「変化」はいつから「成長」を含意するようになったのだろう。 多様な価値観が入れ替わり立ち代わり現れる毎日に、すっかり慣れてきてしまっている。頼みもしないのに「これはどうですか」「それならこっちは」と声を掛けるようにして目の前に流れてくるそれは、まるで回転寿司みたいだなと思う。 欲しければ手に取ればいいし、取らなくてもいい。次がすぐにまた流れてくる。だが気になってしまう。自分の取らなかったお皿を手にした誰かが美味しそうにそれを口にしていたら。自分がそれを食べたいだなんて思っ

【きれいなものは、たしかにあるのだ】

やさしい気持ちで生きていたいのに、全然やさしくなれない。だからせめて、読んだ人がやさしい気持ちになれる文章を書いてみようと思う。 どういうものを読んでやさしい気持ちになるかは、人それぞれ違う。だからこれは、私の主観のお話。 * 頭のなかがいっぱいで、色んなものがいっぱいで、ぱんぱんに膨らんだ風船みたいに今にも破裂しそうだった。家のなかに籠っていると余計に苦しくなるので、思いきって外に出てみた。 ぬるい風が強く吹いている。晴れたり、曇ったり、お空も何だか忙しない。そうい

ありがとうと、ごめんなさいの気持ちが、いつもまとわりついている

と、つぶやこうと思ったんだけど、たぶん140文字でおさまらない気がしたので、とりあえずnoteの新規作成ボタンを押してみた。笑 だいたいツイートも、つぶやくことで、自分でさらに思いついてきて、つらつら連ねていることがよくあった。 文章を書く仕事をしている人間として、構成を考えずに書き始めることは、よくないのかもしれないけれど、自分のnoteは本当に即興で書いていることが多い。 いわゆる、ジャーナリング的な書き方なのかもしれない。頭に思いついたことを言葉にしていく中で、い