かしわもち 柏書房のwebマガジン

出版社・柏書房のwebコンテンツを掲載します。

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マガジン

  • 君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉

    中村達さんの連載『君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉』に関する記事のまとめです。[バナーデザイン=髙井愛]

  • 新刊速報

    柏書房営業部による「新刊速報」のまとめです。[イラスト=荒木(営業部)/バナーデザイン=見野(営業部)]

  • まちは言葉でできている

    西本千尋さんの連載『まちは言葉でできている』に関する記事のまとめです。[バナーデザイン=髙井愛]

  • 地下鉄にも雨は降る

    友田とんさんの連載『地下鉄にも雨は降る』に関する記事のまとめです。[バナーデザイン=小川恵子]

  • 鳥の鎮魂歌

    北田斎さんの連載『鳥の鎮魂歌』に関する記事のまとめです。[バナーデザイン=髙井愛]

最近の記事

第3回 中間航路を読む 奴隷船と底知れぬ深淵の記憶|君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉|中村達

「プランテーションの人びと」  フランス海外県マルティニーク島出身の作家エドゥアール・グリッサンは、現在のアメリカス(北アメリカ大陸と南アメリカ大陸、そしてカリブ海地域を含めた複数の「アメリカ」)という広大な地域に住まう多様な人種的・文化的背景を持つ人々を、「プランテーションの人びと」と呼ぶ[*2]。コロンブスによる新大陸の「発見」によってもたらされた非西洋との「遭遇」の後、西洋列強はカリブ海において砂糖やタバコ、コーヒー、茶、ゴム、綿花といった国際的に取引価値の高い単一

    • 新刊速報【2024年6月版】|柏書房営業部通信

       柏書房営業部です。本の世界では古書が高騰することがありますが、最近はレトロゲームが高騰しているようです。中古ショップにふらっと入ると、棚に並ぶソフトを見ながら、これ夢中でやってたなあとか当時難しくてクリアできなかったなあとかパケ裏にはこんなことが書いてあったのかなどなど思いつつ、遊ぶことのできるハードをもう持っていないのに、もう一度見るまで忘れていたのに、ソフトそのものを手元に持っておきたくなる奇妙な魅力がレトロゲームにはある気がします。ダウンロード購入が主流になった後の世

      • 「創造的復興」――能登から問い直す|まちは言葉でできている|西本千尋

         2024年3月中旬、長年、お世話になっているEさん(石川県金沢市在住)と一緒に、奥能登を訪れた。金沢から奥能登への道行は、砕石を運ぶトラック、自衛隊車両、警察車両、一般車が連なり、朝夕は渋滞も見られたが、ひとたびまちなかに入ると、あまりの静けさに驚いた。白い光に強い海風。Eさんが「ボランティアは平日だからこんなにおらんのやろか」と呟いた。道路啓開が済んでいても、道路のマンホールは跳ね上がり、道路の両脇には多くの倒壊家屋がそのままの状態だった。倒壊を免れた建物の玄関に、黄色「

        • 【最終回】手に負えない|地下鉄にも雨は降る|友田とん

           4月末の夜、テレビをつけていると大リーグのニュースが流れた。曰く、大谷翔平の出場するドジャースとダイヤモンドバックスの試合のはずが、球場のネットに大量の蜂が集まったため、安全に配慮して蜂の駆除を行い、試合開始が2時間近く遅れたという。衛星放送での試合中継では、その間蜂の群れが中継されていたらしい。大谷翔平の活躍を観ようとチャンネルを合わせた人々は思いがけず、蜂たちの活動をじっと観させられることになったわけだ。しかし、よく考えてみたら、大谷のプレイよりも、蜂の群れの動きをじっ

        第3回 中間航路を読む 奴隷船と底知れぬ深淵の記憶|君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉|中村達

        マガジン

        • 君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉
          3本
        • 新刊速報
          39本
        • まちは言葉でできている
          11本
        • 地下鉄にも雨は降る
          6本
        • 鳥の鎮魂歌
          3本
        • まとまらない言葉を生きる
          6本

        記事

          第2回 ホモ・ナランス 「遭遇」の記憶を物語ること|君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉|中村達

          「遭遇」の記憶  ジャマイカ人小説家・批評家のシルヴィア・ウィンターは、人間に固有な特異性として「物語る」能力を挙げている。彼女は批評活動を開始した1960年代には、カリブ海の文芸活動を主な執筆の題材としていた。しかし1980年代に入ると、彼女はいかに西洋が人類史を通して植民地的、そして帝国主義的な知見にもとづいて西洋中心的な人間科学を構築してきたかを考察し始める。この考察によって彼女がたどり着いたのが、批判的「人間」の系譜学である。この系譜学は、西洋がその想定する「人間

          第2回 ホモ・ナランス 「遭遇」の記憶を物語ること|君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉|中村達

          「わからないけどわかるよ」小沼理さん『共感と距離感の練習』はじめに全文

           2024年5月23日、小沼理さん初のエッセイ集『共感と距離感の練習』が配本となります。  「何か一緒につくりたいですね」――小沼さんとぼんやりそんな話をしたのは2023年4月のこと。都内の喫茶店。いま思っていることを互いに共有し合い、思いつくままにアイデアを出し合い、でもそんなに話は膨らんではいかず、会話も尽きかけた頃に、ふと「あなたに起きたことなのに」という言葉が私たちのあいだに浮き上がってきたのでした。  あなたに起きたことなのに、わがことのように思えてしまう。実際

          「わからないけどわかるよ」小沼理さん『共感と距離感の練習』はじめに全文

          新刊速報【2024年5月版】|柏書房営業部通信

           柏書房営業部です。先月の営業部通信にて「春がきました」と書いたのも束の間にわかに初夏のような暑さがやってきました。思わず「去年の今頃はこんな暑さだったか」という考えが過ってしまいますね。誰かと共通の記憶について「そういえばあれがあった頃じゃない」と話していると自然その頃の気候も思い出せたりするものですが、具体的なエピソードがないと意外と覚えていないものです。  さて、柏書房の今月の新刊は3点。人類学者が「不要不急」のフィールドワークから考えた、「和をもって極端となす」日本社

          新刊速報【2024年5月版】|柏書房営業部通信

          第1回 カリブ海作家と「記憶」との諍い|君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉|中村達

          「人間」の条件  1957年10月4日、ソ連は人類初の人工衛星であるスプートニク1号を打ち上げた。ハンナ・アーレントは『人間の条件』において、この瞬間を人類史的であったとし、当時の人々の狂騒をこのように解釈する。「この喜びは勝利の喜びではなかった。実際、人びとの心を満たしたのは、驚くべき人間の力と支配力にたいする誇りでもなければ、畏敬の念でもなかった。むしろ、時の勢いにまかせてすぐに現れた反応は、『地球に縛りつけられている人間がようやく地球を脱出する第一歩』という信念であ

          第1回 カリブ海作家と「記憶」との諍い|君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉|中村達

          【第5回】地方の地下鉄も見に行く|地下鉄にも雨は降る|友田とん

           地下鉄の駅構内で見かける漏水対策を追うフィールドワークの連載も5回目である。前回は東京メトロのいくつかの路線と駅を見て回るうちに、東京メトロとビルの境界や出口など、周縁にこそ管理し尽くされていない、興味深い漏水対策が現れるという傾向に私は気づいた。そして、同じ周縁というならば、地方の漏水対策も見て回ろうと思い立ったのだ。  ちょうど、地方へ行くのに好都合な状況が整っていた。私は今、ひとり出版社を営んでいて、本を販売する機会があれば、全国各地に出店するようにしている。用もない

          【第5回】地方の地下鉄も見に行く|地下鉄にも雨は降る|友田とん

          新刊速報【2024年4月版】|柏書房営業部通信

           柏書房営業部です。寒さが消え東京は今年も春がきました。春と言えばみなさん何を想像しますか。開花、冬眠明け、新生活……突然きかれるとステロタイプな回答しかなかなかできないものです。さて、柏書房の今月の新刊は2点。動物学者がもしエイリアンがいたとしたらその姿や生活スタイルがどのようなものになっているのかを科学的に考察する『まじめにエイリアンの姿を想像してみた』、かつて科学者になる夢をあきらめた著者が、憎んでいた科学と「和解」し、女性の観点から科学を見つめ、科学の観点から女性の体

          新刊速報【2024年4月版】|柏書房営業部通信

          奇妙なふたり|シミズくんとヤマウチくん――われら非実在の恋人たち|清水えす子【試し読み】

           2024年3月に、山内尚[漫画]+清水えす子[文]『シミズくんとヤマウチくん――われら非実在の恋人たち』が発売となりました。  この記事では特別に、本書の第2話に収録されている清水えす子さんのエッセイ「奇妙なふたり」を公開します。ご一読いただけたら幸いです! 奇妙なふたり  いわゆる「おつきあい」をはじめたとき、私たちは女性同士のカップルだった。外からは疑いなくそう見えていただろうし、自分たちでもそう思っていた。あのころ私はクィアな大人たち(自分自身も成人はしていたが

          奇妙なふたり|シミズくんとヤマウチくん――われら非実在の恋人たち|清水えす子【試し読み】

          新刊速報【2024年3月版】|柏書房営業部通信

           柏書房営業部です。今年の冬はとても寒くて長い、というわけでもなく気温が乱高下して合わせるのが大変な日々、着るものをどうするか悩んでいる人も少なくないのではないでしょうか。さて、柏書房の今月の新刊は2点。ノンバイナリーの著者が、ままならない「装い」の問題に絵とことばで向き合った『ノンバイナリースタイルブック』、名づけがたくかけがえのないパートナーシップを、漫画とエッセイ二つの形式を交差させ描く『シミズくんとヤマウチくん――われら非実在の恋人たち』です。 『ノンバイナリースタ

          新刊速報【2024年3月版】|柏書房営業部通信

          新刊速報【2024年1月版】|柏書房営業部通信

           柏書房営業部です。2024年初の営業部通信の更新になります。本年も弊社の刊行物をよろしくお願い致します。さて、柏書房の1月の新刊は1点。ウェブマガジン『ニッポン複雑紀行』初の書籍化企画、『密航のち洗濯』です。 『密航のち洗濯』宋恵媛 文 望月優大 文 田川基成 写真  『密航のち洗濯』は本日1月10日(水)の配本です。ニッポン複雑紀行さんの下記の記事にてこの本の成り立ちなどについて詳しく書かれております。こちらもぜひご一読ください! 連載更新のお知らせ また昨日、友田

          新刊速報【2024年1月版】|柏書房営業部通信

          【第4回】管理台帳の姿を想像しながら|地下鉄にも雨は降る|友田とん

           地下鉄構内の天井からの漏水をビニールシートで受け、チューブを伝わせ、バケツやボトルに集める。ただそれだけのことであるはずなのに、どうして私はいつまでもこの漏水対策というものに惹かれ続けているのか。取り憑かれたように写真に収めており、やればやるほど、もっともっとと興味が湧いてくる。  前回(第3回)は、梅雨時6月6日に新宿三丁目駅から永田町駅まで丸ノ内線に乗って、接続する路線も含めて駅構内や出口をくまなく観察して回った。設置されたばかりの漏水対策を観察し、対策に付与されたナン

          【第4回】管理台帳の姿を想像しながら|地下鉄にも雨は降る|友田とん

          【第3回】火の鳥|北田 斎

          バンドメンバー以外でただ一人の親友  メレンゲはフジファブリックとほぼ同時期にメジャーデビューしたバンドだ。繊細でどこか中性的だが感情をはらんで張り詰めるヴォーカルと、飴のように文法を曲げながら独特の言語感覚で書かれた歌詞、スピッツなどからの影響を感じさせる瑞々しくポップで美しいメロディを特徴としていて、音楽性はフジファブリックと共通する部分はあまりない。だがフロントマンであるクボケンジと志村正彦はお互いに「大親友」と呼びあう仲だった。2002年ごろ、下北沢か新宿のライブハ

          【第3回】火の鳥|北田 斎

          【第2回】飛べない蒼い鳥のための鎮魂歌|北田 斎

          冬の墓標  はじめて出会った鳥の鎮魂歌は、ひとりのミュージシャンの死を縁取るようにたちのぼったいくつかの歌だった。死の爆心地に立つ見えない墓標、そこに刻まれた日付は2009年12月24日。刻まれた名はフジファブリック、志村正彦。  志村は1980年7月10日、山梨県富士吉田市に生まれた。中学三年の夏、初めて観た地元のライブで奥田民生に憧れてミュージシャンを志す。ロックミュージシャンというと派手な衣装のイメージだったのに、Tシャツにジーンズというラフな格好で、「不況にならな

          【第2回】飛べない蒼い鳥のための鎮魂歌|北田 斎