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新刊速報【2024年9月版】|柏書房営業部通信

 柏書房営業部です。なんと55年目に突入しました。ところで「55」という数字を見るとみなさんは何を思い浮かべますか、と書くと、ここから「55」にまつわる何かが書かれていく流れに見えますが、「55」という概念がない人にどうすれば55年目であることを伝えられるか、というような妄想をつらつら書きそうになりましたので、やめます。とはいえ、調べてみましたところ、当社では55刷を迎えている書籍はなさそうでした。残念。
 さて今月の柏書房の新刊は1点。人種的マイノリティ、統合失調症患者、ホームレス、トランスジェンダー……アジア系移民のニューヨーク精神科医として出会った患者たちの、要約できない人生の断片をつづるエッセイ集『ニューヨーク精神科医の人間図書館』です。


『ニューヨーク精神科医の人間図書館』

ナ・ジョンホ 著
米津篤八 訳

【営業担当・荒木から一言】
 仕事柄頻繁に訪れる池袋駅の地下通路にはホームレスの方々がよくいる。私は無意識のうちに、目を伏せて、かれらがいない側の通路を歩くようにしていた。その人がどんな人生を歩んできたのかも知らずに……。
 本書には、著者が出会ってきた、様々な人生を持った、様々な境遇の患者たちが登場する。元弁護士のホームレス、元医師のアルコール依存症患者、虐待のトラウマに苦しむ20代の青年、うつ病と自殺念慮に苦しむトランスジェンダー女性……それぞれが抱えている病や障害、属性だけを見れば、「なんだか難しそう」だったり「可哀想」だったり、「違う世界」の話にさえ思えてしまいそうだ。
 それでも、「人間図書館ヒューマンライブラリー」の利用者になったつもりで彼らの物語を読むと、いつの間にかできた溝が埋まっていくのが分かる。自分の知らない事柄や他人に対し、無意識の偏見や先入観を抱き、負の烙印スティグマを押し付けてしまうのは、人間のさがというものかもしれない。しかし、私はこの本に、どうしようもない人間の性と向き合う勇気をもらった。会話を重ね、お互いを理解しようとすることで、無意識の偏見や先入観、スティグマを乗り越えていけるのかもしれないと。
 身の回りの誰かを、あるいは自分を傷つけてしまう前に、この本を読んでほしい。

 下記リンク先にて本書より2篇、試し読みとして公開中です。ぜひ読んでみてください。

 『ニューヨーク精神科医の人間図書館』は、9月19日(木)の配本予定です。

受賞しました!

『密航のち洗濯』「第46回講談社 本田靖春ノンフィクション賞」を、『コロナ禍と出会い直す』「第33回 山本七平賞」をそれぞれ受賞しました。まだの方はぜひこの機会にチェックしてみてください!

連載もヨロシク!

 現在は中村達さんによる『君たちの記念碑はどこにある?――カリブ海の〈記憶の詩学〉』、水上文さんによる『クィアのカナダ旅行記』、李琴峰さんによる『虹はいまだ旅の途上』の連載が更新中です。本になってまとまる前のライブ感は、連載にしかない!

 来月の新刊は1点を予定しております。それではまた次回もよろしくお願い致します。


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