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社畜精神の起源?―ウェーバー先生に聞く資本主義の精神と脱魔術化―


(アイキャッチはウィキペディアより)

野口雅弘 「マックス・ウェーバー」中公新書(2020)


序論

 本日はウェーバーに関する抄録です。マックス・ウェーバーといえば、人文学系では誰もが知る人物ですよね。本書によれば、外国からも日本におけるウェーバーの人気ぶりには驚かれるそうです。昔から熱狂的なファン()がいますし、不朽のアイドルって感じですかね…知らんけど(小声。

私も彼に関する知識は、学問における価値中立と近代資本主義をプロテスタンティズムから解析したイカツイおっさんぐらいの程度のものでした。しかし、彼の生涯を一瞥すると、ユグノーの末裔である母と国民民主党に属し、ビスマルク信奉者であった父の狭間で彼が苦悶していたことに気づかされます。それがのちの学問への姿勢に反映されていったとのことでしたが。

過労や長年の家庭内での緊張状態と父の急死が相俟って精神病を患ったり、父への反抗心からか、ドイツ民主党から立候補してみたり、血筋は争えないのか、騎士道クラブに加入して決闘してみたりなど、彼の波乱万丈の人生には「おもしろさ」があります。まぁ、当時のドイツ人らしくもあり…(叩かれそう。

余談はさておき、今日まで屡々引用される近代資本主義精神の分析を彼は実際にどう見ていたのか。本書を頼りに少し追ってみることにしましょう。

本論

 ピューリタンは仕事人間たろうとした…というのも、禁欲的な修道士の生活から仕事の生活へ移行されて、世俗的な道徳を支配しはじめたと。また、今度は、無機的な機械的生産・経済的条件に結びつけられた近代的経済秩序の世界観へ昇華させた云々、世俗に染まりきった我々からしたら、禁欲的プロテスタンティズムの時代背景はなかなか想像しづらいかもしれませんがウェーバーはその「宗教性」にも着目したわけでやはり慧眼です。

ベンジャミン・フランクリンの「時は金なり」という有名な格言に触れて資本主義の分析をしていた箇所は大変印象深かったです。要言すれば、かの格言のような精神は、正当な利潤をBeruf(仕事)として組織的かつ合理的に追求するという心情が近代資本主義的企業にもっとも適合しかつ、強力な精神的推進力となったという歴史的理由を反映したものだと…。なるほど、「Beruf」つまり、ルターらの宗教改革で台頭してきた「天職」という概念も今や勤労者の動機から霧消し、勤勉・勤労・合理性の経済的活動を良しとしたもの…という感じでしょうか。

『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』の執筆途中で、資本主義の最たる国、アメリカに訪問されていたそうで、資本主義の未来をそこで見たのでは?と著者は述べています。大変興味深い記述でしたので、メモがてら引用を

こうした文化発展の最後に現れる「末人たち」にとっては、次の言葉が真理となるのではなかろうか。「精神のない専門人、心情のない享楽人。この無のものは、人間性のかつて達したことのない段階にまですでに登りつめた、と自惚れるだろう」と。

同書 p.87-88

精神のない専門人への警鐘。反資本主義の旗手、マルクスらの常套句でもありますが、資本主義の代弁者とされるアダム・スミスらも絶えず警鐘を鳴らしています。ここに新奇性は見いだせないでしょうが、見事な表現と文章で読者に訴えるさまに魅了されますよね。

これに関連して、彼はまた宗教的な研究の中で「脱魔術化」について語っています。つまりは知性主義が呪術的信仰を凌駕すればするほど、人は生きる意味を切実に求めるとのことです。
脱魔術化の用語は西洋中世史家阿部謹也氏はじめ、ヨーロッパ中世史関係の書籍で多くみかけるように思えますが、ともかくなかなか鋭い着眼点だと思いますね。

彼は下半期になると宗教問題に注力したようで、この分析も関連して捉えておくことは重要でしょう。多くの人に読まれるだけあって、切れ味は抜群です。

んーにしても、阿部謹也氏の著作での当用語の記述は、どの文献にあったのやら…。ど忘れしてしまいましたw詳しい方がいらっしゃったらご教授ください(ペコリ。

結論

 労働に関する議論も多くの人に歳月を要して議論されていたことが分かる話でしたね。ウェーバーはとりわけ極端に走らない堅実な労働哲学として読む価値があると私は感じます。それでいえば、ジンメルなんかも似たような感じですかね。時代も近いですし。

如何せん、社会学に関しては全く持っての門外漢なので、選出センスには自信がないです。すみません。本書はこの他にも社会学では頻出人物なんかも登場しますのでそちらの方面で関心がある方も是非。

また、冒頭で述べた価値中立ないし価値自由について、「観点」の自覚をウェーバーは強調していたとあり、主観的な価値判断を否定していたわけではないそう…などなど、彼の主要理論についても盛りだくさんなので、ウェーバー推し過激派にはだいぶ受けがよさそうです(言い方。

社会人として、何かしらの再魔術化ないし自己催眠がされているのだろうな。惰眠を貪るのが私の取り柄ですが…(曲解不可避



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