燈 虚呂(とう ころ)

2024年1月から一次創作小説を投稿しています。ジャンルは百合文芸、現代文芸が主になる…

燈 虚呂(とう ころ)

2024年1月から一次創作小説を投稿しています。ジャンルは百合文芸、現代文芸が主になるかと思います。時折小説の練習代わりに、日常の描写を目的とした文章を載せるかと思います。

記事一覧

小説を書くようになって本当によかったと思えたこと

 私は現在、七月末に締め切りのある公募へむけて一本の長編小説の執筆に取り組んでいる最中です。  執筆をはじめて二ヶ月近く。初稿を上げ、そこからまた第二稿に向けて…

別れの季節、ひとり酒

 家で一人で酒を飲んでいる。この文章も飲みながら書いている。一人だからアテは焼き豆腐を焼き肉のタレにつけながら少しずつ食べる、という至って簡素なものだ。半分に切…

池の水面

 一人で自宅から近い広い公園にやって来た。公園には大きな池があり、そばにはベンチやテーブルが備えられていて、休日ということもあり沢山の人が座って話したり飲食した…

自分は空っぽだな、と毎日思う。なにかしら書くことでしかこの空っぽを満たすことはできないが、書き出すまでの諸々の準備が進まなくて、少なくとも一次創作にはなかなか着手できない。無尽蔵に書けるようになりたいなあ。

遺書のなりそこない、が出てきた話

 気まぐれに昔書いていたメモを読み返していたら、かつての自分が書いた遺書のようなものが出てきた。  当然、この記事を書いている現在自分は生身で生存しているので、…

【短編小説】マリアの死

(7640文字)  マリアが死んだ。  死体は部屋のすぐそこ、棚の手前に転がっている。砕けた身体は飛散して、酷い惨状を呈している。 「マリア……」  何時間にも渡って…

【短編小説】嘘つきと約束

(7234文字)  しんしんと降り積もる雪に足をとられないよう気をつけながら、早足で自宅アパートを目指す。自室に帰宅して、電気をつけると、そこには高校時代の友人が、…

【短編小説】この世の果て、その先まで

(17853文字)  最後の大粒の一滴がわたしの瞳からこぼれて落ちていくのがスローモーションで見えたとき、視界の端にスニーカーを履いた二本の足が現れた。異様だと感じ…

小説を書くようになって本当によかったと思えたこと

 私は現在、七月末に締め切りのある公募へむけて一本の長編小説の執筆に取り組んでいる最中です。

 執筆をはじめて二ヶ月近く。初稿を上げ、そこからまた第二稿に向けてブラッシュアップしている日々です。これだけ長いこと一本の作品と向き合いつづけたことは未だかつてなかったのですが、そのはじめての経験のなかで、たくさんの気づき・感じたことがありました。

 そのなかにはネガティブな感情も含まれています。「俺

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別れの季節、ひとり酒

 家で一人で酒を飲んでいる。この文章も飲みながら書いている。一人だからアテは焼き豆腐を焼き肉のタレにつけながら少しずつ食べる、という至って簡素なものだ。半分に切った焼き豆腐を箸でうすく割いたその切れはしをタレにほんの少しだけつける、という動作がちょっと刺し身を食べているのに感覚が近くて、味が単調なのはともかくとしてなんとなく気分がいい。

 幅広で、側面がゆるやかに湾曲している形のグラスに、缶から

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池の水面

 一人で自宅から近い広い公園にやって来た。公園には大きな池があり、そばにはベンチやテーブルが備えられていて、休日ということもあり沢山の人が座って話したり飲食したり休んだりしている。それらを挟むようにフードやドリンクを売っている屋台が出ていて、私は屋台でビールとやきそばを買い、池際のベンチに座った。右手には池が見え、左手にはテーブルやベンチが見え、正面にはフェンスに寄りかかるようにしながら池を見てい

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自分は空っぽだな、と毎日思う。なにかしら書くことでしかこの空っぽを満たすことはできないが、書き出すまでの諸々の準備が進まなくて、少なくとも一次創作にはなかなか着手できない。無尽蔵に書けるようになりたいなあ。

遺書のなりそこない、が出てきた話

 気まぐれに昔書いていたメモを読み返していたら、かつての自分が書いた遺書のようなものが出てきた。
 当然、この記事を書いている現在自分は生身で生存しているので、この遺書は不要になったわけである。ただ、読み返していたら当時のことをつらつらと思い出して感慨深くなり、また今だからこそその文章から見えるものもあった。せっかくだしここに記事にして、無用の長物となった(いずれ必要になるとしても、その時はその時

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【短編小説】マリアの死

(7640文字)

 マリアが死んだ。
 死体は部屋のすぐそこ、棚の手前に転がっている。砕けた身体は飛散して、酷い惨状を呈している。
「マリア……」
 何時間にも渡って、何度もその名前を呼びかけているけれど、当然のことながら彼女は答えてはくれない。
 立ち上がろうにも全身に力が入らない。なにもできず、する気にもならず、へたり込んでいるところへ、スマホが鳴った。職場の斉藤麻由美先輩からの電話だった。

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【短編小説】嘘つきと約束

(7234文字)

 しんしんと降り積もる雪に足をとられないよう気をつけながら、早足で自宅アパートを目指す。自室に帰宅して、電気をつけると、そこには高校時代の友人が、高校時代の背恰好で居た。
「うわ! ミカが……お、大人だ!」
 わたしの顔を見るなり驚いた顔でそう声を上げた彼女の、まだ子どもっぽさを多分に残したその表情は、紛れもなく高校時代のセイナとしか思えなかった。そんな彼女は、制服姿でこたつに

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【短編小説】この世の果て、その先まで

(17853文字)

 最後の大粒の一滴がわたしの瞳からこぼれて落ちていくのがスローモーションで見えたとき、視界の端にスニーカーを履いた二本の足が現れた。異様だと感じたのは、その足が校則では禁止されている色付きのソックスを履いていたからだ。ソックスは見目鮮やかなピンクで、その色彩に一瞬目がくらむような気がしてぼーっと見惚れていたら、
「暇そうだね」
 という、ハスキーなよく通る声がしたから、見上げ

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