家で一人で酒を飲んでいる。この文章も飲みながら書いている。一人だからアテは焼き豆腐を焼き肉のタレにつけながら少しずつ食べる、という至って簡素なものだ。半分に切った焼き豆腐を箸でうすく割いたその切れはしをタレにほんの少しだけつける、という動作がちょっと刺し身を食べているのに感覚が近くて、味が単調なのはともかくとしてなんとなく気分がいい。 幅広で、側面がゆるやかに湾曲している形のグラスに、缶からビールを注ぐ。底に液体が落ちるそばからシュワシュワーー、とサアァーー、とのあいだ
一人で自宅から近い広い公園にやって来た。公園には大きな池があり、そばにはベンチやテーブルが備えられていて、休日ということもあり沢山の人が座って話したり飲食したり休んだりしている。それらを挟むようにフードやドリンクを売っている屋台が出ていて、私は屋台でビールとやきそばを買い、池際のベンチに座った。右手には池が見え、左手にはテーブルやベンチが見え、正面にはフェンスに寄りかかるようにしながら池を見ている人たちが居る。 「池を見ている」と言っても、その視線の向く先は様々だ。水中を
自分は空っぽだな、と毎日思う。なにかしら書くことでしかこの空っぽを満たすことはできないが、書き出すまでの諸々の準備が進まなくて、少なくとも一次創作にはなかなか着手できない。無尽蔵に書けるようになりたいなあ。
気まぐれに昔書いていたメモを読み返していたら、かつての自分が書いた遺書のようなものが出てきた。 当然、この記事を書いている現在自分は生身で生存しているので、この遺書は不要になったわけである。ただ、読み返していたら当時のことをつらつらと思い出して感慨深くなり、また今だからこそその文章から見えるものもあった。せっかくだしここに記事にして、無用の長物となった(いずれ必要になるとしても、その時はその時の自分が新しく書くだろう)遺書のなりそこないを供養してやりたい。 簡単にこの遺
(7640文字) マリアが死んだ。 死体は部屋のすぐそこ、棚の手前に転がっている。砕けた身体は飛散して、酷い惨状を呈している。 「マリア……」 何時間にも渡って、何度もその名前を呼びかけているけれど、当然のことながら彼女は答えてはくれない。 立ち上がろうにも全身に力が入らない。なにもできず、する気にもならず、へたり込んでいるところへ、スマホが鳴った。職場の斉藤麻由美先輩からの電話だった。 「はい」 『鈴木さん? 今どこにいるの?』 「自宅です」 『自宅?』 「はい」
(7234文字) しんしんと降り積もる雪に足をとられないよう気をつけながら、早足で自宅アパートを目指す。自室に帰宅して、電気をつけると、そこには高校時代の友人が、高校時代の背恰好で居た。 「うわ! ミカが……お、大人だ!」 わたしの顔を見るなり驚いた顔でそう声を上げた彼女の、まだ子どもっぽさを多分に残したその表情は、紛れもなく高校時代のセイナとしか思えなかった。そんな彼女は、制服姿でこたつに足をつっこんでいた。 あまりのことにしばし唖然としてしまったわたしだったのだけ
(17853文字) 最後の大粒の一滴がわたしの瞳からこぼれて落ちていくのがスローモーションで見えたとき、視界の端にスニーカーを履いた二本の足が現れた。異様だと感じたのは、その足が校則では禁止されている色付きのソックスを履いていたからだ。ソックスは見目鮮やかなピンクで、その色彩に一瞬目がくらむような気がしてぼーっと見惚れていたら、 「暇そうだね」 という、ハスキーなよく通る声がしたから、見上げると声の主はやっぱり二ノ倉さんだった。一週間ぶりに会う二ノ倉さんは相変わらずだっ