【短編小説】マリアの死

(7640文字)

 マリアが死んだ。
 死体は部屋のすぐそこ、棚の手前に転がっている。砕けた身体は飛散して、酷い惨状を呈している。
「マリア……」
 何時間にも渡って、何度もその名前を呼びかけているけれど、当然のことながら彼女は答えてはくれない。
 立ち上がろうにも全身に力が入らない。なにもできず、する気にもならず、へたり込んでいるところへ、スマホが鳴った。職場の斉藤麻由美先輩からの電話だった。
「はい」
『鈴木さん? 今どこにいるの?』
「自宅です」
『自宅?』
「はい」
 しばし沈黙の後、先輩は、えーっと、と困ったように続ける。
『もうとっくに出社時間過ぎてるわけだけども』
 時計に目をやると、時刻は9時半を過ぎていた。出社時間は9時。
「30分、過ぎてますね」
 と、わたしは見たままを言った。
『30分、過ぎてるよ』
 と、先輩も鸚鵡返しに言った。
 そして訪れる、ふたたびの沈黙。
『なにか、あった?』
 麻由美先輩が尋ねてくる。若干腫れ物に触るようなトーンだった。
「マリアが死んだんです」
 わたしが言うと、先輩が絶句したのが電話越しでも分かった。
『マリアって……』
「人形です」
 わたしは正直に答えた。
「フランス人形です。磁器製で、瞳は青いガラス玉で出来ていました。ピンクを基調としたきらびやかなドレスに、頭にはファシネーターをかぶっていました。10代半ばぐらいのかわいらしい少女を模した容姿をしていました。
 棚の上に、ケースに入れて飾ってたんです。なのに、昨夜帰宅したら、棚から落ちていたんです。粉々に砕けていたんです。なにがあったんでしょうか。気付かない間に大きめの地震でもあったんでしょうか。ネズミでも入り込んでぶつかったんでしょうか。
 なんにしても、マリアは死んでしまったんです」
 わたしが話し終えた後、しばらく間があってから、
『鈴木さん、昨夜から寝てないの?』
 と先輩が尋ねてきた。
「はい」
『ご飯は? 食べた?』
「いいえ」
『そう』
 先輩がフッと息をつくのが聞こえた。
『とりあえず、今日は鈴木さん、体調不良でお休みってことで伝えておくから』
「はい」
『しっかり寝て、しっかり食べること。いいね』
「はい」
『じゃあ、明日から土日休みだから。ゆっくり休んでね』
「はい」
 そうして、電話は切れた。わたしはスマホをほとんど落っことすように放ると、また力なくへたった。
 マリアの亡骸を見る。ガラスケースの破片とともに砕け散った頭部の磁器は粉々で、その中には目玉だっただろう青いガラスの破片も散見された。四肢もバラバラになって転がっている。窓から差し込む朝日を反射してキラキラと煌めいていて、それがなおのこと、目の前の光景の悲惨さを強調していた。
 やがて日が陰ってきて、電気もつけていない部屋は暗くなる。外では雨が降り始めたようで、サァーっと、イヤホンのノイズのような音が絶え間なく聞こえはじめた。暗がりの中でもマリアは当然のことながら横たわっていて、乱れたドレスとファシネーターのシルエットがかえって生々しかった。
 不思議なことに、それらを見ていても、なにも思わなかった。なにも感じなかった。
 マリアは、ずっとわたしの友達だった。透き通るような白い肌に映える青い瞳はずっと見ていられた。めったに触れることもなくて、事情があって触らなければならないときは慎重に慎重を期していた。それぐらい大事にしてきた。そんな彼女が、壊れてしまった。死んでしまった。だというのに、なにも感じない、悲しくも思えない自分は、きっととても薄情なんだと思った。 
 どれぐらいの時間が経っただろう。外はすっかり暗くなってしまって、つまりは部屋の中も真っ暗で、マリアの姿も見えなくなっていた。何も動かない、音もしない部屋の中で、骸があるはずの方にぼんやりと視線を向けたままでいると、突然、静寂を裂くようにインターホンの音が鳴り響いた。
「真莉亜。いるんでしょー」
 麻由美先輩の声だ。「おーい」と言いながら、先輩は2度、3度とインターホンを鳴らした。
「あ、鍵開いてる。入るよ〜……うわ、真っ暗!」
 扉が開いて部屋の中に人が入ってくる気配がして、やがて明かりがつく。暗闇が突然明るくなって、眩しさに目を閉じないではいられなかった。
「おお……真莉亜、なかなかひどい! 髪はぼさぼさ、クマもひどいし。その分だとまだ何も食べてないし寝てもないね〜。メイクも昨夜から落としてないんでしょ」
 ようやく目を開けると、麻由美先輩は呆れたような表情でわたしの顔を覗き込んでいた。鼻筋が通った端正な顔が、すぐ目の前にある。キレイだと思った。そして、したたか酒臭かった。
 麻由美先輩は、普段はおしとやかで優しい先輩だけれど、酒を飲むと人が変わる。かなり豪胆な性格になって、周囲を巻き込んでは結構な無茶をするようになる。それに、普段はわたしのことを『鈴木さん』と呼ぶのに、酒が入ると『真莉亜』と呼び捨てになる。
「せ……ンン、先輩、ずいぶん酔ってますね」
 わたしは辛うじて声を出す。半日ぶりの発声で痰が絡んでしまった。
「そりゃさあ、今日はハナキンですよ〜? 職場のみんなで飲んでたんだけどさ、ふと真莉亜はどうかな〜、元気してるか〜? って思ってライン送ったのにさぁ。アンタ見てないでしょ〜」
 スマホを見ると、たしかに何件か通知が入っていた。
「心配だから飲み会抜け出して様子見に来てあげたんだよ。感謝しなよ、まったく」
 そう言って彼女は、手に持ったビニール袋をがさごそとまさぐった。
「とりあえず、なんか食べない? おにぎり買ってきたよ〜」
 麻由美先輩が手に持った辛子明太おにぎりを差し出してくる。正直とても食べる気分にならなくて、そのように答えようとした瞬間、ぐう〜、という間抜けな音が鳴った。わたしのお腹は正直だった。先輩は、アハッ、と吹き出した。
 ソファに腰掛けて、二人しておにぎりを食べる。ちょうど24時間ぶりに胃に食べ物が入ってきて、お腹の中心から全身のすみずみにまで熱が広がっていく感覚を味わった。
「あれがマリアちゃんねぇ」
 散乱したままのマリアを見て言った後、麻由美先輩はおにぎりを頬張る。彼女は一口が大きくて、もごもごと頬を膨らませて食べる姿は豪快で漢らしく、でも少しかわいらしくもあった。
「あのままにしておくの?」
「いえ……」
「そうだよね。あのままじゃ棚の方に近づけないもん。アクセサリー取ろうとするたび足の裏ケガする羽目になるよ〜」
 そう言ってあっという間におにぎりを食べ終わると、麻由美先輩は、よし、と立ち上がった。
「危ないし、片付けちゃおう。箒とちりとりどこ〜?」
「あ……」
 行こうとする先輩を、わたしはとっさに服の裾をつかんで止めた。ちょうど、振り返った彼女に真上から見下ろされるような体勢になる。ただでさえ長いまつ毛が余計に強調される。
「なぁに?」
「あの……」
 わたしは、どうして彼女を止めたのか、どうしてマリアを片付けて欲しくないのか、自分の中でもよく分かっていなかった。それでも口をもごもごさせて、なにかを喋ろうとする。
「なんというか……感じないんです、なにも……」
 やがてわたしの口から飛び出したのは、なんの整理もついていない言葉の数々だった。
「子どもの頃から大事にしてたんです……壊れちゃって……『死んじゃった』って、思ったんです……でも、思っただけで、じゃあ悲しいのかどうかって、よく分からなくて……所詮モノだし……壊れることはあるし……でも力がうまく入らなくて……頭、真っ白なままで……」
 まとまりがなくて、何も説明できていなくて、そもそも自分の中に答えらしいものもなくて。ただ空っぽな胸の中から虚ろな言葉を引っ張り出しているような、意味のない文言を並べ立てた。
 麻由美先輩は、うーん、と頭を傾げた後、
「よし、分かった」
 と言った。
「葬式、してあげよう」
「え?」
「マリアちゃんの、そ・う・し・き。ちゃんと弔ってあげなきゃね」
 そう言うと彼女は、ズカズカと台所の方へと行く。えーと、とか、これじゃないなぁ、とかぼそぼそ言いながら、勝手に人の家の食器置きを探り始めた。
「え……なんですか?」
「いやさぁ。なんか大きめの器あらへんかなぁ思てなぁ」
 なぜか関西弁になりながらがさごそやっていた麻由美先輩は、「これでいいや」と言って、大きめの鍋と、箸を2膳持って戻ってきた。
「真莉亜、これ借りるからね」
「何に使うんですか?」
「棺桶兼、骨壺代わり」
 そう言ってぐいっと箸を手渡してくる。わたしはなにを思う間もなくそれを受け取った。
「葬式で、骨を箸で拾うのに、どんな意味があるか知ってる? あの世とこの世の『橋渡し』するってことなんだって。本当は兄弟とか、親子とかで二人一組になって拾うんだけど……今回は特別にわたしがタッグを組んで上げよう」
 麻由美先輩はマリアの死骸に向かって「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ」と手を合わせた後、マリアの足だったものに箸を伸ばした。けれど、うまく摘めなくて何度も落としてしまう。ぼんやりと見ていると「ほら、真莉亜も」と言われて、慌ててわたしも箸を伸ばす。磁器の肌はやっぱりつるつるしていて重さもあって滑ってしまって、なかなか摘めない。数分かけて、麻由美先輩と一緒になんとか足を一本、摘み上げることができた。それを大鍋の中に放り込む。そしてまた、次の破片を拾いにかかる。
 そうしてちまちまとマリアの破片を拾って行って、30分以上かけて、ようやく大きな破片はあらかた拾いきることができた。
 わたしたちはなにをやっているんだろう。第一、これじゃ骨上げじゃなくて肉片上げだ……割れたガラスケースと細かくて拾いきれない破片が散らばる床を見ながらそんな風に思っていると、「よし、次は」と、麻由美先輩は手を打った。
「えっと、そうだな。納棺、とか通夜、とか告別式、とか色々すっとばしてるけど……ああ、火葬する前に骨上げしちゃったんだ。そもそも火葬もできないか。なんかもう、順番もなにもめちゃくちゃだな。……いや、もういいや」
 ぶつぶつ言っていたかと思うと、彼女は大鍋から、今度はさっきまでおにぎりが入っていたビニール袋にマリアの身体をひょいひょいと移していく。そして立ち上がって、玄関に向かった。
「え、ちょっと、待って下さい」とわたしは慌ててその後を追う。
「どこに行くんですか?」
「どこでもいいよ、土があるところなら。あ、目の前に公園あったよね?」
 靴を履きながら、麻由美先輩は、にへら、としている。
「真莉亜、スコップとかうちにある?」
「す、スコップ? 一応、ありますけど……」
「じゃあ持って来て」
 一方的にそう言うと、先輩はさっさと扉を開けて出て行ってしまった。わたしは急いでスコップを取りに行ってから、つっかけを履いて外へ飛び出す。
 雨は止んでいた。どんどん進んでいく麻由美先輩を追って、小走りに駆けていく。
 アパートの目の前の公園に入ると、先輩はスマホのライトで地面を照らしながらうろうろし始める。「なにする気なんですか」と尋ねると、「お墓を立てるんだよ」と返ってきて、同時に真っ暗闇に麻由美先輩の顔がぼうっと青白く浮かび上がったものだから、ぞっとした。漆黒の闇に包まれた公園が、本当に墓場のど真ん中であるように思えてきて気味が悪くなった。先輩は墓場を彷徨う霊的なものに魅入られてしまって、こんな突飛なことをやり始めたんじゃないかとさえ思った。
「ここなんか良さそうね」
 そう言いながら彼女がライトで照らしたのは、ツツジが咲いている花壇の手前の地面だった。
「ほら、真莉亜。スコップ」
 と、ここほれワンワンよろしくそこの土をツンツンと指さす先輩。わたしはとにかく、事を済まして早く自宅に戻りたい一心で、そこを掘り始めた。
 雨に降られたばかりの地面はぬかるんでいて、比較的簡単に掘ることが出来た。大体5cmくらい掘り進めたところで「もういいよ」と先輩が止めて、マリアの入ったビニール袋を穴に入れると、ふたたびそこに土をかぶせるように指示される。わたしは言われるがままに従った。
 こんもりと小さく土の山をつくったところで、
「ええと……これがちょうどいいか」
 と麻由美先輩がポケットから取り出したのは、アイスの棒。『あたり』と書いてあるそれを、先輩は土山に思い切り刺した。
「こいつが、墓標」
 先輩はパン、パン、と柏手を打つようにして手を合わせると、それをおでこ辺りに持って来て、
「なむあみだぶつ」
 とまた唱える。わたしもそれに倣って、同じように手を合わせて、心のなかで唱えた。
 なむあみだぶつ。

 帰宅するとすぐ「さあ、次は真莉亜が身体を清める番だよ」と浴室に押し込められた。シャワーを浴びて出てくると、先輩はソファに突っ伏すようにして眠っていた。大いびきをかいている彼女にすっかり呆れながら、わたしも布団を広げた。丸2日近く寝ていなかったことと先輩に振り回された数時間の疲れがあいまって、布団に入るなりあっという間に意識は遠のいていった。
 目が覚めたのは、翌朝の8時ちょうどだった。パチッ、と音がしたんじゃないかというぐらいにまぶたがしっかり開いて、スッキリとした目覚めだった。わたしはすぐに身体を起こして伸びをすると、窓の方へ行って、カーテンを開け放った。
「んん……」
 差し込む朝日の眩しさに麻由美先輩も目覚めたと見えて、うめき声を上げる。ぐしぐしと目をこすると、上体を重たげに持ち上げて、大あくびをした後、ぼんやりとした眼差しでこちらを見てきた。
「おはよう……」
「おはようございます、先輩」
「……あれ。なんでわたし、鈴木さんのうちに居るんだっけ……?」
「覚えてないんですか?」
 わたしはすっかり呆れてしまって、大げさにため息をついた。
「ああ、思い出した。たしかマリアちゃんが死んじゃってて……だから葬式を上げて……は? 葬式?」
 と自分で自分の行動の理解不能さに頭を抱えだした先輩を尻目に、わたしは水を飲もうと台所へ向かった。すると、視界の隅っこに輝くものが見えて、わたしはその方を振り向いた。
 目を向けた先は棚の手前の床。そこは昨夜までマリアがバラバラになって転がっていた場所で、拾いきれなかったガラスや磁器の細かい破片が、朝日の光を反射して、青やら赤やら橙やらに、キラキラと煌めいていた。
 その光景は幻想的で、キレイで、儚くて。同時に、わたしは実感した。
 ああ、そうだ。
 マリアはもう、いないんだ。
 今まで、頭にはあってもぼんやりと実体のなかったそんな思念が、今朝はやけにストンと胸に落ちてきた。すると、様々な思いが、感情が、大切な思い出と一緒に溢れ出てきた。
 物心ついてはじめてマリアと会ったときの、あのみずみずしい感動。キレイだと思った。少し、怖いとも思った。『さわってみていい?』と、おばあちゃんに聞いた。おばあちゃんは、その皺に覆われた、でもだからこそ柔らかな手でそっとわたしの頭に触れて、『壊れやすいから、大事にね』と優しく囁いてくれた。ケースから取り出して手渡されたとき、その重さに驚いた。落っことさないように慎重に支えながら、マリアの顔に触ってみた。すべすべしていて冷たくて、透き通るように白かった。青い瞳のなかにはたくさんの星がまたたいているように見えて、絵本に出てくる宝石みたい、と嬉しくなった。髪の毛はふわふわしていて、ドレスはサラサラしていて。ひとしきり彼女の身体を、服を、髪を帽子を、大切に愛でたわたしは、顔を近づけて挨拶したんだ。
「よろしくね、マリア。大好きよ」
 石油ストーブの香り、窓から差し込む光のカーテンに浮かぶ無数の輝きの粒たち。それらと一緒に胸の奥底に仕舞われていた記憶が、いっぱいに広がっていった。
「真莉亜」
 麻由美先輩の声で、我に帰る。視界は滲んで揺らめいていて、目尻からはとめどなく熱いものが溢れて、頬を伝っているのが分かった。
「マリアは、わたしが生まれた日におばあちゃんが買ってくれたんです」
 涙を拭くのも忘れて、わたしは言葉を紡いだ。
「わたしと同じ名前をつけてくれたんです。わたしの両親が転勤族でしょっちゅう引っ越ししてたから。おばあちゃんの家にも”まりあ”がいるんだよ、って。おばあちゃんは傍にいなくても、いつでも見守っているよ、って。
 わたしがマリアと会えるのは、年に一度、正月におばあちゃんの家に遊びに行ったとき。いつ行ってもマリアは綺麗にお手入れされていて、とても大事にされているのが分かって、それが自分のことまで大切にされている気持ちになれて、とても嬉しかったんです。大好きでした、マリアも、おばあちゃんのことも」
 頬に柔らかな感触があった。いつの間にか麻由美先輩が傍にいて、ハンカチをあてがってくれて、優しく、そっと拭いてくれていた。その手つきはまるで、大切な人形を丁寧に手入れするようだった。
「仕事の内定が決まって、上京して一人暮らしすることになったとき、わたし、マリアを連れて行きたいって、わがままを言ったんです。おばあちゃんは、快く許してくれました。『今まで真莉亜だと思って大事にしてきたけれど、真莉亜はおばあちゃんだと思って、どうか大事にしてあげてね』って。言われた通り、毎日手入れをして、大事にしてきました。
 去年、おばあちゃんが亡くなりました。突然のことで、葬式をして火葬して、骨になった姿を見ても全然、実感が湧かなくて。悲しい気持ちも、寂しい気持ちも、あまり起こらなくて。ただ、一層、マリアのことがおばあちゃんそのもののように思えるようになったんです。だから、前にも増して大切にしていたんです。そのつもりだったんです。
 でも。そのマリアまで、いなくなっちゃった」
 身体が包まれる。先輩が、抱きしめてくれていた。背中に回した手で擦ってくれて、もう片方の手で頭を撫でてくれた。
「悲しかったんだね。悲しい気持ちから、自分を守ってたんだね。でも、もう大丈夫。もう全部、吐き出せる」
 その手つきに、声に、言葉に、ますます感情が溢れ出して、わたしは麻由美先輩の胸の中で声を出して泣いた。あられもなく泣きじゃくって、先輩の胸元をびしょびしょに濡らしていった。わたしが延々と泣き続ける間、先輩はずっと抱きしめて、擦って、撫で続けてくれていた。
 
 ひとしきり泣いて、泣き止んだあと、わたしたちは公園に行って、墓からマリアを掘り起こした。その足でデパートまで行って、小さめの壷を買い、それを骨壺代わりにして、マリアを納めた。
 来週には、久しぶりに帰郷して、おばあちゃんの仏壇にマリアの入った壷を供えて、マリアをおばあちゃんにお返ししたいと思う。そうしたらきっと、天国でまた、おばあちゃんがマリアのことを大切にしてくれるはずだから。二人して向こうから、わたしのことを見守ってくれると思うから。

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