12/6 帰る場所

「ただいま」  我ながら酷く機嫌の悪い声で呟いた。手には無惨な姿になったお気に入りの傘。その傘片手に私も無惨にびしょ濡れだった。  背後の玄関のドア越しにまだ嵐のような雨の音が響いている。 「おかえりー。って、あらあら。やられちゃったわね」  私の声は届いていなかっただろう。ドアの開く音で走りよってきたゆいさんは準備良くタオルを手にしていた。傘の形ではなくなってしまった傘をどうにか収めようとしている私の濡れた髪をゆいさんが拭いてくれている。 「この傘お気に入りだったのに」  

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12/5 茜暮し

 あまりにのんびりと休日を過ごしてしまった私たちは夕方になってやっと買い物に出ることにした。夕飯の買い物だ。何もない時はこうして2人でスーパーへ行く。「何食べたい?」とか「お腹すいたねぇ」とか、何気ない会話を交わす時間が心地よかった。  買い物を済ませて帰路に着く頃には空は茜色に染まっていた。足元から伸びる影がなんだか懐かしい。ふと立ち止まって影を見つめているとゆいさんが振り向きざまに名前を呼んだ。 「はるか。」 「はい。」 「影踏みでもやる?」 「やんないよ。早く帰ってご飯

12/4 陽に透ける

 カーテンの隙間から漏れる光が強くなってきていた。ゆっくりと身を離したゆいさんが起き上がってカーテンを開けた。部屋の中を照らす光が眩しい。私は目元を覆って光を遮った。  窓の前でのんびり大きく伸びをするゆいさんの、大好きな長い髪がふわりと揺れる。直毛の私と違ってゆるやかなウェーブを描いている。その髪が光に透けて金色に光った。私は思わずその髪に手を伸ばす。 「ゆいさんの髪、きれい」 「そう?」 「ふわっとしてて柔らかいの、すき」 「はるかが素直なの、珍しいじゃない」 「私はいつ

12/3 目覚めから幸せ

 ゆいさんの温かい腕に包まれていつの間にか眠ってしまっていた。何度か寝返りを打ってごろごろしているとふと視線を感じ眠たい目を擦りながら目を開ける。ゆいさんがこちらを眺めてにこにこしていた。 「もう…起きてたなら起こしてよ。」  少し恥ずかしさを覚えながら口にする。 「かわいい寝顔だなぁって、観察してたの。はるかって睫毛長いなぁとか、こんな所にほくろがあったのね、とか」  私の頬にしなやかな手を伸ばしあやす様に撫でるゆいさん。私は更に恥ずかしくなって布団に潜る。するとくすくすと

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12/2 離床を阻む温度

「ん…はるか〜…?」  唇を重ねてからしばらくゆいさんの寝顔を眺めて堪能していた私の名前を、ゆいさんがまだ寝惚けた様子のくぐもった声で呼ぶ。  私はいつもの要領で「はいはい」とゆいさんの身体を抱き寄せた。  と、同時に、まだ寝惚けているとは思えない程の強い力でゆいさんが私の身体を抱き留める。驚いて顔を覗き込むとゆいさんは寝惚けながらもふにゃりと楽しそうに笑っていた。  ぴったりとくっ付いた身体からゆいさんの体温が伝わってくる。温かい、優しい温度。平熱が低めの私には、いつでも

12/1 夜明け前のないしょ

 ふと目が覚めた。暖かな布団の中でもぞもぞと寝返りをうつとカーテンの隙間から漏れる薄明かりの中、ゆいさんの寝顔がうすらぼんやりと見える。  私たちは一緒に暮らしてはいるけれどそれぞれ自分の部屋がある。もちろん私の部屋にもベッドがある。今はゆいさんのベッドの中だし最近はもっぱら一緒に眠ることが多いけれど。  徐々に目が慣れて薄明かりの中でもゆいさんの顔が見えるようになってきた。スヤスヤとまだ夢の中にいるゆいさんの、柔らかそうな唇に視線が留まる。いつも軽率に私にキスをしてくる唇だ

『定時にあがれたら』に胸がドキドキする理由

こんにちは。 LGBTQライター・なつめれいなです。 LBGTQだからというわけではありませんが、最初に紹介する作品はこれにします。 犬井あゆ先生の『定時にあがれたら』です。 同じ会社で働いているふたりのオトナ百合主人公は水城さんと湯川さんのふたり。 彼女たちは同じ会社で働いている同僚です。 といっても、水城さんは企画部で湯川さんは営業部。 なので、同じフロアでもあまり接点はありません。 そんなふたりはある出来事をきっかけに仲良くなります。 それは、水城さんが自分の

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