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雑文

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デュエプレに一ミリも関係ないことを書きます
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続・時の流れに思うこと

続・時の流れに思うこと

先日、私は31歳の誕生日を迎えた。

30歳を大きな節目に感じていた私は、そこから1年もの時間が流れてしまったことに喜びはなく、どちらかといえば憂いに近い感情を抱いていた。

節目のことで言えば、2年前の春に7年連れ添った恋人と別れてしまったできごとは大きく、そこからの経過で時間の質量を測ろうとする頭がある。

29歳でそれまで描いていた未来が砂浜に書かれていたかのようにあっさりと霧消してしまって

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Fireworks of the star

Fireworks of the star

 私のスマートフォンにメッセージが届くことはほとんどない。

それが立て続けに2件届いて、そのどちらも電話を求めるものだったから、いい予感はしていなかった。

日課にしているゲーム配信を切り上げて一人に相槌のメッセージを返すと、すぐさま電話がかかってきた。

友人の声はいつものふざけた様子がこれっぽっちもなく、初手からはっきりと、何かが違った。

そもそもが夜中の11時に電話をしてくるようなタイプ

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短文の練習④~音楽がいた~

短文の練習④~音楽がいた~


FIVE NEW OLD - Sunshineちょうどこれを書く5年前のことだ。

地方のIT会社に新卒入社して2年目の頃だった。

いわゆる上司ガチャを盛大に外した。

入社25年の表彰を受ける課長は、相手が新入社員だろうと部長だろうと気に食わなければ噛みつく人間で、その姿は時折本当に狂犬のように見えた。

年末に1年365日を振り返って、この人が怒鳴り散らさなかった日はあっただろうかと考えた

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酒神に捧ぐ我が酒の記①

酒神に捧ぐ我が酒の記①

 大人になって「これはよかったな」と思うことはたくさんある。

たとえばお金。

小さい頃から無神経な母に、如何に我が家にお金がないかの話をされて育ったから、自立して自分の手の届く範囲で金銭の管理ができるのは気が楽だ。

親の許にいた時のどうにもコントロールしようのなかったもどかしさを、すべて自分の責任で処理することができるのは、成長の自負にもなる。

たとえば移動。

いくら私がインドアな人間だ

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短文の練習③~虫の歌~

短文の練習③~虫の歌~

 洗濯物を取り込みに外に出た。

春という季節の境目はもうすっかり曖昧で、緑がかかった初夏の様相を流れる空気に感じる。

風に流されてよろめいた羽虫が一匹、引き寄せられるように窓に張り付いた。

進みたいその先を隔ててしまうガラスが人工的な壁となり、実家に住んでいた頃に二度鳥がぶつかったことを思い出した。

地面に落ちてしまったその躰を見下ろしたことだけは覚えている。

死んでしまっていたのか、失

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かすみ

かすみ

※この物語はフィクションです

「もうすぐお風呂が沸きます」

「もうすぐ、お風呂が沸きます。」

電子音に続けて、少しだけ上機嫌な様子の混じった声で、彼女がスマートフォンに目を落としたまま言う。

僕はパソコンに向かってキーを叩いていた手を止め、立ち上がってチェストから着替えを取り出した。

風呂場へ向かう僕の背中に彼女は張り付くようについてきて、一緒に部屋を出た。

「さむ~~~」

わざと

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短文の練習②~映画評『セッション』~

短文の練習②~映画評『セッション』~

※2023/3/22時点、amazon prime videoにて見放題配信中

※以下、中盤までの具体的なストーリーの記述や台詞の引用あり

「お前は存在価値のカケラもないオカマクビチルのクズ野郎だ」

映画『セッション』の主人公・アンドリュー・ニーマンは、ジャズドラマーになる夢を抱いてアメリカ屈指の音楽大学に入学した大学生だ。

物語は暗闇の中、一人でドラム叩く彼のもとを、指導者テレンス・フレ

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短文の練習①~忘れな草~

短文の練習①~忘れな草~

幼い頃によく家にあったお菓子のひとつだった。

私はビスケットが嫌いだった。

パサパサと喉が渇き、お腹を満たすためだけに食べているような気分になってくる食べ物。

クッキーと比べての粗末さを感じて、食べていることに恥ずかしさと虚しさが伴ってくる思いがした。

たとえば新品の綺麗な服を着たクラスメイトの中に、お下がりの服を着ておばあちゃんの手製の巾着をポケットに入れていくような。

友だちが遊びに

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ある日の日記②

ある日の日記②

 友人が多いか、という問いには数多の大人を悩ませるものがある。

学生の頃は何となく近くにいる人や、視界に入る範囲の人たちを友人と言っておけばよかった。

ところが社会に出て、身寄りのない土地に単身生活するようになると、次第にその定義をどこに置いたらいいのかわからなくなってくる。

大人は見て見ぬふりを生活の所作として身に着けてきているものだが、それは自分の内面についても同じだ。

自分が何人の人

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電子ロケットの手紙

電子ロケットの手紙

 〇〇先生、ご無沙汰しております。
20XX年、二回生の頃に△△大学で先生の講義を受けさせていただいた、××と申します。
お元気でしたでしょうか。
本当に早いもので、その時からもう10年近くも時が流れてしまいました。
先生は現在も大学との縁が続いていらっしゃるのでしょうか。
数多の学生と出会ってきたことと思われます、もし私のことが覚えにないとしても、どうぞお気になさらないでください。
 僭越ながら

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言葉に願いを、風には歌を。

言葉に願いを、風には歌を。

この春に7年連れ添った恋人と別れて、早半年が経過した。

早、とは言うものの、具体的にいつ別れ話が挙がっていつ彼女が出て行ったのかは覚えていない。

ちょっと自分のツイートとかを見返したら4月に一度目の別れ話をしていて、5月に結論を出してたらしい。

思い返してみればそれから立ち直って引越しをしてで、まだたった半年かの方が正しかった。

別れた日のことをはっきりと覚えていないことに驚く。

私は最

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ある日の日記

ある日の日記

 普段は一日中オフィスでパソコンと向き合った仕事をしていて、社外の人と会うこともなければ太陽の光を浴びることもない。

だから数か月に一度、機会があるかどうかといった出張には胸が躍る。

もちろんしっかり仕事はするのだが、どこか中抜けをしているような、言ってみれば授業だけど授業でない遠足や修学旅行のような思いがあった。

そのために普段よりも1時間早く家を出ることも厭わない。

電車はいつもよりも

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空に光る

空に光る

 新居に越してきて2週間も経った頃、ようやく図書館へと赴くことにした。

けれども、向かう最中でとある事実に気付いてすぐに踵を返すことになってしまった。

現住所を証明するものがなかったのである。

そう、図書館は日本全国どこに住んでいようとかまわないのだが、しっかりとそこに住んでることを証明する身分証明書がないと本を借りることはできない。(実際は地域によって、市外・県外の人が借りられない場合もあ

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琥珀色に染まる

琥珀色に染まる

音楽を好きだと自認しながら、同時に音偏重だと自覚している。

「この曲は良いな」と気に入る時はほとんどが音からで、たとえ歌詞がどれほど安い言葉で形作られていても聴き続けてしまうことが多い。

音楽の本質は音の聴き心地にあって、だからインストゥルメンタルの曲も、外国の何を歌っているかわからない曲も、等しく琴線に触れるものが心身を揺らしてくれるのだと思う。

だが、そう思い込もうとする私を見返すように

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