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【無料】台湾有事って何?~歴史的経緯や日本への影響をサクッと解説~|政治初心者の教科書

台湾危機、台湾有事が現実となる、台湾有事は日本有事、2025年から2030年に台湾有事が起こる  

近年、政治を深くウォッチしているわけでなくとも、『台湾有事』との言葉を見聞きすることが増えたと思う。

簡単に言えば、「台湾を巡る戦争」である。

とはいえ、"なぜ起こると言われているのか" を知らなければ正しく政治・ニュースを見ることができないので、本記事において、歴史的経緯を含めご説明しようと思う。

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歴史的経緯

まずは、中華人民共和国と台湾の歴史についてご説明しよう。

台湾の歴史

台湾と中華人民共和国の歴史を簡単に説明すると、以下のようになる。

過去、我が国と支那(中華民国)が支那事変日中戦争(日華事変)を戦っていたころ、支那では中国国民党が政権を握っていた。

その後、中国共産党(現在の中華人民共和国政府)との内戦に敗れ、国民党が台湾へ逃亡、台湾を中華民国領とする。

そして中国共産党が大陸領土を制圧、中華人民共和国(現在の中国)を建国したため、中国(中華人民共和国)と台湾(中華民国)の構図が誕生した。

中華人民共和国は台湾も統一しようと武力侵攻に着手するも、軍事力の問題から断念。

ただし、「台湾は元々中国の領土である」として、必ず統一するとの主張を続けている(「一つの中国」論)。

その後、台湾の政府は中国国民党ではなくなっていくが、中華人民共和国と台湾が存在する、「二つの中国」の状況は現在まで変わっていない。

そして近年、中華人民共和国が力をつけ、武力を行使してでも台湾を統一する構えを見せるようになったのだ。

習近平国家主席は、2013年、国際会議の場において「長期にわたる政治対立を次の世代へ引き継ぐわけにはいかない」と発言、自身の統治時代に台湾統一の意向を示す。

そして2022年、「最大の誠意と努力で平和的な統一を堅持するが、決して武力行使を放棄せずあらゆる必要な措置をとる選択肢を残す」と述べた。

この「 "一つの中国" を主張する中華人民共和国が、台湾を武力で統一しようとする侵略戦争」を『台湾有事』と呼び、近年、その発生の可能性が高まっているとされているのだ。

アメリカの"あいまい戦略"

この台湾有事は、せいぜい中華人民共和国・台湾・日本・朝鮮半島程度にしか影響を及ぼさないようにも見えるが、なぜかアメリカをはじめとする西側諸国が出張ってきている。

これは、世界の勢力図を考えるとわかりやすい。

現状として、世界の覇権・主導権を握っているのはどこだろうか。

これは明らかにアメリカである。

そして、そのアメリカに西側諸国(主に白人諸国)が追従している形だ。

そのアメリカの覇権に、「我が中国こそが世界の "中" 心の "国" である(中華思想)」とする中華人民共和国が挑戦しようとしている。

ここで、中華人民共和国付近の地図を見てみよう。

「逆さ地図」で見る、中国にとって邪魔な日本
|東洋経済ONLINE
(https://toyokeizai.net/articles/-/70361?page=3)より引用

これは「逆さ地図」と呼ばれ、中華人民共和国付近の地図を上下反転させたものである。

アメリカは太平洋の覇権を握っており、中華人民共和国がこれに挑戦するには、地理的に自国を閉じ込める形となるフィリピン、台湾、尖閣諸島、沖縄を突破する必要がある。

反対に言えば、アメリカはこのフィリピン~沖縄の「中国封じ込めライン」を死守せねばならないのだ。

よってアメリカは、中華人民共和国が台湾へ武力行使した場合の対応を明確にせず、あいまいな立場をとることで、中華人民共和国の行動を抑止する戦略をとっている。

これを「あいまい戦略(戦略的曖昧さ)」と言う。

アメリカは中華人民共和国と国交を結び、「一つの中国」の主張を認識する(acknowledge)が、その一方で「台湾関係法」(1979年4月10日制定)を制定・維持している。

この台湾関係法は、「平和手段以外で台湾の将来を決定しようとする試みは、いかなるものであれ、地域の平和と安全に対する脅威である」とし、自衛のための兵器を台湾に供給することや、台湾に危害を加える行為に対抗しうるアメリカの能力を維持することを定めている。

ただし、アメリカによる台湾の防衛義務は定められていない。

このような "曖昧さ" を維持することにより、「アメリカは軍事介入するかも知れないしぃ、しないかも知れないよぉ?」とし、中華人民共和国による台湾侵攻、そして台湾が独立を目指し緊張を高める事態を抑止しているのだ。

逆さ地図と第一列島線、第二列島線

先ほどの「逆さ地図」によって、フィリピン~沖縄が中華人民共和国を閉じ込めているとわかった。

そして、中華人民共和国はこの「封じ込めライン」に対し、「第一列島線」と「第二列島線」を設定している。

「逆さ地図」で見る、中国にとって邪魔な日本
|東洋経済ONLINE
(https://toyokeizai.net/articles/-/70361?page=3)より引用

南シナ海からフィリピン、台湾、尖閣諸島、沖縄を「第一列島線」とし、日本から小笠原諸島、グアムを「第二列島線」とした。

中華人民共和国はまず第一列島線内の制海権を確保し、その後に第二列島線内の制海権を確保、そうして太平洋へと進出することを目論んでいる。

この第一列島線と第二列島線は我が国にも大きくかかわる考え方であり、そろそろ国民の間で共有せねばならない時期に来ていると思う。

モンロー主義

ただし、近年のアメリカに「モンロー主義」(孤立主義・非干渉主義)への回帰傾向があることには注意が必要だ。

特に、2024/11/05に実施される米大統領選挙(勝利した候補が2025/01/20に就任)において共和党の候補となる、「ドナルド・ジョン・トランプ(Donald John Trump)」氏はその代表である。

モンロー主義は孤立主義・非干渉主義とも呼ばれ、簡単に言えば「他国の争いに干渉せず、自国のことにのみ集中する」という考え方だ。

第一次世界大戦に介入し、ソ連工作員に抱き込まれたルーズベルト政権(ヴェノナ文書により発覚)が日欧に干渉して第二次世界大戦を戦い、その後も各国の争いに介入して多くの国民と金を失ってきたアメリカ人が、モンロー主義への回帰を望むのは当然の流れとも言えるだろう。

しかし、アメリカがモンロー主義へ回帰した場合、我が国をはじめ西側諸国は「アメリカの力をにした安全保障」から一気に方向転換を迫られることとなり、岸田文雄政権は既にその方向にも対応できるよう安全保障政策を転換しているが、台湾有事の危機が目前の今、このタイミングでのアメリカの離脱を受け入れることはできない。

岸田文雄首相の米議会演説(日本首相として9年ぶり2例目)「未来に向けて ~我々のグローバル・パートナーシップ~」(2024/04)や麻生太郎・自民党副総裁のトランプ前大統領との面会は、「もしトラ」(もしトランプ氏が再選したら)のモンロー主義回帰への対策と言える。

賴清德政権

2024/05/20に台湾総統に就任した賴清德らいせいとく氏は、「新政権は4つの堅持にのっとり、卑屈にも傲慢にもならず、現状を維持する」としている。

※「4つの堅持」は以下を指す。

・自由民主の憲政体制
・両岸は互いに隷属しない
・主権への侵犯と併呑を許さない
・台湾の前途は台湾人民の意志に従う

つまり、台湾の現政権は自由民主主義を堅持し、中華人民共和国による統一を認めない立場なのである。

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我が国への影響

では、実際に『台湾有事』が起こされてしまった場合、我が国はどのような影響を受けるのだろうか。

シーレーン

我が国が輸入するエネルギー資源や多くの物資は、"シーレーン" と呼ばれる海上輸送路を通って運搬される。

2018年版開発協力白書 日本の国際協力
|外務省
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/18_hakusho/honbun/b3/s1.html)

我が国のシーレーンは台湾の近海を通っており、台湾有事が発生した場合、台湾包囲戦や機雷戦、航空・海上戦闘領域などによって、このシーレーンが遮断される可能性が高いのだ。

シーレーンが封鎖された場合は迂回ルートの通過を余儀なくされるが、これは大きな遠回りとなり、運送費の高騰に伴って価格高騰、物価上昇が発生、最悪の場合は餓死者が出る可能性すらあると予想する者もいる。

そして、中華人民共和国が台湾の武力統一を達成した場合、海上封鎖や軍事行動の拡大によって、我が国はシーレーンを恒久的に消失する恐れもあるのだ。

機雷戦

台湾有事においては、中華人民共和国と台湾の双方が機雷敷設戦(機雷設置)を実施する可能性が低くない。

この場合、潮流により機雷が流れ、我が国の船舶との触雷、もしくは港湾への漂着等により人的被害が発生すること、前節で触れたシーレーンが麻痺・遮断されることが考えられる。

戦闘領域

我が国の与那国島と台湾の距離は、わずか111km程度である。

台湾までわずか111キロ、沖縄・与那国「今こそ定期船を」
…かつては「一つの生活圏」|読売新聞
(https://www.yomiuri.co.jp/national/20230129-OYT1T50105/)

領海は12海里(約22.2km)であり、これを含めればより近くなる。

日本の領海等概念図
|海上保安庁海洋情報部
(https://www1.kaiho.mlit.go.jp/ryokai/ryokai_setsuzoku.html)

与那国島は1,700人程度(2024/04)の国民が住む我が国の領土であり、このような島々が、機雷漂着等を超えてそもそもの戦闘領域に含まれる可能性も決して低くないのである。

ミサイル攻撃

台湾有事については、「戦闘領域に含まれる」を超えて「攻撃対象となる」可能性も充分にあると言わざるを得ない。

沖縄には、在日米軍基地と自衛隊駐屯地が存在する。

台湾有事への介入を警戒する中華人民共和国が、先手を打って沖縄の基地・駐屯地の無力化を目的にミサイル攻撃を加える可能性が考えられるのだ(可能性は低いと信じたいが、全国の在日米軍基地・自衛隊駐屯地に攻撃を加える可能性も完全否定はできない)。

実際、2022/08/04に我が国のEEZ(排他的経済水域)へ中国人民解放軍のミサイル5発が着弾しており、この訓練は与那国島への攻撃を想定したものと分析されている。

中国が4日に台湾周辺海域に発射した弾道ミサイルのうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した問題で、中国軍の目標が沖縄・与那国島のレーダーなど日本への攻撃を想定したものだと台湾当局が分析していることが5日、分かった。

<独自>中国のEEZ落下弾は日本攻撃を想定
台湾当局が分析、与那国島など目標|産経新聞
(https://www.sankei.com/article/20220805-AUATBO6E3VKYFMEGEKP4BTACBU/)より引用

不沈空母化

「空母」は海上での航空基地となる「航空母艦」の略称であり、「不沈空母」とはその名の通り「沈まない航空母艦」である。

台湾が中華人民共和国に統一された場合、キャッチーな言葉として「不沈空母」とは言ったが、航空機のみならずミサイルの発射拠点としても活用されると予想され、我が国の制空権を著しく脅かす存在となるだろう。

先の対米戦争において、我が国は制空権を失い、東京大空襲や広島・長崎への原爆投下をはじめ、多くの国民が爆撃の雨に晒された。

「制空権を失う」というのがどれほど恐ろしいことなのか、我が国はよく知っているはずだ。

まとめ

台湾有事が引き起こされた場合に起き得る我が国への影響をまとめれば、以下のようになる。

・シーレーン遮断による物価高騰
・機雷の触雷、漂着による人的被害
・与那国島等が戦闘領域に入る可能性
・与那国含む沖縄へのミサイル攻撃
・本土基地、駐屯地への攻撃も否定できず
・台湾統一は対日米不沈空母の誕生

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我が国の立場と制度

前章で確認したように、台湾有事が起こった場合、我が国は少なからず被害を受けることが想定される。

では、我が国はそもそも、『台湾』についてどのような立場をとっているのだろうか。

我が国の台湾に関する立場

岸田文雄政権は「我が国の台湾に関する立場は、1972年の日中共同声明にあるとおりであり、この立場に一切の変更はない」としている。

日中共同声明において、明確に台湾に触れているのは第三項。

三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する。

日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明|外務省
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/nc_seimei.html)より引用

これは一般に、以下のように解される。

"日本は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」とする中華人民共和国の立場を「十分理解し、尊重する」が、この主張を「承認」するものではない"

そして「ポツダム宣言第八項に基づく立場」とは、以下のカイロ宣言における領土条項の履行を指す。

右同盟国の目的は日本国より1914年の第一次世界戦争の開始以後に於て日本国が奪取し又は占領したる太平洋に於ける一切の島嶼を剥奪すること並に満洲、台湾及澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還することに在り日本国は又暴力及貪欲に依り日本国の略取したる他の一切の地域より駆逐せらるべし

カイロ宣言|外務省
(https://www8.cao.go.jp/hoppo/shiryou/pdf/gaikou06.pdf)より引用
(太字は國神による。)

「中華民国」はカイロ宣言当時の中国であり、日中共同声明第ニ項において、我が国は中華民国に代わり、中華人民共和国を「中国の唯一の合法政府であることを承認」した。

よって、カイロ宣言の「中華民国」は「中華人民共和国」と読み替えるのが一般的だ。

そのため、我が国は「台湾および澎湖諸島の中華人民共和国への返還」を受け入れることとなる。

この「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」というのは、前段のみで中華人民共和国が納得しなかった場合の第ニ案であったという  そして案の定、この第二案を採用することとなった  

※「中華人民共和国が前段のみで納得しなかった」ということが、「日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し」が「承認」を意味しないことを証明している。

また、アメリカの "あいまい戦略" からもわかる通り、アメリカは中華人民共和国の主張をacknowledge認識するに留めており、当時の我が国がアメリカよりも踏み出すことは有り得なかったため、日中双方の落としどころがここで限界だったのだろう。

ここで留意が必要なのが、「台湾の最終的地位は未解決である」ということだ。

「中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し」とし、「承認する」としなかった理由はここにある。

日本は「台湾を中華人民共和国に返還すること」に異議を唱えない。

しかし、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること」を承認するものではない。

よって、中華人民共和国と台湾の話し合いで台湾が統一される場合は「国内問題」であるが、中国が武力による統一を試みるのであれば、これはまた話が違うぞ、ということになるなのだ。

ただし、日本は中華人民共和国に台湾を返還しているので、「台湾の独立」を支持する意思はない。

「いったい何を言っているのか」と思うだろう。

私もそう思う。

だがしかし、外務省の「台湾に関する日本の立場はどのようなものですか」に対する返答を見れば、我が国の政府が上に説明した通りの立場をとっていることがわかるのだ。

台湾との関係に関する日本の基本的立場は、日中共同声明にあるとおりであり、台湾との関係について非政府間の実務関係として維持してきています。政府としては、台湾をめぐる問題が両岸の当事者間の直接の話し合いを通じて平和的に解決されることを希望しています。

問10.台湾に関する日本の立場はどのようなものですか。|外務省
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/comment/faq/area/asia.html#10)より引用

日中共同声明において、「台湾の中華人民共和国への返還」を認めている。

しかし、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であること」は認めていないので、非政府間で独自の交流を継続している。

そして、台湾をめぐる問題について、「話し合いを通じて平和的に解決されること」を願っていると。

以前、物議を醸した麻生太郎氏のご発言にも、この認識が表れている。

自民党の麻生副総裁は訪問先の台湾で講演し、中国が軍事的な圧力を強める中、台湾海峡の平和と安定の重要性は世界の共通認識になりつつあるとした上で、日本や台湾、アメリカなどが「戦う覚悟」を持つことが地域の抑止力になると強調しました。

自民 麻生副総裁“「戦う覚悟」が地域の抑止力に” 台湾で講演|NHK
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230808/k10014156921000.html)より引用

我が国は日中共同声明に基づき「台湾の独立」は支持しないが、同時に「武力による統一」も認める立場ではない。

そのため、「独立せよ」とは言わないが、「戦う覚悟が必要だ」となるのである。

このような経緯を鑑みるに、「我が国の台湾に関する立場は、1972年の日中共同声明にあるとおりであり、この立場に一切の変更はない」とは、「我が国は台湾に対する支配を放棄し、中国唯一の正当な政府である中華人民共和国に返還し、『一つの中国』の主張を尊重するが、武力による台湾統一も台湾の一方的な独立も認めない」であると言えるだろう。

素直に読めば非常に無理筋な屁理屈であるように思うが、こうでなければ、我が国は台湾周辺のシーレーンを諦めることになり、それは海洋国家として死を意味する。

台湾を中華人民共和国に返還しなければ、戦後処理の不履行にもなり、日中国交正常化も叶わなかった。

しかし、「一つの中国」論を承認してしまえば、台湾への武力侵攻が「反乱軍に対する制圧行動(国際法上の内戦)」となり、我が国が口を挟む余地を失ってしまう。

そのような難しい立場でのこの決断であり、そして現状として、政府は上記ままの行動をとっているのだ。

武力行使の新三要件

では、実際に台湾有事が引き起こされた場合、我が国はどのようにして国民の生命と生活を守るのだろうか。

現状、我が国が自衛権を発動して武力を行使するには、以下の三要件を満たす必要がある。

(1)我が国に対する武力攻撃が発生したこと、又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること

(2)これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと

(3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと

日本の安全保障政策
>平和安全法制の概要
>(注)自衛の措置としての「武力の行使」のための「新三要件」
|外務省
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/nsp/page1w_000098.html)より引用

これに照らして考えれば、まず、国民が居住する我が国の領土に対する武力攻撃が発生した場合(武力攻撃事態)は、ほぼ確実に自衛権発動による武力の行使が認められる。

明確に領土・国民への武力攻撃が行われて自衛権を行使しない共同体など、「国家」を名乗る資格があるはずがない。

第二に、我が国への武力攻撃は発生せず、台湾への武力攻撃のみが行われた場合も、我が国が武力行使できる可能性は残されている。

「武力行使の新三要件」の第一項は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」場合の武力行使を認めているのだ。

これは「存立危機事態」に該当する。

存立危機事態

第二条
四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。

武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)|e-GOV法令検索
(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=415AC0000000079)より引用

台湾に対する武力攻撃が発生し、シーレーンの封鎖や機雷の漂着、また恒久的シーレーン封鎖の恐れ、台湾が不沈空母化する恐れが現実となった場合、これは間違いなく「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある」と言えるだろう。

自民の麻生太郎副総裁は10日、訪問先の米ワシントンで記者団に、台湾有事について「日本の存立危機事態だと日本政府が判断する可能性が極めて大きい」と述べ、日本が集団的自衛権を行使する可能性に言及した。

「さまざまな軍事行動…」台湾情勢緊迫化、日本の安保に直結
頼政権誕生で偶発衝突の波及に備え|産経新聞
(https://www.sankei.com/article/20240114-SGIHPNU4MJIGLPA2EENZ57LM4I/)より引用

防衛出動

「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」(事態対処法)が定める「武力攻撃事態」または「存立危機事態」に至った場合、内閣総理大臣は国会の承認を得て、自衛隊に「防衛出動」を命じることができる。

※武力攻撃事態:武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態

 存立危機事態:我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

防衛出動が命じられた場合、自衛隊は自衛権の行使として、必要最小限度の武力を行使できる。

ミサイル防衛

我が国が自衛権を行使するにあたり、「我が国に対するミサイル攻撃が発生」した場合は、まずミサイルを迎撃する。

統合防空ミサイル防衛について
>現在のミサイル対応とこれまでの取り組み
(https://www.mod.go.jp/j/policy/defense/bmd/index.html)

我が国のミサイル防衛は、イージス艦とPAC-3(ペトリオット・パトリオット)による二層体制となっている。

まず洋上のイージス艦が迎撃し、撃ち漏らした場合等に陸上からPAC-3の地対空誘導弾で迎撃するのだ。

しかし、飽和攻撃(迎撃能力を超えた数量の攻撃)が行われた場合や極超音速ミサイル(音速の5倍以上で低空を機動的に飛行)が発射された場合、既存のシステムでは迎撃ができない、つまり国民の生命が危機に晒されるのである。

そこで我が国は、以下の二手段を講じている。

極超音速ミサイル迎撃

ひとつ目は、「極超音速ミサイルを迎撃できる新型ミサイルを日米で開発する」というものだ。

中国や北朝鮮が「極超音速ミサイル」の配備や開発を進める中、日米両政府は、迎撃可能な新型ミサイルの共同開発を今年度から始めることにしていて、両政府の担当者が15日、作業分担などの取り決めに署名しました。

日米 極超音速ミサイル迎撃の新型ミサイル開発
取り決めに署名|NHK
(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240515/k10014450321000.html)より引用

しかし、今年度中に着手するとのことではあるが、完成は2030年代になる予定だという。

これよりも先に極超音速ミサイルによる攻撃を受けた場合、我が国はこれの迎撃が非常に困難となる。

そこで我が国が保有を決めたのが、『反撃能力』である。

反撃能力

反撃能力とは、我が国に対するミサイル攻撃が発生した場合等に、相手の領域内にあるミサイル発射地点等に反撃(ミサイル迎撃げいげきではなく敵国への攻撃)を加える能力を指す。

ミサイルの迎撃システムにも "100%" はなく、また飽和攻撃(一度に迎撃できる数を超えたミサイル攻撃)を行われた際、必ず国民に被害が生まれることとなる。

この「国民の被害を防ぐ」ために相手のミサイル発射地点等を叩き、そもそもミサイルを撃てなくする攻撃が「反撃」であり、この能力を「反撃能力」と言う。

これは、1956/02/29に政府見解として、憲法上、「誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」とされていたものである。

しかし、政治判断により保有してこなかった能力なのだ。

これを岸田文雄政権は、新たな国家安全保障戦略を策定し、「武力の行使の新三要件に基づき、攻撃を防ぐにやむを得ない "必要最小限度の自衛の措置" として、相手の領域に反撃を加える」ことを可能としたのである。

わが国への侵攻を抑止する上で鍵となるのは、スタンド・オフ防衛能力などを活用した反撃能力である。近年、わが国周辺のミサイル戦力は質・量ともに著しく増強される中、ミサイル発射も繰り返されており、ミサイル攻撃が現実の脅威となっている。こうした中、今後も、既存のミサイル防衛網を質・量ともに不断に強化していくが、それのみでは完全に対応することが困難になりつつある。このため、ミサイル防衛により飛来するミサイルを防ぎつつ、相手からの更なる武力攻撃を防ぐために、わが国から有効な反撃を相手に加える能力、すなわち反撃能力の保有が必要である。

4 わが国の防衛の基本方針(防衛目標と反撃能力の保有を含むわが国の防衛力の抜本的強化など) 2 第1のアプローチ:わが国自身の防衛体制の強化(1)わが国の防衛力の抜本的な強化
|令和5年版防衛白書
(http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2023/html/n230204000.html)より引用

これは『戦後初』のことであり、我が国の安全保障が大きく前進した。

反撃能力の保有については、岸田文雄政権は米国製トマホークミサイルの購入を決定、前倒し(2025年度から配備)、そして改良型12式地対艦誘導弾(国産)を2026年配備から前倒し予定としている。

重要影響事態

「我が国に対する攻撃」が発生した場合、自衛権を発動して敵国領域内にミサイル攻撃を加えるところまでは可能であるとわかった。

では、我が国に対する攻撃ではなく、また存立危機事態とは認められない程度の、「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態(重要影響事態)」が発生した場合はどうなるのだろう。

この場合、我が国は「重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律」に基づき、米軍の後方支援活動や捜索救助活動を行うことができる。

ただし、防衛出動が認められる武力攻撃事態・存立危機事態とは異なり、重要影響事態では武力の行使が認められない。

まとめ

台湾有事に関係する我が国の立場と制度は、まとめれば以下のようになる。

・我が国は台湾の武力統一を認めない
・我が国への武力攻撃には自衛権を発動
・敵国領域内への反撃能力の行使も可能
・存立危機事態でも必要最小限度の武力行使
・武力攻撃事態と存立危機事態には防衛出動
・重要影響事態には米軍の後方支援と捜索救助

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我が国の課題

ここまで台湾有事について確認してきたが、最後に、我が国が台湾有事を抑止する、そして実際に引き起こされた場合に不足なく対応するうえで、「課題」となる事柄について話そう。

憲法第九条第二項

現行の日本国憲法第九条は、以下のようになっている。

第九条
 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
②前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

「日本国憲法改正草案(現行憲法対照)自由民主党 平成二十四年四月二十七日(決定)」|自民党
(https://storage2.jimin.jp/pdf/news/policy/130250_1.pdf)より引用

第九条第一項(②の「前項」にあたる部分)については、国連憲章とほぼ同義なので問題がない。

すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない

国際連合憲章|防衛省
(https://www.mod.go.jp/j/presiding/treaty/kenshou/kenshou.pdf)より引用

これは「侵略戦争禁止条項」と呼ばれたりもする。

問題なのは第二項、つまり「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」である。

「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と憲法にある以上、我が国は「軍」を保有することができず、「戦力」に当たらないよう、自衛権を発動して行使できる武力が「必要最小限度」と大きく制限されているのだ。

自衛隊の存在についてすら、「違憲論」が未だに唱えられている惨状である。

憲法第九条第二項については、現行条文を削除し、「前項の規定は自衛権の発動を妨げない」などに置き換え、個別的・集団的問わず、国際法が認める最大限の自衛権を行使できるようにすべきではないだろうか。

侵略戦争はそもそも国連憲章が禁じているのであり、さらに侵略戦争禁止条項である第九条第一項は堅持したうえで、自衛権のフルマックス行使を認めるべきである。

国家防衛をアメリカの一存に握られる状態から脱し、中華人民共和国はじめ我が国に対し領土的野心を隠さない隣国への抑止力としての意味でも、友人である台湾の武力統一を抑止する意味でも、占領下に作られた暫定憲法は改正すべきなのだ。

我が国が憲法第九条第二項を改正すれば、「当時の米英に対して約4年間も粘った日本人が、戦後約80年間も改正できなかった条文をとうとう改正した」、つまり『眠れる虎が目覚めた』というメッセージを発し、強力な抑止力を発揮することだろう(侵略戦争禁止条項は堅持し、"帝国主義の復活" という対日プロパガンダを完全に否定できるようにしたうえで)。

インテリジェンス

我が国は反撃能力を保有すると決定したわけだが、これには「インテリジェンス」の力が欠かせない。

反撃能力を実際に行使する際には、ミサイル発射地点の詳細かつ攻撃を加えるにあたり効果的な情報把握(つまり諜報)が必要不可欠なのである。

部隊の組織編成や司令部の位置、配備されている兵器の種類(核の有無含む)などまで詳細に把握するジオイント(GEOINT:Geospatial Intelligence)が欠かせないのだ。

しかし、我が国は2022年まで反撃能力の保有が禁じられており、それに必要であった能力も保有できていない。

幸いにして我が国には世界一と言って過言ではないインテリジェンスを持つ同盟国が存在するので、可能な限り情報と技術を貰いつつ  第二次世界大戦後から莫大な資金と労力、時間をかけて形成された米インテリジェンスを利用するのだから、情報なり資金なり、それなりの対価は払う必要があるだろう  、我が国のインテリジェンス機関を育てていくべきである。

認知戦

「超限戦」とは、1999年に中国人民解放軍の空軍大佐2人が出版した『超限戦 21世紀の「新しい戦争」』(邦訳:角川新書、2020年)によって広まった言葉であり、"限"界を"超"えて、つまり「あらゆる手段で制約なく戦争を遂行する」ということである。

超限戦の本質は「戦わずして勝つ」であり、認知戦(情報戦)によって政治・世論を誘導、破壊工作によって秩序を崩壊させ、サイバー攻撃等により国家機能をダウン、それでも折れない場合は武力行使、といった具合だ。

そして実際に、近年、世界各国において「中国のスパイ・工作活動」が問題視されるようになっている。

 欧州で「中国スパイ」の摘発が相次いでいる。欧州連合(EU)欧州議会の議員スタッフをはじめ、英議会の調査担当者、ベルギーの元上院議員らが工作の対象となっており、中国のスパイ網が欧州政界に深く浸透している様子が浮かぶ。中国スパイの手口は、「親中派」だけではなく、「反中」勢力も取り込むのが特徴だという
(略)
『反中』姿勢でもガバナンスが弱い新興政党に付け入ることもあるなど、中国の諜報活動には、相手がくみしやすいかどうか見極め、『使えるものは使う』という基本スタンスがある

政界を浸食する〝中国スパイ〟
欧州で相次ぐ摘発、日本にも魔の手
「日本は法整備は進むが…捜査手法に制約が多い」|zakzak
(https://www.zakzak.co.jp/article/20240504-XEXZGHG2EJKDDOSFOXYIDMXL64/)

日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠氏によれば、中国の工作員は親中派のみならず『反中の新興政党』に付け入ることもあるという。

「中国を批判しているから」といって信用してはならず、「その言動は本当に正しいか、口では中国を非難しながら、反中勢力や保守派の動きを中国に利する形へ誘導していないか」と疑ってかからなければならない。

そして、工作の対象となるのは政治家・ジャーナリストのみならず、SNSを利用した工作活動も指摘されている。

 中国政府と取引関係にあるIT企業(本社・上海)が、X(旧ツイッター)のアカウントを通じて、世論工作を仕掛けるシステムを開発した疑いがあることがわかった。このシステムを紹介する営業用資料とみられる文書がインターネットに流出していた。日本の情報機関も入手して本物とみて分析を進めており、中国の対外世論工作との関連を詳しく調べている。
(略)
 同社の動向を20年から注視している台湾のサイバーセキュリティー企業「TeamT5」チーフアナリストのチャールズ・リー氏は、資料に記載されている工作の手口などから「本物の流出文書と確信している」との見方を示した。

中国企業が「世論工作システム」開発か、Xアカウントを乗っ取り意見投稿
…ネットに資料流出|読売新聞
(https://www.yomiuri.co.jp/national/20240511-OYT1T50118/)より引用

X(旧Twitter)を含む各SNSには国籍明示の義務がなく、中国工作員がアカウントを作成して日本語で発信したり、日本人のアカウントを乗っ取って日本語で世論工作を行うことも、容易に行われてしまう。

たとえ日本語の発信であっても、「この言動は中国を利して我が国の益を毀損するものではないか」と、丁寧に判断していかなければならない。

『我が国は既に認知戦の戦場と化しているのだ』と自覚しなければならないのである。

無論、私の言論についても、「國神の言論は本当か、どの国を利するのか」と丁寧に判断しながら読み解いていただきたい。

そうすれば、私の言論が事実に立脚していることがよくわかり、きっと信用していただけるものと信じている。

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後書きとお願い

約16,000字に及ぶ本記事、ここまでお読みいただきありがとうございました。

今、我が国は戦後最大と言える危機に直面しています。

「台湾危機のような安全保障の危機について正確に理解し考える国民を増やす」ことこそ自由民主主義国家たる我が国が独立・主権を維持し国を発展させる唯一の道と信じ、本記事を執筆いたしました。

工作員による認知戦の結果か正常性バイアスか、我が国の防衛を停滞させようとするリベラル左翼。

情報を歪めて恐怖心を不必要に煽り、それを収入とするビジネス保守・ビジネス右翼。

テレビや新聞メディアのみならずSNSにも歪められた偽情報(ディスインフォメーション)が溢れる現在、政治を正しく見ることは簡単ではないかもしれません。

ですが、我々日本国民は我が国の『主権者』であって、政治を動かすのは我々の世論であり投票なのです。

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令和6年(皇紀2684年)6月2日 國神貴哉

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