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消雲堂綺談

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私は怪談奇談が好きで、身近な怪異を稚拙な文章にまとめております。
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#百物語

百物語 18「人を喰らう話」

百物語 18「人を喰らう話」

六国史のうち、平安期に編纂された、清和、陽成、光孝天皇の代である天安2年(858)から仁和3年(887)の国史「日本三代実録」には以下のような話が掲載されています。(中公文庫 日本の歴史「平安京」から)



8月のある晩、午後10時頃に、内裏(天皇の居住地域のこと)・武徳殿東縁の松原の西に美しい女が三人、東に向って歩いていると、ひとりの男が松の木の下に佇んでいた。これがなかなかの美男で、ひとり

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百物語15「忘れ物」

百物語15「忘れ物」

雨が降っていた。

僕は船橋から最寄り駅までの電車に乗っている。
車窓のガラスには進行方向から後方に向けて雨水の筋が走っていく。車窓の外に光る街の電光看板の灯火を雨水の筋が引っ張っては消えていく。

数駅に停車したあと僕の最寄り駅の灯りが見えた。電車は少しずつブレーキをかけながらゆっくりと駅のホームに入っていく。僕は早めに降車の準備を始める。せっかちなのだ。

電車が停車してホームのプラットホーム

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百物語14「鏡」

百物語14「鏡」

本当の話だから面白くはない。

鎌ケ谷大仏駅の側に八幡神社がある。参道には百庚申と呼ばれる無数の庚申塚がある古い神社だ。

僕は鎌ケ谷大仏駅の駅ビルにあるカルチャースクールで講師をしていて、その帰りにこの神社に参拝している。神も仏も信じてはいないが、長く続いてきた歴史遺構として手を合わせて拝む価値があると思っているだけだ。

八幡神社は、以前、鬱蒼とした林のなかにあったが、数年前に全ての木が切り取

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百物語13「オセロ」

百物語13「オセロ」

死んだ叔父とオセロゲームをしている。
僕が白で叔父が黒だ。盤面はほとんど白く、僕が優勢のようだ。
叔父が僕の駒を返して黒くする度に身体に痛みが走る。
しかし、叔父は、その痛みを感じないようだ。死人だからだろう。
伯仲の戦い。なかなか勝負がつかない。
それにしても駒が返される度に身体の痛みは酷くなる。
そして…。
「ほうら、かっちゃん、すべての角を取ったぞ!」突然、叔父が叫んだ。
「ああっ!」盤面の

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百物語12「湖」

百物語12「湖」

高校生の時のことだ。その頃は福島県に住んでいた。父親の故郷が猪苗代町だったし、5歳違いの従兄(本当は従兄の子どもであるから従甥なんだけど、めんどうだから従兄と呼んでいた)が猪苗代湖畔でドライブインを経営していたので、夏休みになると、バイクに乗ってドライブインに行って湖で遊んだ。

ドライブインを始める前までは、従兄と一緒に泳ぎに行っていたのだが、彼はドライブインの調理も担当しているから時間がない。

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百物語11「ホーム」

百物語11「ホーム」

月に2度ほど、仕事で東京に出る際には自宅の最寄り駅から電車に乗って、隣の駅で別な路線電車に乗り換えるのだが、乗り換えるホームの反対側のホームの隅に赤い服を着た男女が4人立っている。

初めは、乗り換える際にちらりと見かけるだけだったが、毎回、同じ服を着て同じ場所に立っているので、次第に気になるようになり、注意して見るようになった。

はじめは、お揃いのユニフォームを着てスポーツ観戦にでも行くのだろ

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百物語10「妖刀」

百物語10「妖刀」

出版社で働いていた時のことだ。

家電メーカーH社の子会社(システムエンジニア企業)が僕の顧客のひとつだった。そこの取材対応してくれていたのがF課長だった。彼は刀剣マニアで、たくさんの古刀を所有していた。実際に見たわけではない。彼自身と彼の部下たちから聞いた。

彼が所有している刀剣には値打ちがあるものも多く、「資産として集めてるんです」と言っていたのを記憶している。なかでも特に鎌倉時代の古刀のこ

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百物語9「見知らぬ人」

百物語9「見知らぬ人」

夜に散歩をしていると見知らぬ人から話しかけられることがある。2日前に船橋の裏道を歩いていると、自転車に乗った同年代くらいの女性に話しかけられた。

街灯が少し離れたところにあって薄暗かったので女性の顔ははっきり見えなかったが笑っているようだった。

「あたしさ、昔、この辺りに住んでいたんだけれど、道に迷っちゃってさ、ここ、なんて街だかわかる?」

昔住んでいたのなら街の名ぐらいわかるだろうに…と思

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百物語8「隣のいびき」

百物語8「隣のいびき」

午前1時半を過ぎた

隣の部屋からイビキが聞こえる

グーガーグーガーグックガーガー
グーガーグーガーグックガーガー

その音は実にリズミカルで、思わずのってしまう

ドンスタドンドンドンスタドン

ドラム叩くならそんな感じ

ドンスタドンドンドンスタドン
ドンスタドンドンドンスタドン
グーガーグーガーグックガーガー
グーガーグーガーグックガーガー

いびきが聞こえる

グーガーグーガーグックガー

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百物語7「神田明神と成田不動尊」

百物語7「神田明神と成田不動尊」

妻が友人から聞いた話だ。

妻の友人の父親が神田明神を贔屓の神社として崇めているのだが、たまには別なところに行こうと、成田不動尊まで初詣に出かけた。自宅がある船橋から印旛沼を越えて不動尊を目指す。

ようやく成田に着いたが、市街を行けども行けども成田の町をぐるぐると回るばかりで少しも不動尊に着かないのだ。誰かに聞けばいいのに父親のプライドがあるのかそのまま市街地を走り回ったあげくとうとう諦めて帰宅

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百物語6「幽霊」

百物語6「幽霊」

江戸時代の怪談から

能州(現在の石川県)飯山の谷合に神子ヶ原という村があった。

村の百姓某の妻は脇に鱗があり、乳房が長く、子供を背負い乳房を肩にかけて乳を飲ませていた。さらに妻は力持ちで男にも負けたことはなかった。

その妻は、ある日、病死してしまう。死後17日目に妻の幽霊が現れて夫を取り殺してしまった。

その後も村にその幽霊が現れて、女子どもが恐れた。そこで、村の作蔵という男が「死人の墓に

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百物語5「辻斬り」

百物語5「辻斬り」

生涯に81人を斬ったという侍がいた。神田佐久間町にあった佐竹藩の中屋敷に暮らしていた佐竹藩士の岡部菊外という男だ。

人を斬るのが飯より好きな彼は、新刀を買う度に「七人を斬ってみなければ刀の本当の切れ味がわからない」と言っていた。彼の刀には血糊が付き、これが刀の柄に染み付くと、柄が腐ってしまうので、刀の柄巻師へ次々に刀を持ち込む。

しかし、辻斬りというのは通り魔か無差別殺人鬼のことだ。侍だから殿

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百物語4「上の音」

百物語4「上の音」

僕は3階建ての古いアパートの3階に住んでいる。古いといっても、昭和40年代に西洋風建築を取り入れた鉄筋コンクリートづくりで、造りはしっかりしている。そうはいっても、やっぱり古い。

少し前からおかしなことが起きている。昼夜構わず天井の上で子どもが走っているような音がするのだ。僕の部屋は最上階の3階だから天井の上ということは屋根の上を走っているということになる。ベランダに出て屋根の上を観察してみるが

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百物語3「後部座席の影」

百物語3「後部座席の影」

父の会社が倒産すると、父はすぐに神奈川県Y市にある建設会社の面接を受けて、そこで働くことになった。当時、福島県K市に住んでいた僕たちは家族全員で父が就職した会社がある神奈川県Y市に引っ越すことになった。

そのとき僕は群馬県I市にある大学に在学中だったが、大学にはほとんど行かずに1年留年を2回繰り返しており、既に大学を卒業する気はなかった。これ幸いと大学を中退した僕は、父から借りていた車に乗って神

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