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ゴトウケースケ
2019年5月21日 23:32
夢は叶えるか、諦めるかでしか消えてくれない。 脳の中でドロドロと、胸の中でフツフツと、流れるように浸食し、私の心を蝕んでいく。 時間と労力を使い、栄光を手に入れたものは口を揃えて言う。「努力は報われる」と。 そんなのは、叶えた人のみが口に出来るご都合主義な考え方だと分かっていても、人は努力していないと我を失ってしまう。その怖さを払拭する為に叶わない夢を持ち続けようとする。なんとも面倒
2017年10月18日 15:41
「明日、死ぬとして何がしたい」 雑多な居酒屋での会話の八割は意味のない無理問答だ。彼女が投げかけた言葉でさえ煙草の白煙のように他の人の会話の中に溶けて消える。五分ほど前にした会話を忘れたかと思えば、二時間も前にしていた話の続きを思い返したのかのように話し出す輩もいる。 「なにしよっかな」私は彼女の言葉が消える前に掬い採ろうとした。意味もないが、誰も答えずに消えてなくなるには、少し勿体ない話
2017年6月15日 17:19
バイトから帰った私に待っていたのは、言い逃れすら面倒な厄介事だった。 この日もいつものように深夜のコンビニでのバイトを終え、朝方に家路に着き、そのまま倒れ込むように布団に横たわった。携帯電話を取り出し、このまま寝落ちしようとしていた矢先に玄関のドアを叩く音が聞こえた。 溜息を吐くと、重たい身体を持ち上げた。六畳もない部屋を、登山者のように歩くとドアを開けた。「やっと開けた。あの隣の者な
2017年4月30日 18:19
〜 ワタシのフチドリ 〜 酒を飲んだ帰り道。車に跳ねられたところまでは覚えている。 酩酊状態であったが目の前に迫って来る車のヘッドライトを見て、血の気が一気に引いた感覚が今でも残っている。試しに自分の心臓を抑えてみた。まだ脈拍が高揚しているのか、心臓は依然とバクバク、音を立てていた。それなのに。 「おはよう」 目の前に立っていた老人に肩を叩かれた。 小柄で小太りの老人。目は皺垂れて開い
2017年3月28日 21:12
“いつもの場所にいる” それだけで全てを悟ってくれる関係と言うのは、早々に出来ない。これを友情という言葉で片付けるのなら、それでもいい。ただ自分たちが、そんな畏まった言葉がお似合いな人たちではないことくらい分かっている。 「自転車で来たの?」小泉雅輝は須本新太郎にそう言うと煙草を無意識に消した。まだ半分以上は残っていた煙草を何故、消したのか小泉はそれを少しだけ考えた。吸うのに嫌気が差
2016年3月3日 04:03
あいや、暫く。おまっとさんと参上だ。我がドコの誰かはさておいて、いっちょ、饒舌、演説、聞いとくれ。これから御伝えするお話、小話、おとぎ話は実に痛快、難解、奇々怪々。どかの星の、どこかの場所で、落っこちるように産み落とされては、迷子のように彷徨っている生き物のお話です。彼、彼女。どちらで呼べば良いのか分からない。性別も不確かな生き物です。性別だけではありませぬ。子供、大人、老人と一定の形で留まらず
2016年2月22日 16:17
『妖精は杖を一振りすると灰かぶりの娘は美しく変貌しました』「時間が止まってるみたい」 涼は川を見ながら呟いた。野口美紗季も覗き込むように眺める。東京で珍しく雪が積もった日。電車もバスも大幅に運行時間が遅れると情報を知った美紗季は幼稚園が終わった涼を歩いて迎えに行っていた。 川の水は気温のせいで凍っている。普段、流動している水の流れはその場に留まっていた。時間が止まる事なんてな
2016年2月19日 16:00
灰色の空が街を覆う。 “ダスト”と呼ばれる無数の粒子は空気に絡まり、街を灰色に変える。この星は元々、四季という四つの季節に分かれていたらしい。暑かったり、寒かったりと。その時期折々の様々な気候で一年が過ぎていったらしい。 夕方の電車には多くの人がおり、私は満員の車内に身体を捻じ込ませるように立っていた。 前にはサラリーマンが二人、座っていた。上司と後輩の関係なのか、歳を召した上司
2016年2月18日 15:23
坂之上是政は丘の上にいた。自分の身の丈ほどしかない桜の木を背に立っていた。町を一望できる丘の上で是政は一人の女性を待っていた。着物の振袖に手を入れ、息を呑む。日差しが強いが風が心地よく吹いていた。貿易船の汽笛が遠くの港から鳴る。女性は行ってしまった。是政はそう悟った。他国との文化交流の為、外海からやって来た一人の女性。一国の主の命を司り、是政は女性の目付け役を仕った。初めて女性