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NOVEL

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novel。述べる。
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空っぽな空気と空ろな空

空っぽな空気と空ろな空

夢は叶えるか、諦めるかでしか消えてくれない。

脳の中でドロドロと、胸の中でフツフツと、流れるように浸食し、私の心を蝕んでいく。

時間と労力を使い、栄光を手に入れたものは口を揃えて言う。「努力は報われる」と。

 そんなのは、叶えた人のみが口に出来るご都合主義な考え方だと分かっていても、人は努力していないと我を失ってしまう。その怖さを払拭する為に叶わない夢を持ち続けようとする。なんとも面倒

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good-bye by you side.

good-bye by you side.

「明日、死ぬとして何がしたい」

 雑多な居酒屋での会話の八割は意味のない無理問答だ。彼女が投げかけた言葉でさえ煙草の白煙のように他の人の会話の中に溶けて消える。五分ほど前にした会話を忘れたかと思えば、二時間も前にしていた話の続きを思い返したのかのように話し出す輩もいる。
「なにしよっかな」私は彼女の言葉が消える前に掬い採ろうとした。意味もないが、誰も答えずに消えてなくなるには、少し勿体ない話

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やどかり

やどかり

 バイトから帰った私に待っていたのは、言い逃れすら面倒な厄介事だった。
この日もいつものように深夜のコンビニでのバイトを終え、朝方に家路に着き、そのまま倒れ込むように布団に横たわった。携帯電話を取り出し、このまま寝落ちしようとしていた矢先に玄関のドアを叩く音が聞こえた。
溜息を吐くと、重たい身体を持ち上げた。六畳もない部屋を、登山者のように歩くとドアを開けた。
「やっと開けた。あの隣の者な

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無味で溢れた日々に

無味で溢れた日々に

 照れくさいと思うのは、まだ僕が不甲斐もなく、彼女に対して何処か特別な感情を持っているからかも知れない。出会って、十数年という月日さえも、その感情を持ってしまったら、そんな事実をも忘れてしまう。今はただ彼女の言葉を隅々まで拾い集めて、彼女と言う人間を懸命に理解したいという欲求に従順になっている。
 「それもある種、才能なんじゃない?」
彼女は大きな口を開けながら、僕にそう言った。
 僕は自分が理解

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フチドリシアター

フチドリシアター

〜 ワタシのフチドリ 〜

 酒を飲んだ帰り道。車に跳ねられたところまでは覚えている。
 酩酊状態であったが目の前に迫って来る車のヘッドライトを見て、血の気が一気に引いた感覚が今でも残っている。試しに自分の心臓を抑えてみた。まだ脈拍が高揚しているのか、心臓は依然とバクバク、音を立てていた。それなのに。
 「おはよう」
 目の前に立っていた老人に肩を叩かれた。
 小柄で小太りの老人。目は皺垂れて開い

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Cavalier・Only Night

Cavalier・Only Night

 “いつもの場所にいる”

 それだけで全てを悟ってくれる関係と言うのは、早々に出来ない。

これを友情という言葉で片付けるのなら、それでもいい。ただ自分たちが、そんな畏まった言葉がお似合いな人たちではないことくらい分かっている。

 「自転車で来たの?」小泉雅輝は須本新太郎にそう言うと煙草を無意識に消した。まだ半分以上は残っていた煙草を何故、消したのか小泉はそれを少しだけ考えた。吸うのに嫌気が差

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悪い人ほど“火”が似合う。⑤

悪い人ほど“火”が似合う。⑤

 大きな花火が一回、そして続けて二回と鳴る。

それは先ほどまでの花火より大きく。きっと、一番の見せ場なのだろう。

 彼にも見せたかったな。

 彼は行ってしまった。どこか遠くに。いや、もしかしたら近くなのかもしれないが、もう二度と出会えないという考えで言えば、死別のように遠くに行ってしまった。

「人混みに誘導しろ」数日前に見知らぬ男が目の前に現れると、急にそう告げた。不躾な物言いに不信感とい

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悪い人ほど“火”が似合う。④

悪い人ほど“火”が似合う。④

  「花火に花言葉があったら、何て言うんだろうね」

 彼女の頬が輝くと、音が大気を振るわす程に破裂する。広大な空には、これでもかと言う程の炎が飛び交っている。オーケストラが終わると、誰もが息を呑み、一拍してから誰かが拍手を送る。そして、その拍手に乗り遅れぬように様々な人々が激を送り、それは大きな喝采に変わる。それと似たように、一瞬の静寂の後に誰かが声をあげた。それは歓喜に似た雄叫びのようなものだ

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悪い人ほど“火”が似合う。③

悪い人ほど“火”が似合う。③

 彼女と知り合ってもうすぐで二ヶ月が経とうとしていた。

 春の木漏れ日もなくなり、季節は夏に向かっている。私は彼女と数回目の食事に行く、約束があった。彼女が仕事を終わらせる時間よりも三十分も早くに来てしまったので、働らいている喫茶店で時間を潰そうと思った。

 顔なじみになった店員さんたちにいつもの席に案内されると、私は鞄から先ほど、買った本を取り出した。中古車のカタログ。大きな買い物だが、今ま

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悪い人ほど“火”が似合う。②

悪い人ほど“火”が似合う。②

 「ポン酢のポンってどういう意味ですかね」

 和食をメインに扱った居酒屋に私は彼女と二人でいた。彼女は机に常備された調味料の中からポン酢を手に取り、私に聞いた。彼女は疑問に思った事をすぐに口に出し、質問したくなるようだった。

「オランダ語で柑橘類っていう意味らしいよ」私はいつもの癖ですぐに携帯を取り出し、検索をかけていた。情報は力だ。知る方が知らないより優位にたてる。

 そして、一つの疑問が

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悪い人ほど“火”が似合う。①

悪い人ほど“火”が似合う。①

 「花火に花言葉があったら、何て言うんだろうね」

 彼女の頬が輝くと、音が大気を振るわす程に破裂する。広大な空には、これでもかと言う程の炎が飛び交っている。オーケストラが終わると、誰もが息を呑み、一拍してから誰かが拍手を送る。そして、その拍手に乗り遅れぬように様々な人々が激を送り、それは大きな喝采に変わる。それと似たように、一瞬の静寂の後に誰かが声をあげた。それは歓喜に似た雄叫びのようなものだっ

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ドク・ハク

ドク・ハク

 あいや、暫く。おまっとさんと参上だ。我がドコの誰かはさておいて、いっちょ、饒舌、演説、聞いとくれ。これから御伝えするお話、小話、おとぎ話は実に痛快、難解、奇々怪々。どかの星の、どこかの場所で、落っこちるように産み落とされては、迷子のように彷徨っている生き物のお話です。彼、彼女。どちらで呼べば良いのか分からない。性別も不確かな生き物です。性別だけではありませぬ。子供、大人、老人と一定の形で留まらず

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零時一分のシンデレラ

零時一分のシンデレラ

 『妖精は杖を一振りすると灰かぶりの娘は美しく変貌しました』

「時間が止まってるみたい」

 涼は川を見ながら呟いた。野口美紗季も覗き込むように眺める。

東京で珍しく雪が積もった日。電車もバスも大幅に運行時間が遅れると情報を知った美紗季は幼稚園が終わった涼を歩いて迎えに行っていた。

 川の水は気温のせいで凍っている。普段、流動している水の流れはその場に留まっていた。

時間が止まる事なんてな

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パンスペルミアの雪

パンスペルミアの雪

 灰色の空が街を覆う。

 “ダスト”と呼ばれる無数の粒子は空気に絡まり、街を灰色に変える。

この星は元々、四季という四つの季節に分かれていたらしい。暑かったり、寒かったりと。その時期折々の様々な気候で一年が過ぎていったらしい。

 夕方の電車には多くの人がおり、私は満員の車内に身体を捻じ込ませるように立っていた。

 前にはサラリーマンが二人、座っていた。上司と後輩の関係なのか、歳を召した上司

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