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中編

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少し長めの怪談です。
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#小説

闇と山の怪【怪談】

闇と山の怪【怪談】

「・・・・・・・・・・・・ここどこだ」
これもさっき通った岩に見える。その木も草も、石の割れ目さえも同じに見える。崖を登っては降り、森を抜けてもまた似たような景色に戻ってくる。それ程高い山ではないはずなのに、民家一つ、鉄塔一つ見当たらない。太陽はすっかり尾根に隠れてしまい、影や物の輪郭は溶けて混じり、自分の足元を照らす懐中電灯のみが確かだった。

六合を越えて山道に突き出た針葉樹を潜り抜けた拍子に

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或る部屋

或る部屋

これは数年前、知人のKから聞いた話である。

Kの実家は京都の中央区にある二条駅から歩いて10分程度行った所にあるらしく、軽く築100年は越えているそうだ。昔ならではの瓦屋根に木で出来た門戸、色褪せた塗り漆喰の壁が古き良き時代を感じさせる。

 そんなKの実家の2階には、半ば開かずの間と化した8畳程の部屋があると言う。そこには掛け軸があり、どの角度から見ても描かれている女と目が合ったり、誰もいない

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ざくっ【怪談】

ざくっ【怪談】

私が住んでいる岡部マンションは築27年と地方な割に新しく、ファミリー向けな事もあって子連れの入居者が多い。近くには隣接する小中学校もあり、夜でも煌々と街灯が照らし続けているために、体感ではあるが、犯罪の数も少ないように思う。近所の噂好きのママ友たちに聞いても「だいぶ前に酔っ払いが道に飛び出した」くらいしか話に上がってこない。それほど平和な街だった。

このマンションに決めたのもその安心が理由だった

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……ぽちゃん

先月の半ばぐらいからだろうか。
浴室の換気扇から妙な音がする。
ずっと鳴っている時もあれば、2、3日鳴らない事もある。
基本的に回しっぱなしにしているので、仕事でいない日中にも鳴っているのかもしれないが、とにかく妙な音なのだ。
こう、紐とか草なんかを硬い物に当てると、ペチンみたいな軽い音がすると思うのだが、まさにそんな感じの音が換気扇から聞こえてくる。
配線が切れたかもしくはホコリとか、無いとは思

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人気のアパート

これは大学で出会った友人の話です。

県内にある大学へと進学して間もなく、サークル内で友人が出来ました。休日にはよく買い物に出掛け、互いの家で飲み明かすこともあるくらいに仲良くなり、親友と言っても過言ではありませんでした。

その友人は元々実家暮らしなのですが、何を思い立ったか一人暮らしを始めると言い出しました。別に止める理由も無かったので、そこそこに部屋探しを手伝いつつ、あーでもないこーでもない

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お化け屋敷

私が学生だった頃の話です。縁あって恩師の紹介でとあるバイトをする事になりました。

それがお化け屋敷のバイトでした。

昔ながらの博物館の一角にあるイベントスペースを改造して学校に見立てたセットを創り、そこに出るお化けの役、という事でした。主に二人でセットの仕掛けを回しつつ要所要所でお化けとして出てお客さんを驚かすバイトで、企画自体がその博物館や主催者含め初めての試みだったそうです。
お客さんはた

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固くもなく柔らかくもない「何か」【オカルト】

固くもなく柔らかくもない「何か」【オカルト】

夕暮れ。まだ夏の装いから衣替え途中の山々が、熱くも冷たい風を運んでくるくらいの時節だった。
その日は週末で仕事も終わり、近所の子供達が遊ぶのを眺めながら一人のんびりハイボールを呑んでいた。
毎週ではないが、こうやって一人で呑むのが楽しみでもあり、逆に言えばそれくらいしか楽しみが無いとも言える。ただ、季節の移ろいを肌で感じられるのは、この上ない幸せだった。

子供達がサッカーをしていて、確か5年生く

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揺れ【オカルト】

揺れ【オカルト】

私の実家は九州のとある山岳地帯に位置し、庭からは近隣の(と言ってもそこそこに離れてはいる)点々と存在する民家を一望出来る。かなりの田舎故にコンビニは勿論、インフラも整っていない。以前は二時間に一本あったバスも不況の影響を受けて更に減便、車頼りの生活が加速していた。然しながら年寄りが多い為、公共交通機関が無くなる事は本当に死活問題だった。

そんな私の実家で起きた不思議な体験だ。

実家はかれこれ築

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瓜二つ【オカルト】

瓜二つ【オカルト】

 集団下校中の児童3人が夜になっても帰って来ず、そのまま行方不明になってしまったという事件が起きた。犯人の目星も付かず証拠品も何も見つからない。
 話に上がるのは、消えた児童と似た格好をした人物がいたらしいという事だけ。結局、一年が経過しても犯人が見つかる事はなかった。
 ある日集団下校のお知らせが届いて、仕事でいない夫の代わりに私が他の子達と共に帰る予定になっていた。子供が勢い良く昇降口から飛び

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地下鉄

 高校二年の夏、友達に連れられ茹だる暑さの街中を歩き回り、無駄に冷房の効いたビルを行き来したせいもあって気分が最高に悪くなっていた。
 元はと言えば私が買い物に行きたいと言い出したのだが、途中で話題のジュースを手に入れる為、炎天下の歩道で待っていたのも良くなかった。案の定日射病にかかり、買い物は中断。涼しい店内で休んだおかげである程度回復したものの、友達と帰る方向が逆だったので一人で帰る他なかった

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海浜公園【怪談】

海浜公園【怪談】

これは私が中学校にあがり、新しく出来た友人達と近くの海浜公園まで遊びに出掛けた時の話です。
家から公園までは2駅と程近く、海開きに合わせて出来たレジャー施設の事もあってそこに行くと決まりました。何処まででも続きそうな海岸線と小さい子供も遊べる遠浅が目玉で、毎年と言っていいくらいテレビで報道されていました。
私達は海に着くなり必要無さそうな浮き輪とカラフルな水鉄砲を取り出して、宿題も学校のあれこれも

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