お化け屋敷

私が学生だった頃の話です。縁あって恩師の紹介でとあるバイトをする事になりました。

それがお化け屋敷のバイトでした。

昔ながらの博物館の一角にあるイベントスペースを改造して学校に見立てたセットを創り、そこに出るお化けの役、という事でした。主に二人でセットの仕掛けを回しつつ要所要所でお化けとして出てお客さんを驚かすバイトで、企画自体がその博物館や主催者含め初めての試みだったそうです。
お客さんはただ通路を進むだけでなく、自分で備え付けられたロッカーやトイレに隠れなければいけない、ある意味体験型のお化け屋敷でした。
私自身としてもお化け屋敷のバイトは初めてでしたし、お化け屋敷に入る事はあれど裏側を知れるのでとても楽しみにしていました。
始まってみるとそれはもう目が回る程の忙しさで、楽しさを感じているのも初めのうちだけでした。1組が体験する時間は5分から10分くらい、早い組だと3分程で終わってしまう為休憩する暇も無く、その博物館のスタッフの方の力を借りながら回していました。
怖がったお客さんから押しのけられて怪我をしたり、機材を倒されたり等のアクシデントに見舞われつつも夏休み期間な事もあって大盛況でした。

そんなある時、休憩に入ろうとした際に同学年の女の子が私の所にやってきて
「何か話す事でもあったの?」
と、聞くのです。
私はさっぱり意味が分からず、どういう事かと聞き返しました。すると彼女はこう言いました。
「角の所からを私見てたから何かあったのかと思ってさ、ちょっと早かったけど休憩の事でも伝えに来たのかと」

私はますます訳が分からなくなりました。
確かにお化けの役ですし、白いワンピースに長い黒のウィッグを被っていたので、もし彼女を訪ねればすぐに私だと分かります。

しかし、私はその時自分の持ち場にいました。そこは、絶対に彼女から見える位置では無いのです。
彼女の位置から私の所に来るには角を2回右に曲がり、10メートル程進んでもう一度右に曲がって来るしかありません。
お化け屋敷に入ったことのある人はより分かるかとは思いますが、周りは全部人よりも背の高い壁やドアで囲まれているため先を見ようとするならよじ登るしか無い。
それに彼女が見たと言ったのは1個目の角。鏡も無いのにどうやって見えるというのでしょうか……。

その私達に似た「何か」はその日を境に頻繁に現れるようになりました。見たのはバイト組や博物館のスタッフだけでなく、お客さんの中にも見たと言う人がいました。そのクチコミのお陰か更にお客さんの数は増え、元々出す予定の無かった整理券を配布しても即完売し、300分待ちという驚異的な集客になっていました。
夏休みも終盤になるとそこまでのお客さんは来なかったものの、商業的な目線で言えば大成功を収める結果となりました。

翌年も開催する事が決まり、私はそこにも参加しました。驚く事にと言うかやはりと言うか、そこでも私達スタッフでない「何か」が姿を現しました。
人によって証言はまちまちですが
「白い服の女が床を這いずり回っていた」
「下半身の無い人がいた」
「隙間から誰かが覗いていた」
などなど。

とある遊園地にあるお化け屋敷なんかは、歴史もありますし出るのも頷けます。実害こそ無かったですし、むしろそのおかげもあって大成功だったのでお化け様様といった感じではあったのですが、しかしあんな即席のお化け屋敷にですら霊が出てくるというのは私には驚きでした。


これは後日談ということになるのでしょうか、夏休みが開けて暫くした頃、放課後にクラスメイトと教室に残って話していると冗談めいた口調でこう言いました。

「そう言えば、二学期になってからよく幽霊が出るようになったって聞くけど、お前知ってる? 下半身が無い女の人が教室の隅で這いずり回ってるんだってさ」

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