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輪廻の風 第2章

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#ファンタジー

輪廻の風 2-27

ラベスタとエラルドは、投獄されるまでに至るお互いのこれまでの経緯をそれぞれ話し合った。

「そうか…バスクと闘ったのはお前だったんだな…。」

「うん。バスク、すごく強かったよ。」

「あいつと渡り合うなんて、お前なかなかやるじゃねえか。だけどウィンザーさん…いや、ウィンザーには流石に手も足も出なかったろ?」

「うん…あの人はちょっと、レベルが違ったね。」ラベスタはウィンザーの桁違いの強さを思い

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輪廻の風 2-26

ロゼは生まれて初めて劣等感に苛まれた。

大国の王族にルーツを持つロゼは、これまでの18年間の人生で、他者に対して劣等感を抱いたことなど今までただの一度もなかった。

そのため、自分でも今感じているこの感覚の正体が"劣等感"であるということに気づいていなかった。

イヴァンカと目が合った時、ロゼはまるで大空を天翔ける神聖な龍を、土の上から見上げるだけのミミズになったような気分になった。

イヴァン

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輪廻の風 2-25

「…ぐはっ!」
エンディはマルジェラに、先程いた階よりも上に位置する部屋へと連れ込まれた。

部屋に着くや否や、マルジェラはエンディの顔を掴んでいた手を離し、乱暴に投げた。

エンディは呆然と目の前に立ち尽くすマルジェラに殴りかかった。

拳には風の力をこれでもかと言うほどに纏いマルジェラを殴ろうとしたが、マルジェラは片手で軽く振り払った。

エンディは驚いたが、それでもめげずに立ち向かった。

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輪廻の風 2-24

「お前は、エラルド…!そんな怖い顔してどうしたんだよ?」
エンディは顔色を伺うように言った。

「…バスクを殺ったのはてめえか?」
エラルドは凄みのある口調で尋ねた。

「バスク?誰だそれ?」
エンディは話の趣旨が分からず困惑していた。

エラルドは、エンディの反応を見てバスクを殺したのはコイツではなさそうだと察した。

「そうか、まあいい。どの道てめえらは全員…俺が殺してやる…!」
エラルドは狂

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輪廻の風 2-23

「お父さんの宝物って、なあに?」
ロゼは幼い頃、レガーロにこのような質問をしたことがある。

レガーロは険しい顔で黙りこくった後、ロゼの頭上に優しくポンと手を置いた。

「宝物か…お前かな?」
レガーロは優しい笑顔でそう言った。
幼きロゼは、それがとても嬉しかった。

これは、ロゼが見た最初で最後の父レガーロの笑顔だった。

ロゼはマックイーンと対面している最中、その時の記憶を克明に思い出していた

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輪廻の風 2-22

ラベスタとバスクは時間を忘れて剣を交えていた。

一体どれ程の時間を戦闘に費やしただろう。
そんなことを考えている暇もないくらいに、2人は無我夢中になっていた。

ラベスタは自身より格上の相手と命のやり取りを行う時間の中で、確実に腕を上げて成長していた。

ノストラとの修行での応用が効いていた事もあり、徐々にバスクのスピードに慣れ、動きを見切ることが出来るようになっていた。

2人は疲れ果て、横並

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輪廻の風 2-21

「見るからに強そうだなあ。」
ラベスタは呑気に構えていた。

バスクは剣を抜き、猛スピードでラベスタに斬りかかった。

ラベスタは即座に反応し、ギリギリで防いだ。

ガキン、と大きな太刀音が響いた。

「ほう、いい反応だ。兄ちゃんよ、何の目的でここに来たんだ?」
バスクが尋ねた。

「ノヴァを助けに来た。」
ラベスタは何の迷いもなく答えた。

「ほう、やっぱりな。お前ら今はなきプロント王国の同じ孤

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輪廻の風 2-20

「十戒のユリウス・アマレットよ。あんたたち、ロゼの犬ね?」
アマレットは気取った口調で言った。

「へー、あんたみたいな小娘が?十戒って、よっぽど人手不足なのね。」
ジェシカが嘲るように言った。

「若を返してもらうわよ。」
モエーネが強気な口調で言った。

「返してもらうも何も、あの男は自ら進んでユドラ帝国に来たのよ?」
アマレットは理屈に合ったことを言った。

するとエスタは、スタスタと歩き出

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輪廻の風 2-19

「み、見逃してくれよ…頼むよ…な?」

目の前で、傷だらけの黒装束の男が尻もちをついて命乞いをしている。

夢の主の男は、何も言わずにその男を凝視していた。

「仕方ねえじゃねえかよ、神は死んだんだ…俺みたいなのが生き残るためには…魔族の仲間入りするしかなかったんだよ…!あの悪魔には…誰も敵わない…!」
男はボロボロと涙を流しながら、胸中を打ち明けた。

すると夢の主の男は同情したのか、何も言わず

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輪廻の風 2-18

神々の聖地、ユドラ帝国は目を見張るほど美しくて幻想的な国だった。

標高約1000メートルの山麓と鞍部に築かれたこの都市は、神話では「空中都市」と記されている。

白を基調とした美しく格式のある建造物が立ち並び、まさに神秘的だった。

「綺麗…。」 「絶景…。」
ジェシカとモエーネは、思わず見惚れてしまっていた。

「全く、相も変わらず辛気臭い街じゃのう!」ノストラは憎まれ口を叩いていたが、内心で

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輪廻の風 2-17

今日もディルゼンには厳戒態勢が敷かれていた。

王が不在の中、いつ何時外国勢力が侵攻してくるか、ユドラ人が蹂躙してくるか、王都にはピリピリとした空気が張り詰められていた。

エンディとロゼの捜索も、引き続き行われている。

そんな中エンディ達御一行は、大胆にも軍の演習場に息を潜めながら忍び込んでいた。

地味な服を着て深く帽子を被り、一般市民に紛れて軍や保安隊の目を掻い潜りながら、なんとか演習場へ

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輪廻の風 2-16

エラルドはユドラ帝国に帰還した。

ユドラ帝国の宮廷内にある長い長い渡り廊下を1人、堂々とした態度で歩いている。

そして、とある部屋へと入って行った。

その部屋は十戒の会合の場に使われており、殺伐とした雰囲気に包まれていた。

部屋には立派な円卓があり、真ん中に火の付いた大きてお洒落なロウソクが置かれていた。

円卓には4人が既に着席していた。

「エラルド〜、おめえ何勝手な事してんだよ〜??

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輪廻の風 2-15

「それにしても、よくワシの居所が分かったなあしかし。」
ノストラは感心する様に言った。

「バレンティノ相手にあんだけ派手にやり合ったんだ。そりゃ気がつくぜ?ディルゼンにはウチのスパイが山ほど入り込んでるからなあ。下らねえお喋りはこの辺にして、さっさとおっ始めようぜぇっ!」
エラルドは早く戦いたくてウズウズしていた。

そして、勢いよくノストラに殴りかかった。

しかし、 ノストラは突然うめき声を

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輪廻の風 2-14

エンディとラベスタが山籠りの修行を開始して1週間が経過した。

時刻は午後19時をまわった。

バレラルク王国では、近衛騎士団と保安隊が血眼になってエンディとロゼの捜索をしている。

国内では厳戒態勢が敷かれ、軍隊と兵団員が厳重に警備をしていた。

ディルゼン郊外の山間地域では、サイゾーとクマシスが2人で捜索活動を行なっていた。

「これだけ探しても見つからないとなると、2人とももう国外にいるんじ

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