輪廻の風 2-27



ラベスタとエラルドは、投獄されるまでに至るお互いのこれまでの経緯をそれぞれ話し合った。

「そうか…バスクと闘ったのはお前だったんだな…。」

「うん。バスク、すごく強かったよ。」

「あいつと渡り合うなんて、お前なかなかやるじゃねえか。だけどウィンザーさん…いや、ウィンザーには流石に手も足も出なかったろ?」

「うん…あの人はちょっと、レベルが違ったね。」ラベスタはウィンザーの桁違いの強さを思い出し、少し背筋が凍った。

「まあよ、今更あーだこーだ話し合っても状況は何も変わらねえからやめようぜ?ここに収監されてる以上、俺たちは2度と太陽の光を浴びることは出来ねえんだ。死ぬまで奴らにコキ使われるのは間違いねえぜ?同房の俺たちは、運命共同体だな…。」
エラルドは、全てを諦めた様な表情で言った。

そんなエラルドに対し、ラベスタは呆れた表情で「お前って思ってたより情けない奴なんだね。」と言った。

エラルドはムカッとした。

「あ?じゃあてめえこの状況で何かできんのかよ?ウィンザーの強さはてめえも知ってんだろ?仮にここを出れたとしても、奴と同格の戦士が後4人もいるんだぞ?さらにその上にはイヴァンカがいる。カインの強さも、未知数だしな…。」

「諦めるのは良くないよ。何も行動せず文句ばかり言っても状況は変わらない。」

「てめえっ!さっきから癇に障る言い方ばっかしやがって!!」

エラルドが激昂した様子でそう言うと、ラベスタは「バスクはいい奴だったね。あいつは敵だったけど、死んで欲しくなかったな。」とボソリと呟いた。

「あ?何言ってんだ急に?」

「大切に思っていた人間の死は辛いよね、よく分かるよ。もう2度と会うことも触れることも喋ることもできないんだから。だけどね…誰かの死は、次の何かに繋げなければいけないと思う。生前の生き様をしっかり目に焼き付けて忘れず、その思いや遺志を受け継ぐのが残された者に課せられた義務だと思うよ。それを胸に刻んで、先に旅だった者に顔向けできるよう前向いて真っ直ぐ生きることが一番の餞だと思うよ。」
ラベスタは、亡き妹ルシアンの生前の笑顔を思い出しながら言った。

以前のエラルドは、他者がどれだけ懇意に問いかけても決して聞き入れようとしなかった。
しかし今は、ラベスタの話にしっかりと耳を傾けていた。

「バスクは子供が大好きだったよね。バスクが死んだ今、あの子供たちは誰が護るの?エラルド、お前はバスクを実の兄の様に慕っていたらしいね。だったらお前には、バスクの遺志を継いで、バスクの護りたかったものを護る義務があるんじゃないの?」
ラベスタが言った。

エラルドは瞼を閉じ、ゆっくりと頭の中を整理しながら、今後の自分のやるべきことを考えていた。

そして目を開けると、その眼力はさっきとは比べ物にならないほどに澄んでいた。

心を入れ替えたエラルドは、以前とは比べ物にならないほど素直になっていた。

「昔な、バスクに言われたことがあるんだ。"失敗を改めないことが最大の失敗"だってな…。ありがとよラベスタ、お前のおかげで目が覚めたぜ?だけどよ…。」

「だけど?何?」

「それでもここから脱獄するのは不可能なんだよ…。」エラルドは再び弱気になった。

「どうして?本当に何も打つ手がないの?」

「無いことはないんだけどな。ほら、檻をよく見てみろよ。なんか結界みたいなもんが張り巡らされてるだろ?」
エラルドに言われるがまま、ラベスタは檻をじーっと見ていた。

「あの結界はな、ユリウス家っていう魔術を扱う一族によって施されたもんなんだ。それを解除できるのは、ユリウス家の人間のみ。ユリウス家最後の生き残りであり、十戒のメンバーの1人であるアマレットを連れてこねえと絶対に解除出来ねえんだよ…。あの高飛車で高慢ちきな女が、こんな辛気臭え場所にわざわざ来ないだろうしな…ここに閉じ込められてるこの状況じゃ、呼び出す手段もねえし…。」エラルドは、万策尽きて諦めている様な顔をしていた。

すると、噂をすれば何とやら、なんと檻の前にアマレットが現れた。

「あれ?エラルドじゃん。あんた何で投獄されてんのよ?」アマレットが不思議そうに言った。

そして、アマレットの後ろにはロゼ達もいた。

「よっ、ラベスタ。久しぶりだな?助けに来てやったぜ?」ロゼが言った。

「え…え?アマレット?ロゼ?え?なんでお前らがここにいるんだよ??」
エラルドは思いがけない状況に思わず取り乱してしまっていた。

「ロゼ王子…みんな、どうしてここに?」
ロゼの登場に、ラベスタも驚いていた。
そして、ロゼの後ろに横並びになっているエスタ、モエーネ、ジェシカの3人の後ろに、小さな人影の様なものが見えた。
よく目を凝らして見てみると、その人影の正体はノヴァだった。

「ようラベスタ、聞いたぜ?俺のこと助けに来てくれたんだってな。ったく無茶しやがってよ、ぼろぼろじぇねえかよ…ありがとな。」
ノヴァは照れ臭そうに礼を言った。

「ノヴァ…!?無事だったんだね、良かった。」ラベスタは歓喜のあまり、珍しく大きな声を出した。そして、元気そうなノヴァを見て心の底から安堵した。

「ノヴァがここに捕まってるって聞いてよ、アマレットに案内してもらったんだ。そしたらお前らが同じ房に収監されてるからよ、びっくりしたぜ?よしアマレット、こいつらも解放してやってくれ。」

ロゼがそう言うと、アマレットは杖を取り出して「リベラシオン」と唱えた。

すると、檻に張り巡らされた結界が瞬時に消えた。

エラルドとラベスタは脱出に成功した。

「マジかよ、本当に脱獄できたぜ…それもこんなに早く…。」エラルドは脱獄した実感が湧かず、困惑していた。

「エラルド、なんで捕まってたのよ?何かヘマでもしたの?」アマレットが訪ねた。

「まあ…そんなとこだな。お前こそ何でロゼ達といるんだよ?」
エラルドがそう尋ねると、エスタが剣を抜いて2人の間に入った。

「おい、エラルドと言ったな。お前十戒だろ?お前は俺たちの敵か?味方か?」
エスタはエラルドを威嚇していた。

「生意気そうなガキだな。別に敵でも味方でもねえよ。てかロゼ、お前やっぱりユドラ帝国にきたのは内偵が目的だったんだな?」

「エラルド、今はそんなことはどうでもいい。お前がこれからどう動こうと勝手だけどよ、俺たちの邪魔をするんならここで始末していくぜ?」
ロゼは厳しい口調でそう言い放った。

するとエラルドは、重い口を開いた。

「俺は…ユドラ帝国が大好きだ。ユドラ人として生まれてきたことにも誇りを持っている。ここで拾ったこの命、これからもユドラ帝国に捧げながら闘っていくつもりだ…!だから…ユドラ帝国の平和のため、悪しき野郎どもを…雷帝をぶっ潰すためにこれから闘う!だからてめえら、力を貸すぜ。」
エラルドは腹を括っていた。

「エラルド、よく言った!お前カッケェじゃねえかよ、見直したぜ?」
ロゼは嬉しそうに言った。

「よし、そうと決まればやる事はあと一つね!アマレット、次は謁見の間に案内して!イヴァンカも筆頭隊も、そこにいるんでしょ?」モエーネはいきいきとしていた。

すると、近くの牢獄から邪悪な声が聞こえてきた。

「ククク…バレラルクの王子とその部下達が、ユドラ人と手を組んでこれから雷帝に喧嘩を売るってか?俺が社会不在の間に、随分と面白えことになってるじゃねえか。」

ロゼ達はびっくりして、恐る恐る声のする牢獄を見た。

そこには、檻の奥の暗闇で瞳をギラつかせたアズバールがいた。

「てめえは…アズバール!?」
「こいつもここに捕まってたのか…!」
ロゼとエスタは動揺していた。

「こいつが大陸戦争史上最悪の大罪人、アズバールか。」エラルドはアズバールをまじまじと見ながら言った。

「俺を解放しろ。お前らだけじゃ役不足だろ?この俺をこんな目に遭わせたユドラ人共は、1人残らず殺してやる。雷帝イヴァンカもな?」アズバールは不敵な笑みを浮かべていた。

「分かった。アマレット、こいつを解放してくれ。」
ロゼは少し悩んだが、すぐさまアズバールの要求を呑んだ。

「おいおい…正気かよ?」
「若…この男は信用できません!解放するべきではないと思います!」
ノヴァはロゼの決断に疑問を呈し、ジェシカは反対意見を述べた。

「こいつがいれば相当な戦力になる。相手はあまりにも強大だからな、味方は1人でも多い方がいい。たとえそれが悪党であってもな…。」ロゼは真剣な表情で言った。

「ククク…さすがはロゼ王子、物分かりがいいじゃねえかよ?」
アズバールが言った。

そして、アマレットは先ほどと同じ方法でアズバールを解放した。

アズバールは危険な空気を漂わせなが、ゆっくりと監獄から出てきた。

「妙な真似しやがったら、俺がお前を殺すからな。」ノヴァはアズバールに殺気を放ちながら言った。

「ククク…まさかお前みてえなガキがノヴァファミリーのボスだったとはな、驚いたぜ。今はバレラルク兵団の兵長らしいな?足引っ張るんじゃねえぞ?」

「なんだと…!?」

「2人とも、喧嘩はやめて。」
さっそく険悪な雰囲気になった2人を、ラベスタが宥めた。

「まさかこいつと手を組むことになるとはな…イカついぜ。まあよ、異能者もいるし数もこっちの方が多い…この戦い、絶対に勝つぞ!」
ロゼがそう言うと、全員の身が引き締まった。

それぞれの思惑は違うが、打倒イヴァンカを大義名分に1つのチームが結成された。

歪なチームではあるが、一応一つの形を成していた。

一行は、イヴァンカと十戒筆頭隊、そしてカインがいる謁見の間を目指して進み始めた。





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