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短編小説

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2022年5月の記事一覧

短編【不幸の星】小説

短編【不幸の星】小説

人は皆、生まれた瞬間から宿命と言う名のリュックを背負っている。そのリュックの中には星のかけらが入っているのだ。

貧乏の星。金持ちの星。心配症の星。冒険家の星。ワキガの星。美形なのに何故か異性にモテない星。ウンコみたいな顔のくせに何故かモテモテの星。付き合う男、付き合う男全てが何故か無職になるニートの星。付き合う女、付き合う女全てが何故か万引きをする節約家の星…。

そういう星の元に人は生まれてく

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 短編【冷蔵庫の記憶】小説

 短編【冷蔵庫の記憶】小説

「安藤くん、安藤くん、起きて」

冷たいステンレス製の天板の机に突っ伏している安藤の肩を若い女が揺らす。意識を取り戻した安藤は渇いた喉を唸らせて目を覚ます。

「ん?あれ?おれ寝てた?みんなは?」
「みんな帰ったよ」
「マジかよ…。久しぶりの同窓会で、みんなと話ししたかったのに」
「何言ってんだよ。もう三次会だぞ。散々話したじゃないか」

若い女の側に立っている白髪混じりで精悍な顔つきの男が言う。

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短編【喧嘩するほど仲がいい】小説

「明日、久しぶりの休みだから、どこか行こうか?」
と彼氏の克也が言った。
「うん」
と彼女の煌羅理が言った。

「どこ行く?」
「どこでもいいよ。カっちゃんと一緒だったら煌羅理、どこでもいいよ」
「んー。どうしようかなー。色んな所に行ったから、もう行く場所がないなー」
「そうだね。付き合って7年だもんね」
「7年かー。まだ付き合って2,3ヶ月しか経っていないような気もするし、もう10年以上経ってる

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短編【真夜中の電話】小説

短編【真夜中の電話】小説

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あの人に振られた。三年も付き合った彼に振られた。別れは突然やってきた。突然と思ったのは私だけだったのかもしれない。彼の心はもっと前から私から離れていたのだろう。私は鈍感な女だ。

「本当にゴメン。お前といても、何ていうか…。つまらないんだ。お前と一緒にいる時間が苦痛なんだ。だから、別れてくれ」

それが別れの言葉だった。他に好きな人が出来た。とか、アメリカに渡って語学の勉強をしたいから。とか

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短編【上を向いて歩こう】小説   

短編【上を向いて歩こう】小説   

「いやぁぁ、今日のあの店。あそこは当りだったな」
「まったくだ。値段もちょうどいいし、何より、ネェちゃんが綺麗だった」
「だよな!だよな!あんな綺麗所をそろえて、ホントに一人三千円ポッキリだったよな。俺、店に入ってネェちゃん見た瞬間に、やられた!って思ったもんね」
「俺も」
「五万円は覚悟したもん」

サラリーマンが二人、雨上がりの夜道を歩いている。繁華街からだいぶ離れ数メートル置きに街灯が灯る寂

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短編【俺だけのヴィーナス】小説  

短編【俺だけのヴィーナス】小説  

朝、目覚めると右の手の甲に眼が出来ていた。

目覚めたばかりで一瞬事態が飲み込めなかった俺は、もう一度、手の甲を確かめた。そこには間違いなく小さな眼がポツンと出来ていたのだ。

昨日、飲みすぎたか。

いや、飲みすぎたからと言って手の甲に眼が出来るなんて、そんな話は聞いたことが無い。

睫が長いところを見ると女性のようだった。少し垂れ気味の目尻、太くも無く細くも無く、整った眉毛。

瞳だけ見ればす

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短編【勝ちと負けの境界線】小説

短編【勝ちと負けの境界線】小説

「ほんと、あの男はサイテーなのよ」
「もう判ったから、いい加減帰ってくれよ」

俺はチラッと時計を見る。100均ストアで買った壁掛け時計は二十三時を示している。引っ越してきた時に買ったものだから、もう五年は持っている。けっこう持つもんだなあ。

「お兄ちゃんも、やっぱり男だね」
「はぁ?」
「あんなサイテーな男の肩を持つの?」
「何言ってんだよ。なあ、もうそろそろ」
「帰んないよ」
「お前、まさか

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短編【考える葦】小説

短編【考える葦】小説

『人間は考える葦である』と言ったのはパスカルだが、私に言わせれば、ん?パステルではない!パスカルだ。パスカルも知らないのか。君はこの仕事を軽んじているのか?一人前になりたければ勉強をしなさい。どこまで話した?そうそう『人間は考える葦である』だ。だが私に言わせれば多くの人間は『考えない葦』なのだよ。いいか、我々詐欺師の最初の仕事はこの『考えない葦』を探す事なのだ。その足じゃない!葦と言うのはイネ科の

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短編【真夜中の囁き】小説

短編【真夜中の囁き】小説

「先輩って、ご結婚されて何年になります?」
「ん?俺?あー、もう十二年だな」

コロナの終息宣言が出て五年が経った。今ではあの頃は大変でしたねえ、と言う昔話のネタのひとつになっている。聞くところよると高校の社会科の教科書にも発端から終焉まで、各国の対策の成功と失敗が記載されているらしい。歴史の一部になったのだ。今でもコロナは続いてはいるが死亡者は居ない。正確には合併症での死亡者はいるが、コロナウイ

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短編【幽霊物件】小説

短編【幽霊物件】小説

神奈月小夜子と中田由美子は中学生の時からの腐れ縁だ。腐れ縁というのだから元々仲が良かったわけではなかった。中学二年の時、ひとりの男子生徒を巡って学年を巻き込んで壮絶な恋愛バトルを繰り広げたというのは、いまでも語り草になっている。小夜子も由美子もそこそこ可愛く、まあまあ姉御肌で、かなり我が強かった。普通、こういうキャラクターは学園ドラマなら一人居れば十分なのだが現実世界が常にそうとは限らない。他の女

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短編【今日はクリスマス・イブ】小説

短編【今日はクリスマス・イブ】小説

「カナちゃん。いつまでベランダにいるの?風邪ひいちゃうから、早くお家に入りなさい」
「だって、サンタさんが心配なんだもん」
「大丈夫よ。心配しなくても、サンタさんはちゃんと来ますよ。だって、カナちゃんはとっても良い子なんだから」

今日はクリスマス・イブ。あと、ふた月で七歳になる娘、カナコがベランダから夜空を見ている。サンタクロースを待っているのだ。こういう時のカナコは本当に可愛い。こういう時とい

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短編【夜間タクシー】小説

短編【夜間タクシー】小説

有るときは舞台役者。有るときはラジオ・パーソナリティー。そして、また有るときはシナリオ・ライター。それが今の俺の肩書きだ。近々、俺が所属する劇団インディゴブルーの本公演がある。そこで上演する芝居の台本を書いているのだが。…ネタがなかなか思い浮かばない!まずい!完全にスランプだ!面白い話を探さなくては!今、俺は必死になって面白い話しをかき集めている。面白い話と言っても笑える話しだけではない。勿論、笑

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短編【国家公認の詐欺師】小説

短編【国家公認の詐欺師】小説

「人を騙し、金品を搾取する事を詐欺という。詐欺は犯罪だ。刑法246条にも『人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する』と明記されている。ところが、この法治国家日本には国が認めた、いわば国家公認の詐欺師達がいるのだ。占い師や霊媒師達がそうだ。彼らは絶対に外れない予言をして人々を騙す。絶対外れない予言とはなにか?それは、当たった時しか、その真偽を判定できない予言の事だ。例えば、「身内に不幸

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短編【てっちり鍋】小説   

短編【てっちり鍋】小説   

「って言うコントを考えたんだけど、どう思う?」
「先輩。僕は好きですけどね。ただ下品です。ただ、ただ、下品です。笑うのは男性客だけで女性客はドン引きでしょうね」
「だよねー」

フグ料理屋の個室で、劇団インディゴブルーの先輩役者、濱田源は後輩の古賀知義に自分が創ったコントの台本を見せた。コントのタイトルは『072論』と書いてある。

「ウチの劇団の品位が疑われますよ?アンケートになんて書かれるか、

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