2022年5月の記事一覧
短編【不幸の星】小説
人は皆、生まれた瞬間から宿命と言う名のリュックを背負っている。そのリュックの中には星のかけらが入っているのだ。
貧乏の星。金持ちの星。心配症の星。冒険家の星。ワキガの星。美形なのに何故か異性にモテない星。ウンコみたいな顔のくせに何故かモテモテの星。付き合う男、付き合う男全てが何故か無職になるニートの星。付き合う女、付き合う女全てが何故か万引きをする節約家の星…。
そういう星の元に人は生まれてく
短編【喧嘩するほど仲がいい】小説
「明日、久しぶりの休みだから、どこか行こうか?」
と彼氏の克也が言った。
「うん」
と彼女の煌羅理が言った。
「どこ行く?」
「どこでもいいよ。カっちゃんと一緒だったら煌羅理、どこでもいいよ」
「んー。どうしようかなー。色んな所に行ったから、もう行く場所がないなー」
「そうだね。付き合って7年だもんね」
「7年かー。まだ付き合って2,3ヶ月しか経っていないような気もするし、もう10年以上経ってる
短編【上を向いて歩こう】小説
「いやぁぁ、今日のあの店。あそこは当りだったな」
「まったくだ。値段もちょうどいいし、何より、ネェちゃんが綺麗だった」
「だよな!だよな!あんな綺麗所をそろえて、ホントに一人三千円ポッキリだったよな。俺、店に入ってネェちゃん見た瞬間に、やられた!って思ったもんね」
「俺も」
「五万円は覚悟したもん」
サラリーマンが二人、雨上がりの夜道を歩いている。繁華街からだいぶ離れ数メートル置きに街灯が灯る寂
短編【勝ちと負けの境界線】小説
「ほんと、あの男はサイテーなのよ」
「もう判ったから、いい加減帰ってくれよ」
俺はチラッと時計を見る。100均ストアで買った壁掛け時計は二十三時を示している。引っ越してきた時に買ったものだから、もう五年は持っている。けっこう持つもんだなあ。
「お兄ちゃんも、やっぱり男だね」
「はぁ?」
「あんなサイテーな男の肩を持つの?」
「何言ってんだよ。なあ、もうそろそろ」
「帰んないよ」
「お前、まさか
短編【考える葦】小説
『人間は考える葦である』と言ったのはパスカルだが、私に言わせれば、ん?パステルではない!パスカルだ。パスカルも知らないのか。君はこの仕事を軽んじているのか?一人前になりたければ勉強をしなさい。どこまで話した?そうそう『人間は考える葦である』だ。だが私に言わせれば多くの人間は『考えない葦』なのだよ。いいか、我々詐欺師の最初の仕事はこの『考えない葦』を探す事なのだ。その足じゃない!葦と言うのはイネ科の
もっとみる短編【真夜中の囁き】小説
「先輩って、ご結婚されて何年になります?」
「ん?俺?あー、もう十二年だな」
コロナの終息宣言が出て五年が経った。今ではあの頃は大変でしたねえ、と言う昔話のネタのひとつになっている。聞くところよると高校の社会科の教科書にも発端から終焉まで、各国の対策の成功と失敗が記載されているらしい。歴史の一部になったのだ。今でもコロナは続いてはいるが死亡者は居ない。正確には合併症での死亡者はいるが、コロナウイ
短編【てっちり鍋】小説
「って言うコントを考えたんだけど、どう思う?」
「先輩。僕は好きですけどね。ただ下品です。ただ、ただ、下品です。笑うのは男性客だけで女性客はドン引きでしょうね」
「だよねー」
フグ料理屋の個室で、劇団インディゴブルーの先輩役者、濱田源は後輩の古賀知義に自分が創ったコントの台本を見せた。コントのタイトルは『072論』と書いてある。
「ウチの劇団の品位が疑われますよ?アンケートになんて書かれるか、