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短編【国家公認の詐欺師】小説


「人を騙し、金品を搾取する事を詐欺という。詐欺は犯罪だ。刑法246条にも『人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する』と明記されている。ところが、この法治国家日本には国が認めた、いわば国家公認の詐欺師達がいるのだ。占い師や霊媒師達がそうだ。彼らは絶対に外れない予言をして人々を騙す。絶対外れない予言とはなにか?それは、当たった時しか、その真偽を判定できない予言の事だ。例えば、「身内に不幸があります。気をつけて下さい」「事故に遭うかもしれません。気を付けて下さい」「大切な物を無くすでしょう。気を付けて下さい」…誰にでも起こり得る事をいい、当たれば、予言の通りだと言われ、外れれば忠告通りに『気を付けたからだ』と言う。しかし、一番の問題は、占い師や霊媒師のような詐欺師たちの存在を認めている人々がいる事だ。占いが外れたからと言って、損害賠償を請求する人がいるだろか?いや、居たとしても法律上、立件は出来ない。なぜなら国家がその存在を認めているのだから!」

朗々と述べると、俺は部屋のベッドに座っている百合香ゆりかをちらりと見た。

「完璧!一言一句、間違えてないよ。すごいね。今回は台詞覚えいいね」
百合香は手に持った台本から目を外した。

「そうなんだよ。弁護士の役なんだけど、ここの台詞だけはスっ、と入ってきてね。ほら、俺、占いとか、そういうオカルト的なものって大っ嫌いでしょ? だからこの台詞、すごく解るんだよなぁ。特に、占い師や霊媒師を『国家公認の詐欺師だ!』って言い切る所。スカッっとするなぁ!」
「ねぇ、知義ともよし
「ん?」
「明日、占いしに行かない?」
「どぇーーー!!聞いてた?今、オイラが力説してたの、聞いてた?」
「わかってる!知義が占い嫌いって事は。だけど一度でいいから占って欲しいの、私達の事」
「なんだよ。俺達上手くやってるじゃないか。なにか不満なのか?」
「そうじゃないけど、知りたいのよ、私達の将来の事が」
「もし、最悪な事言われたら、どうするの?俺と別れるの?」
「そうじゃないよ。言われたら言われたで、それを参考にして二人で乗り越えればいいでしょ?」
彼氏は売れない役者、そして自分もバイト先のフグ料理専門店が潰れてして無職。そうなってくると根拠のない「大丈夫、心配しないで」と言う未知の言葉が欲しくなる。それは理解できる。でも、どうしても俺は占いに抵抗がある。

「別にそんなモノに頼らなくても何か問題が起きたら話し合って解決すればいいじゃないか。大体、占いってモノは」
「詐欺だって言いたいんでしょ?けど、一回だけ!お願い!ね!」
「まったく…。何の占いに行くんだよ。手相?タロット?姓名判断?」
「霊感占い」
「胡散臭いー!もう胡散臭いー!ああ胡散臭い!!あ!、胡散臭いのウサンってどういう意味かな?ウーさんかな?中国人のウーさんが臭いからウーさん臭いで胡散臭いなのかな?ウーさんに失礼な話ですね!」
「その人、お祖母さんもお母さんも霊感が強くて、そういう家系なんだって」
「おい!話をそらすな!今はウーさんの話だろ!」
「そらしてるのは知義ともよしでしょ!ねー!お願い!一回だけ行こ」
「もー。っていうか一回、幾らなんだよー」
「お金はいらないよ」
「え?ただ?」
「私のお兄ちゃんの職場の人で」

百合香ゆりかの兄は小学校の先生をしている。

「そうなの?」
「うん。それで、そこの同僚の先生が凄い霊感があるんだって。お兄ちゃんも視てもらったら、もうバンバン当てちゃって」
「へーー。バンバンねぇ。…ふーん。…分った。いいよ、行っても」
「え?ホント?やった!でもどうしたの急に」
「え?ああ、そんなにバンバン当たるんなら占ってもらってもいいかなぁ、と思って」
「ふーん。じゃ、お兄ちゃんにお願いするからね?当日になって、やっぱやーめたは無しだからね!」


俺の母は愚かな女だった。警察官だった父が殉職したのも弟が交通事故で死んだのも兄貴の受験が失敗したのも、全て先祖供養ができてい無いからだと言い張る、狐の様な霊媒師に騙された。騙されて家も土地も失った。だから霊が居ると言う奴を俺は許さない………それなのに俺は彼女と一緒にその占い師に会うことにした。どうして会う気になったのか。それは実際に会って、そのバンバン当てる占い師の化けの皮を穿いでやろうと思ったからだ。相手がどんな芝居をしてくるのか楽しみだ。

それから一週間が過ぎて、ある日の日曜日、俺たちのアパートにそいつはやってきた。


「どうぞ、こちらです。場所、分かりました?迷いませんでした?」
「大丈夫でしたよ。失礼しまーす」

どんな物々しい出立ちでやってくるのかと思ったら、ユニクロで買ったようなワンピースを着た普通のふくよかな女がやって来た。


「あの、この人」
と百合香はその占い師を騙る女に俺を紹介しようとした。
「彼氏さんですか?」
間髪入れずに女がそう言うと百合香かは一瞬、息を飲んで。   

「当たった…」
と言った。
「いやいやいや!ちがいますよ?コレはただ、そうかなーって思っただけで」
「どうぞこちらに…」
そう百合香は言いながら女を部屋に促し、俺に小声で、当たった当たったと呟いた。俺は呆れて何も言えなかった。

「こちらが占い師の神奈月かんなづきさん」
「いやいや。占い師じゃないですよ?ただの小学校の教師です。占いっていうか、昔から霊感が強くて…背後霊とかご先祖様の霊を降ろして、お話を聞いて、それを伝える『口寄せ』をするんです」
「ふーん。口寄せって…イタコみたいな?」
「そうそうそうそう!そんな感じ」
「ふーん。霊なら誰でも呼べるんですか?」
俺はぶっきらぼうに聞いた。

「貴方に近しい方なら誰でも」
「ふーん。じゃあ、母を呼んでもらっていいですか?」
「え?…それは出来ません」
「どうして?」
「それは貴方が良くご存知でしょう」
「解らないなぁ。母は亡くなったんですよ?亡くなったんだから呼べるでしょう」
「ちょっと!何言ってんの!」

百合香が口を挟んできたが、俺は待てと制した。

「あのー。私、帰りますね。この方、信じてないみたいだし。私も本当は気軽にはしたくないんですよ。頼まれたから来たんですけど」
「あ!すいません!気を悪くしないでください!もう!何言ってるの!」
「逃げるのか!アンタのやってる事は詐欺だぞ!最初はタダで視るとか言って最後は金をふんだくる気なんだろ!」
「ちょっと、知義!」
「百合花。俺はお前が心配なんだよ。占いとかそういうの、遊びでやる分にはいいよ?でもハマっちゃダメだ!幽霊なんかいるわけないんだよ!こいつら詐欺師は百合花みたいな純粋な人の心に付け込んで金をむしり取って人生を滅茶苦茶にしようとしか考えていないんだよ!」
「詐欺って……」
「すみません! 」
「詐欺師じゃないかよ!先祖の霊と会話が出来るとか言って、恐怖心や不安感を煽って金をだまし取る気だろ!あんた、本職は小学校の先生なんだってな!教師がこんな非科学的な事やってもいいのかよ!恥を知れ!恥を!」
「本当にすみません。もう、今日は」
帰って下さい。本当にすみませんと言いながら、百合香は俺を睨む。

「解りました、貴方のお母さんを呼びましょう…」
「え?ちょっと」
「黙ってろよ」
「良いんですよね?本当に、貴方のお母さんの霊を降ろしても。お母さんの霊をここに呼びますよ?」
「早くやれよ。この詐欺師」

神奈月は座り直して静に目を閉じ聞き取れない言葉を呟く。そして、身体を小刻みに揺らして痙攣している。フリをしている。俺は笑いを堪えるのに必死だった。


「…暗い…ここは何処?」
やった!ついに化けの皮が剥がれた!
「おい、おい!もういいよ!見たか、百合花!これがこの女の正体だよ!」
「神奈月…さん…」
百合香は信じられないといった顔で神奈月を見ている。神奈月は霊が降りた芝居を続けている。役者に向かって下手な芝居をようやるな!

「ともよし?知義ともよし!そこにいるの?暗くて寒いよ…知義!」
「おいおい!もう良いって!俺の母親はまだ生きてるよ!元気に」

すると、急に神奈月は芝居をやめて、何事もなかったかのように部屋を出て行った。分かっただろ?百合香。占い師、霊媒師と言う類はみんな詐欺師なんだよ。

しばらくして俺の携帯が鳴った。それは兄貴からの電話だった。母が意識不明で病院に運ばれて危篤状態だと、電話の向こうの兄貴はそう言った。


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