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短編【不幸の星】小説

人は皆、生まれた瞬間から宿命と言う名のリュックを背負っている。そのリュックの中には星のかけらが入っているのだ。

貧乏の星。金持ちの星。心配症の星。冒険家の星。ワキガの星。美形なのに何故か異性にモテない星。ウンコみたいな顔のくせに何故かモテモテの星。付き合う男、付き合う男全てが何故か無職になるニートの星。付き合う女、付き合う女全てが何故か万引きをする節約家の星…。

そういう星の元に人は生まれてくる。私の親友、アミが背負っている宿命と言う名のリュックの中には、『付き合う男は皆、死んでしまう』と言う恐ろしい星が入っている。

「嫌になっちゃう…。なんで、私だけいつも、こうなんだろ。もう、誰も愛せないよ」
「大丈夫?あんまり気を落とさないで。もう飲まない方がいいよ」

アミとビデオ通信の宅飲みを始めて二時間が過ぎた。アミからのお誘いだったので、こうなる事はだいたい読めていた。いつもの展開だ。私はその展開を待っていた。

「飲ませてよ~」
「やめなって!いつか良い男が現れるって」
「無理だよそんなの!ヨシアキは交通事故で死んじゃうし、カズトヨは自殺しちゃったし、シノブはバンジージャンプで死んじゃったし!もう、怖くて恋なんて出来ないよ!私は付き合う男を殺してしまう、そんな不幸な星の元に生まれたんだよ!私は一生、この運命から逃れられないの!」
「馬鹿!そんな事、あるわけないでしょ!運命は変えられるんだよ!」
「だって、だって」
「大丈夫だって。だったらさ、何があっても死なない星の元に生まれた男と付き合えばいいでしょ?」
「そんな人なんて居るわけないじゃない」
「それが居るんだなぁ。登山家で何ども死にかけたけど、必ず生きて帰ってくる男が」
「ホント!紹介して!」

アミは『付き合う男は皆、死んでしまう』星の元に生まれた女だけど、私は何故か『付き合う男が皆、暴力を振るう』DV の星の元に生まれた女なのだ。

今付き合っている男は今までの男の中でも最悪で、木刀で私の腹を思い切りスイングする。顔や手足は痣が見えてDVがバレるから、腹や背中を狙うと言う、ズル賢い男。私以外にも女を作っている身勝手な男。登山家だけあって、力も凄い。別れを切り出せば切り出すほど、暴力も酷くなる。いつか私はこの男に殺されてしまうだろう。殺される前に殺さないと…。

「へぇ。登山家かぁ、ねぇ、どんな人?」
「ん~とね、野性的な人。会ってみる?」

いいねえ。と言ってアミは酎ハイをぐびっと飲んだ。

付き合う男は皆、死んでしまう宿命の星と死にかけても必ず生きて帰ってくる宿命の星。勝つのはどっちの星だろう。

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