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【原稿に向かうだけではいい小説は書けない】自分の作品に向き合い続ける覚悟とは(2013年2月号特集)


※本記事は2013年2月号に掲載された高野和明先生のインタビュー記事を再掲載したものです。

映像化できないことを小説に

――高野先生はもともと映像業界で活躍されていたそうですが、制作の現場に入ったきっかけは?

 実は映画監督を目指していて、高校卒業後、浪人時代に城戸賞(脚本の公募)に応募しました。運よく最終候補に残り、あるプロデューサーが岡本喜八監督を紹介してくれたんです。それで岡本監督に弟子入りし、映像の現場で仕事をするようになりました。

――その後、海外の映画学校に留学された理由はなんですか。

 ハリウッドの映画関係者のインタビューなどには、大事なのはストーリーテリングだと必ず書かれているんです。そのことを学びたかったし、物語というものの基礎を知りたいという欲求が高まり、海外へ飛んでいきました。

――帰国後、フリーで脚本家の仕事をされていますが、小説家に転身するきっかけはなんだったのですか。

 脚本家としてはデビューできましたが、映画監督になるチャンスはありませんでした。この当時、宮部みゆきさんの『魔術はささやく』と『火車』に大変のめりこんで、自分も小説を書いてみたいと思ったんです。それまでにストックしていたアイデアの中には映像化できないものもありましたし、小説でしかできないことをやろうと思いましたね。

――賞はどうやって選ばれたのですか。また、傾向は分析されましたか。

 賞に合わせたのではなく、先に作品ありきですね。分析もしていません。その頃は仕事がなかったので1作目は1年かけて750枚の長編、続いて450枚の作品と短編2編を書きました。当時は公募ガイドをいつも読んでチェックしていましたね。

――いきなり小説を書かれ、しかも長編ではハードルは高くなかったですか。

 脚本家は企画段階でストーリー案を小説形式で書かされます。その膨大な経験があったので、小説を書くことにそんなに違和感はなかったですね。

――その後、5作目の『13階段』を書かれたきっかけはなんですか。

 直前に『グラウエンの鳥籠』というインターネットドラマの脚本を書いていました。その中に登場する脇役の刑事は、凶悪犯を死刑台に叩き込むのが生きがいなんです。このキャラクターを掘り下げていくうちに、死刑制度についてもっと突っ込んで書きたいと思うようになりました。それがきっかけです。

――わずか2ヵ月でどうやって書きあげたのですか。

 まず、それ以前に2週間ほどの資料調べの期間がありました。執筆期間中、24時間意識的に作品の世界だけを考えていました。ストーリー、構成、キャラクターなどあらゆることを考える。それを続けてある一点を超えると、洗濯をしていてもテレビを見ていても、自動的に作品のことを考えていられるようになるんです。2ヵ月そういう生活をしていましたね。

――その結果、小説を書くきっかけとなった宮部みゆきさんに講評してもらえるわけですね。

 尊敬する宮部みゆきさんを含め、5人の作家の方に読んでいただけたのがすごくうれしかったですね。ただ、うれしかったのは最終候補に残ってからの1ヵ月だけで、受賞後は「本当に受賞してしまった。これは大変なことになった」と気が動転して喜ぶどころではなくなりましたけどね。

映画を見て構成表を作る

――ミステリーを書くコツは?

 アマチュアの方がよく誤解することですが、序盤で謎をばらまこうとするのは間違っています。序盤では、解決すべき謎を絞り込むことです。殺人事件が起これば行きずりの殺人から計画殺人まであらゆる可能性がありますが、物語の中でどの謎を追求するかをはじめに限定します。そうすることで、読者は思考を整理して謎解きを楽しめるんです。

――構成はどのように考えますか。

 オープニングとエンディングをまず考え、行けそうだとなったら4、5ヵ所の中継ポイントを作ります。決めておくのはそれぐらいです。三幕法や起承転結を意識して整合性を求めすぎるのもよくないと思います。これもアマチュアの方がよく誤解することですが、起・承・転・結と四分割で考えたりはしません。
 それから、すべての場面がクライマックスを盛り上げるために機能しているかどうか。そうなっているのが理想です。

――学生時代から映画をよく見て分析されていたそうですが、その方法を教えてください。

 1回目は分析せず純粋に楽しみます。
 そして面白ければ、同じ映画館の同じ場所に座り、もう一回見ます。すると最初に映画を見たときの、自分の細かい心の動きが再生されるんです。ミステリーなら、こいつが怪しいとなぜあのときに思わされてしまったのか、作り手の仕掛けた技術がわかってきます。

――ほかにも小説を書くうえで役立つ勉強法はありますか。

 好きな作品の構成表を作るのも効果的です。普通はプロットから映画を作りますが、完成した映画から逆にプロットを作りなおしていきます。映画の場合は縦軸を時間軸とし、その横にシーンごとの内容を書き出していきます。小説の場合は縦軸を枚数にします。そうして書き出してみると、どこに伏線があってどこに繋がっているか、それが成功しているかどうかもつかめます。ストーリーとドラマの違いもはっきりわかります。

ストーリーとドラマは違う

――高野先生が考えるストーリーとドラマの違いとはなんですか。

 ドラマとは登場人物の人間性が発揮される場面です。黒澤明の映画『七人の侍』でいうと、島田勘兵衛が農民を助けるか助けないか、迷っている間はストーリーが動かない。その間、勘兵衛の心の中、葛藤が描かれますが、これがドラマです。
 その後、勘兵衛は農民の頼みを断って去ろうとしますが、予想外の別のドラマが起こって引き受けることになります。これでストーリーが進むわけですね。

――小説でもストーリーとドラマを意識して書くことが重要なのでしょうか。

 ストーリーの類型は二種類しかなく、それは階段型とトンネル型です。『七人の侍』は、野武士が来るまでずっとストーリーが動かないのでトンネル型ですね。
 また、『13 階段』のような謎解きは、手掛かりをつかむたびに一段一段クライマックスに近づく階段型です。ストーリーが動く場面と、動かない場面というのは、意識的に考えておかないとテンポが悪い作品になりますね。

――2011年に出版された話題作『ジェノサイド』を書かれたきっかけはなんですか。

 20歳の頃に読んだ立花隆さんの本に、ある生物進化の可能性が書かれていました。当時の常識ではそんな生物がいきなり生まれるはずがないとされていましたが、その後の生物学の進歩で、あり得るのではないかと思えるようになりました。
 2000年代前半に友人にアイデアを話すと、面白がってくれ、ぜひ書くべきだと薦めてくれたんです。私自身も、今書かなきゃという思いが高まって書いた感じですね。

――プロになるために大切なことはなんだと思われますか。

 原稿を書くときだけ一生懸命な人は、試合のときだけ頑張ろうとする運動選手と同じでダメです。ふだんから何を読み、何を考えるかで勝負が決まります。ただし、ある程度、筆力がつくと技術に甘んじやすいので、「これを書かずして死ねるか」というパッションも必要ですね。それは必ず作品の力となります。

――作家を目指す読者にメッセージをお願いします。

 初めて書いた作品で運よくデビューできても、プロとして長続きしないと思います。デビュー後、プロであり続けるほうが難しいので、報われない時代にこそ力を蓄えるべきですね。間違った努力をせず、正しい努力とは何かを考えて頑張ってください。

高野和明(たかの・かずあき) 
1984年、岡本喜八監督の門下となる。その後、ロサンゼルス・シティカレッジで映画の撮影・演出・編集を学び、帰国後、フリーランスの脚本家としてデビュー。01年、小説『13階段』で第47回江戸川乱歩賞受賞。11年『ジェノサイド』で第2回山田風太郎賞、第65回日本推理作家協会賞受賞。

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※本記事は「公募ガイド2013年2月号」の記事を再掲載したものです。

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