更新の間隔が空いてしまい、申し訳ありません。
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第十七回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※通常は1章分ごとにレビューしていますが、第16章にあたる『第4部 脚本の執筆 16 問題と解決策』はボリュームが大きいため、投稿を前、後半に分けます。
この投稿は「前半分」です。
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第4部 脚本の執筆
16 問題と解決策 前半
【興味】
「知性と感情に訴える作品でなければ、観客を引きつけ続けることはできない」と著者は言います。
「知性に訴える」とは、「好奇心」を刺激すること。
つまりストーリー内で疑問を提起し、その後の展開、結末を知りたいという欲求に訴えかけることが重要。
「感情に訴える」とは、「賛意」を刺激する事。
人は本能的に、正義、強さ、生存といった人生のプラスの価値要素に引かれ、マイナスを避けようとする。
そのためストーリーが始まると観客は、そこに描かれているものを観察して、善と悪、正と誤、価値あるものと価値のないものに分けていき、「善の中心」を見つけ出して、そこに感情移入をする、というわけです。
とは言え、ストーリーの主人公は常に「正義の味方」とは限りません。
例えば『ゴッド・ファーザー』の観客は、反社会的な存在であるマフィアに感情移入します。
この作品の中心にいるのはコルレオーネー・ファミリー。
その姿は、周りを取り囲む他のファミリーや、腐敗した警察や判事と共に描かれます。
観客は、周囲との比較によって、「コルレオーネ・ファミリーにだけは『忠誠』というプラスの特質がある」と知り、結果として彼らに感情移入する、と著者は述べています。
ミステリー、サスペンス、劇的アイロニー
著者は、「ミステリー、サスペンス、劇的アイロニー」を「観客と登場人物、それぞれに与えられる情報の量」によって区別しています。
まず「ミステリー」については、以下のように述べています。
ミステリーの作り手は、ストーリーの背景や前提となる「過去の出来事」を観客に伏せておき、時には一部分だけを見せてじらしながら、好奇心を刺激し続けます。
これは殺人ミステリーにおいて典型的な手法であり、「謎解き型」と「倒叙型」に分けられると著者は言います。
続いてサスペンスについて、著者は以下のように述べています。
映画の90パーセントはこの形をとることで観客の興味を引きつけている、と著者は言います。
ミステリーと違う点は、観客が「(作り手によって伏せられていた)真実」ではなく、「結末」の方に好奇心を向けている点。
三つ目の「劇的アイロニー」については、著者は以下のように述べています。
劇的アイロニーの具体例として、著者は映画『サンセット大通り』を挙げています。
この作品では、最初のシークエンスで「主人公ジョー・ギリスは死ぬ」という結末が提示されます。
豪邸のプールに浮かんだジョーの死体の映像に、「自分はなぜこうして死ぬことになったか、いきさつを説明する」というジョーの声が重なり、以降はいわゆる”全編回想”の形式でストーリーが描かれていきます。
【驚きの問題】
ストーリーにおける「驚き」には二種類ある、と著者は言い、「安っぽい驚き」と「真の驚き」と呼んでいます。
例えば、「唐突に、主人公が血まみれで死んでいるシーンを見せた後、それが別の人物の妄想であると明かす」といった類のものが「安っぽい驚き」であり、この種の驚きは、ホラー、ファンタジー、スリラーにおいては楽しみのひとつになるが、衝撃的なだけで、お粗末な仕掛けでしかない、と著者は言います。
【偶然の問題】
ストーリーにおける「偶然」の扱い方の好例として、著者は映画『ジョーズ』を挙げています。
逆に著者は、以下のような「悪い例」も挙げています。
「主人公がある女性を捜している際、偶然出会った男が彼女の居場所を教えてくれて、その男はその後二度とストーリーに登場しない」
これを「主人公は男と一緒に女性に会いに行き、それをきっかけに三角関係になる」といった展開にするならば、主人公と男の「偶然の出会い」に、意味を与えたことになるわけです。
書き手は、「偶然」を単なる都合の良い道具として使ってはいけない、ということですね。
【コメディの問題】
著者は以下のように、「コメディ映画が非難する対象の例」を挙げています。
『恋人たちの予感』 非難の対象:型にはまった恋愛パターン
『博士の異常な愛情』 非難の対象:冷戦
『ポリスアカデミー』 非難の対象:学校
『プロデューサーズ』 非難の対象:演劇界
コメディの設計
書き手にとって、いわゆる”小ネタ”で尺を使えるというのは、コメディを書く際の大きな楽しみだと思います。
この実例として著者は、『チャップリンの黄金狂時代』を挙げています。
クライマックスで凍死しかけていた主人公チャーリーは、猛吹雪で小屋ごと飛ばされアラスカの金鉱に落ち、大金持ちになります。
「都合の良い偶然」と言える展開ですが、ここに至るまでにチャーリーは「空腹のあまり靴を食べ、一攫千金を狙う男たちに危うく食べられそうになり、グリズリーの餌になりかけ、ダンスホールの女たちに冷たくあしらわれる」という具合に、悲惨な思いをし続けています。
それらを経て、はるばるアラスカまでやって来たチャーリーに対して、観客は「少しはいい目に合わせてやらないと」という気持ちになるわけです。
仮に、気のきいた台詞や体を使ったギャグをとり除いたとしても、ギャップに富んだストーリー展開だけで人を笑わせることができたならば、それが本物のコメディだと著者は言います。
☆「第4部脚本の執筆 16問題と解決策 後半」に続く
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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