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ブックレビュー ロバート・マッキー著『ストーリー』(19)第4部 脚本の執筆 脚本家の創作術

投稿の間隔があいてしまい、申し訳ありません。
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第二十一回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)

※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。

第4部 脚本の執筆
19 脚本家の創作術

成功する作家と芽が出ない作家とでは、創作方法が対照的だ。
それは、内側から書くか、外側から書くかという点である。
(P494より引用)

【外側から書く】

芽が出ない脚本家の創作方法は、たいがい、つぎのようなものだ。
まず、アイディアを思いつき、しばらくとりとめもない考えをめぐらしてから、キーボードに向かう。
(中略)
考えながら書き進み、書き進みながら考えて、百二十ページまで来たところで中断する。
そこでコピーしたものを友人たちに配って、感想を聞く。
(中略)
売れない脚本家は友人の感想と自分の考えをまとめて、第二稿に取りかかる。
(中略)
考えながら書き進み、書き進みながら考えていくが、お気に入りの場面は命綱のように手放さないまま、書きなおしを終える。
コピーしたものをまた友人たちに配り、感想を聞く。
(中略)
脚本家は第三稿、第四稿、第五稿と書きなおすが、やり方は変わらない。
自信がある場面に執着し、新しい話をひねり出して、どうにかまとめようとする。
やがて一年過ぎ、行きづまった脚本家は、これ以上書きなおすところはないという結論をくだし、エージェントに原稿を渡す。
一読したエージェントは、さして興味を覚えないが、エージェントとしてのつとめを果たすため、コピーをハリウッドに送る。
査読者から返ってきた回答は、「よく書けている。演技がしやすく歯切れがいい台詞、状況描写が鮮やかで、細部もよく書きこまれている。だが、ストーリーは最悪だ。よって、却下」。
脚本家はハリウッドの俗物的な趣味を祝い、つぎの作品に取りかかる。
(P494~496より引用)

「芽が出ない脚本家は……」「売れない脚本家は……」「行き詰った脚本家は……」と辛口な言葉が続きますが、「友人に読んでもらい、感想を聞きながらお気に入りの場面以外に手を加えていく」というのは、おそらくそれほど珍しい書き方ではなく、これを読んで「えっ、まさにこの通りにかいてるんだけど?」と思われた方もいるのではないでしょうか。

【内側から書く】

成功している脚本家のやり方は、これとは逆だ。
一本の脚本を仕上げるのに、最初のアイディアから最終稿の完成まで、うまくいけば六カ月で終わると仮定すると、そのうち四カ月を三インチ×五インチの大きさのカードの束に構成を書くことに費やす。
一幕に対して一束のカードを用意する。
通常は三束か四束だが、それ以上になることもある。
このカードに書くものがストーリーのビートシートだ。
(P496より引用)

ビートシート

ビートシートとは、ストーリーをステップに分けて描いたものである。
各シーンで何が起こり、どう進展していくのかを一行から二行で簡潔に記す。
たとえば「男は妻が家にいるものと思って帰宅するが、そこにあったのは、妻からの別れを告げる置き手紙だった」。
カードの裏には、そのシーンがストーリーの中で――少なくとも現時点で――どんな役割を果たすためのものかを書く。
契機事件の引き金となるシーンはどれか。
契機事件となるものは。
第一幕のクライマックスは。
中間部のクライマックスとなりうるものは。
第二幕は。
第三幕は。
第四幕は。
その先は。
主要プロットだけでなく、サブプロットについても作成する。
(P497より引用)

構成を考える際にカードを使うのは、並べ替えが簡単にできるからでしょうね。
ちなみに私はカードではなく、大きめの付箋を使い、それらをA3サイズの紙に貼って、あれこれと並べ替えてみることが多いです。

カードの束に数カ月かかりきりになるのは、自分の作品をいったん壊したいからだ。
美的感覚とこれまでの経験から、たとえ才能があっても、自分が書くものの九十パーセントはよく言っても平凡だとわかっている。
質の高い作品をひたすら追求するなかで、使いきれないほどの題材を作り出しては壊していく。
ひとつの場面を十通り以上は考えたうえで、あらすじからその場面そのものをはずすこともある。
ひとつのシークエンスや、一幕すべてを没にすることもある。
自分の才能を信じている脚本家は、創造性が尽きることはないと知っているので、きらめく宝石のようなストーリーを書けるまで、自分のベストと思えるもの以外はすべてごみ箱行きにする。
(P497より引用)

「脚本とは直すことと心得たり」というのが私の持論です。
ただ、この章で語られている通り、「どうやって直すか?」が肝心ですね。

そして、何週間か何カ月か経ったところ、ストーリー・クライマックスを思いつく。
それをもとに、エンディングから逆にたどって修正していく。
こうしてストーリーが形を成す。
友人の意見を求めるのはこの段階だが、貴重な一日を犠牲にさせるようなことはしない――誠実な人間に脚本を読んでもらうと、そうなるからだ。
その代わりに、コーヒー一杯おごり、十分間だけ時間をもらうことにして、ストーリーを聞かせる。
(P497~498より引用)

この大切な段階で自分のストーリーを語って聞かせ、テンポよくストーリーが展開するかどうか、ほかの人間の思考や感情にどう働きかけるかを見る。
相手の目に浮かぶ表情から、ストーリーの効力を読みとるのだ。
こうして、ストーリーを聞かせながら反応を見ていく。
自分の作り出した契機事件に惹きつけられたか。
ストーリーに耳を傾けて、その世界に引き込まれているか。
目は落ち着いているか。
ストーリーの展開についているか。
そして、クライマックスで思いどおりの強い反応を引き出せたか。
(P498より引用)

これは私も頻繁に行っています。
例えば原稿をメールで送って感想を返信してもらうという方法ですと、著者の言う通り相手の時間を奪い過ぎますし、生の反応を見ることもできません。
メール等の文章ですと、相手が「ピンと来ないな」と思いながらも私に気を遣って「面白かったよ」書いているのだとしても、それを察知するのが難しいですが、直接顔を見て話していれば、正直な思いを感じ取れるはずです。

ビートシートをもとに語ったストーリーは、知的で感受性が豊かな人間の関心を引き、10分間のあいだ心をとらえて、有意義で感動的な体験をもたらすようでなくてはならない。
(中略)
10分で人の心をつかむことができないストーリーが110分でうまくいくだろうか。長くなればうまくいくというものではない。
10分間でうまくいかないものは、映画になったら10倍悪くなる。
(P498より引用)


トリートメント

トリートメントとは、ビートシートに一行から二行で書かれた各シーンを、ひとつの段落あるいはそれ以上の長さへと展開させ、時間を追って、原則として現在形で書いたものである。
(P499より引用)

○ダイニングルーム――昼
ジャックが部屋にはいり、書類鞄をドアの脇の椅子に投げ出す。まわりを見まわす。だれもいない。妻の名を呼ぶ。答えはない。繰り返し呼ぶうちに声が大きくなっていく。依然として返事はない。キッチンに足を踏み入れたとき、テーブルに置き手紙があるのに気づく。手にとって読む。別れを告げる内容だ。ジャックは椅子に倒れこみ、頭をかかえて泣きだす。
(P499より引用)

トリートメントでは、登場人物たちが話す内容を示す――たとえば、「男は妻にそうしてもらいたいと伝えるが、妻は拒絶する」――が、ダイアローグは書かない。
その代わりに作るのがサブテクスト――表面的な行動や発言の根底にある偽らざる考えや感情だ。
自分の作品の登場人物が何を考え、どう感じているか、わかっているつもりでも、実際に書き記すまで、はっきりわかっていない場合もある。
(P499より引用)

日本の映画、ドラマ制作の現場においては「ビートシート」「トリートメント」という言葉は一般的ではない(少なくとも私は見聞きしたことがない)ですが、内容から考えると「ビートシート」が大バコ、「トリートメント」が小バコ、という理解で良いかと思います。

トリートメントの段階では、ビートシートではうまくいきそうに思えた場面の変更を余儀なくされることもある。
調査と想像はとどまるところを知らない。
登場人物とその世界はひろがりつづけ、進化しつづけるので、多くのシーンを書き換える必要が生じるのは当然だ。
語って聞かせたときによい反応を得られたのなら、ストーリー全体の設計を変えることはない。
だが、その構成のなかで、シーンの追加や削除をおこない、順番を変える必要はあるだろう。
すべての場面がサブテクストも含めて生き生きと描写されるまでトリートメントを見なおしていく。
それが完成してはじめて、作家は脚本そのものに取りかかる。
(P501より引用)


脚本

完璧なトリートメントから脚本を書くのは楽しい作業であり、一日に5ページから10ページ進むこともある。
ここでは、トリートメントの描写を映画としての描写に書き換え、ダイアローグを加えていく。
この段階で書く台詞は、かならずこれまでで最高の台詞となる。
登場人物は長いあいだ口にテープを貼られた状態だったので、話すのが待ちきれない。
多くの映画で、登場人物がすべて同じ語彙と同じスタイルで話すのに対し、綿密な準備のもとに書かれる台詞は登場人物ごとに独自の声を持つ。
ほかの登場人物とは異なる話し方をし、脚本家自身とも似ていない。
(P501より引用)

「内側から書く脚本家」は、この段階まで来てようやく脚本形式の原稿を書き始めるというわけです。
上の引用のなかに「綿密な準備のもとに書かれる台詞は登場人物ごとに独自の声を持つ。ほかの登場人物とは異なる話し方をし、脚本家自身とも似ていない。」とあります。
これは私の実体験と照らし合わせても、その通りだと思います。
プロになる前の私も、まさに「外側から」書いていた時期がありますが、当時の作品は、どの登場人物の台詞も、私自身の話し方にそっくりでした。

ここまで、ひとつの方法を提唱してきたが、ひとりひとりが試行錯誤しながら独自のやり方を見つけなくてはならないのもまた真実である。
トリートメントの段階を省いてすぐれた脚本を書く作家もいれば、外側から書いてもすばらしい作品を生み出す作家もいる。
だが、苦労を惜しまなければ、さらに輝かしい作品をかけただろうと思わずにはいられない。
内側から書く方法は、規律がありながら自由であり、最高の作品を生み出すことができるよう考えられたものだ。
(P503より引用)

脚本形式の原稿に取り掛かる前に、ビートシート、トリートメントを作るという方法は、手間が掛かるように思えて、実は効率的なはずだと私は思います。
作品全体を俯瞰すること、問題点をあぶり出すことがしやすいからです。
逆に始めから脚本形式で書き始めると、直しに時間がかかり、それにしては「稿を重ねているのに、あまり変わり映えがしない」という事態に陥りやすい、と自分の経験を通して感じます。

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さて、2019年1月から続けてきたこのブックレビューも、この投稿で最後となります。
『ストーリー』には、この章のあとにエピローグ的な「フェードアウト」という章もありますが、そちらはぜひ購入してお読みになってください。

毎回冒頭に書いてきた通り、非常に内容が濃く、全章レビューするのに2年以上かかってしまいました。
ですが、レビュー投稿をすることで私自身の理解が深まり、多くを学ぶことができました。
決して「一度読んだら終わり」の本ではないので、今後も繰り返し読み、活用し続けていこうと思います。

これまで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。

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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。

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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題

第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味

第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決

第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術

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