投稿の間隔が長く空いてしまい、申し訳ありません。
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第十一回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)
※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。
第3部 ストーリー設計の原則
10 シーンの設計
【転換点】
・登場人物がある目的を持ち、良い結果を予想しながら行動を取ると、予想外の結果が返ってくる。
・ストーリーを見ている観客が「次はこうなるだろう」という予想をしていると、その予想を裏切る結果になる。
この2種類の「予想と結果のギャップ」は、ストーリ―全体を動かす原動力であり、”ストーリーのミニチュア版”である「シーン」においても重要な転換点となる、ということです。
例えば映画『チャイナタウン』では、第二幕のクライマックスの「あの子は私の妹でもあり、娘でもあるのよ」というイヴリンのセリフが、大きな「転換点」となっています。
思いがけないイヴリンのセリフに観客の「驚き」が生じ、「なぜイヴリンはこんなことを言うのだろう?」と「好奇心の高まり」が生まれ、観客が過去のシーンを振り返って「洞察」を行い、イヴリンの父・クロスによる近親相姦、殺害の真の動機といった事実に気づいて、波乱の第三幕への「新たな方向」が指し示されるというわけです。
驚きの事実を”観客がみずから発見したかのように”感じさせながら提示していくことが重要であり、そのためのコツが「鮮やかな方向転換」であると筆者は述べています。
逆に、”観客がみずから発見したかのような感覚”を与えられないのは、以下のような表現をした場合だ、とも述べています。
【伏線と落ち】
「予想と結果のギャップ」に出くわした観客は「洞察」を行い、「答え」を得る。
この過程を観客が辿れるようにするには、「伏線」という形で、ストーリー内にヒントを埋め込んでおかなくてはなりません。
映画『チャイナタウン』で言えば、殺人事件の容疑者であるクロスは、探偵のギデスから「被害者であるモウレーと最後に会った際、どんな会話をしたのか」と問われ、「娘のことだ」と答えます。
当初、観客は「娘」が指す人物をイヴリンだと認識しますが、クロスによる近親相姦という衝撃の事実を知った後は、「娘」が指す人物が他にもいることに気づきます。
こういった瞬間に観客は、”みずから発見したかのような感覚”を味わうことができるというわけです。
巧みな「伏線と落ち」を作ることは容易ではありませんが、筆者はそのコツを以下のように述べています。
【感情の推移】
以前、是枝裕和監督と脚本家の坂元裕二さんの対談を聞きに行ったことがあります。
坂元さんの作品で、「ある登場人物の遺品のパジャマのポケットにスーパーのレシートが入っており、ヒロインが、亡くなった人物の孫である男性を前にそのレシートの中身を読み上げる」というシーンがあり、是枝監督はこのシーンを絶賛していました。
「レシートに書かれた文字をひたすら読み上げる」というのは、「華美な台詞」とも「官能的な抱擁」とも程遠い表現ですが、是枝監督はこのシーンに大きく感情を揺さぶられたそうです。
坂元さんはこのシーンに関して、
「いい言葉を言って人を説得し、気持ちを動かそうとするようなシーンは山のようにある。振り返れば自分もその種のシーンをさんざん書いてきたのだが、今の自分の中には『そういうのはもういいよ』という思いがある」
とおっしゃっていました。
ストーリーは、プラスとマイナスの感情を交互に作り出すことが重要、ということです。
「プラスの経験ばかり(或いはマイナスの経験ばかり)を繰り返すと、その効果が減じる」ということの実例として、筆者は次のようなことも述べています。
また筆者は、「感情」と混同されがちな「心性」についても述べています。
ストーリーの展開が同じであっても、時間帯が昼間なのか真夜中なのか、主役を演じるのかジム・キャリーなのかマイケル・マドセンなのか、色調を明るくするか抑えるか等々によって「ムード」は変わります。
「ムード」は映画の重要な要素のひとつ。
ですが、「ムードは感情の代わりにはならない」と筆者は明言しています。
【選択の本質】
「ドラマには葛藤が必要」ということは、ほぼすべての作劇に関する本で語られ、シナリオスクールで教えられていることだと思います。
ですが、私が知る限り「なぜ葛藤がなくてはいけないのか?」というところまで書かれた書物は、決して多くないでしょう。
「善か悪か、正か誤か」の選択を前にすれば、登場人物は「善と正」を選ぶだろうと、観客は容易に予想できてしまいます。
けれど、その選択にジレンマがあると、観客は「果たしてどちらを選ぶのか?」に惹きつけられ、、結果的にどちらを選んだによってその人物の人間性、生き様を知ることになるわけです。
要素を一つ増やす(人物を一人増やす)ことで、描ける世界は一気に広がります。
私自身も、「二人の人物の関係を描こうとして行き詰っていたストーリーが、第三の人物を加えることで動き出した」という経験がありますし、四人目も加えれば、変化していく関係性のバリエーションはさらに増えます。
ただし四人にすることでバリエーションが増え、複雑になる分だけ、書き手には、より高いスキルが求められる、とも言えるでしょう。
☆「第3部ストーリー設計の原則 11 シーンの分析」に続く
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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。
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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題
第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味
第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決
第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術
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