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短歌と和歌と

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中学生向けに和歌・短歌を語る練習をしています。短歌は初学者。和歌は大学で多少触れたレベル。
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#和歌

あーんとゆーん

あーんとゆーん

 会議で遅くなった。
 家に帰ると長男(8歳)と長女(4歳)がシシリアンライスをつついている。次男(5歳)は夕食を早々に食べ終え寝ていた。
 風呂から上がって娘の食事を手伝った。たたみにくいレタスをスプーンに載せて口に運ぶ。娘は小さな口をあーんと開けて頬張る。米を運ぶ。あーんと頬張る。挽肉を運ぶ。あーんと頬張る。始終ニコニコしている。僕も笑う。おいしいねと笑う。あーんの口が一緒だったと笑う。
 食

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夏を感じる卯月のことなど

夏を感じる卯月のことなど

 6時半ごろ帰宅したら8歳の長男がピアノを弾いていた。上手いねと誉めたら失敗ばかりだったよと口をとがらせた。
 幼稚園は自由登園だった。だから下の二人は一日妻といて夕飯以外のやるべきことは大体すませていた。一方長男は小学校の後にずっと遊んでいたらしい。妻がイライラしている。ピアノの後は英語のレッスンと学校の宿題。長男はちっとも始めず遊んでいる。妻ががなる。
 仕方が無いから僕はお尻をかいてる長男に

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【新古今集・27】爺ちゃんは冬に泣く

【新古今集・27】爺ちゃんは冬に泣く

冬を浅みまだき時雨と思ひしを
絶えざりけりな老いの涙も
(新古今集・冬歌・578・清原元輔)

冬がまだ始まったばかりなので
ずいぶんと早く時雨が降るものだと、
思っていたというのに
絶え間なくこぼれることだ
老いを嘆く私の涙も

 清原元輔は『古今集』が成立した直後の908年に生まれた歌人です。村上天皇がチョイスした「梨壺の五人」という戦隊物みたいなチームの一員になってました。この人たちが2番目

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【新古今集・26】染まらぬ葉

【新古今集・26】染まらぬ葉

時雨の雨染めかねてけり山城の
常磐の杜の真木の下葉は
(新古今集・冬歌・577・能因法師)

さすがの時雨、その雨も
染めかねておるわ
山城の
常磐の名を背負う杜に育まれた
まことに素晴らしい木々の下葉は

 詞書に「十月ばかり、常磐の杜を過ぐとて」とあります。どうやら体験を詠んだ歌のようです。

 時雨は冬に木の葉を染める雨です。

時雨の雨間無くし降れば真木の葉も
争ひかねて色づきにけり
(新

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【新古今集・冬歌25】青々と竹

【新古今集・冬歌25】青々と竹

時雨降る音はすれども呉竹の
などよとともに色も変わらぬ
(新古今集・冬歌・576・藤原兼輔)

木の葉を染める時雨が降る
その音がするのだ でも
清涼殿の御庭に生える竹は
どうして幾代を経ても
青々として色も変わらないのだろうか

 呉竹がある。
 内裏の中心にある清涼殿の庭に生える竹である。無論呉竹に呉竹の歌を詠みきかせているわけではない。
 この歌は兼輔が藤原満子の四十の賀のための屏風歌として

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【新古今集・冬歌24】風と時雨と流れる涙

【新古今集・冬歌24】風と時雨と流れる涙

こがらしの音に時雨を聞き分かで
もみぢに濡るる袂とぞ見る
(新古今集・冬歌・575・具平親王)

木々に吹きつける木枯らしの
音があんまり激しくて 時雨の降る音を
聞き分けることができない そのせいで
散っていく紅葉に自ずとわき上がる涙で濡れている
私の袖だと見ていたよ

 どうも歌の中の人は時雨に降られてびしょびしょになっているようです。しかし木枯らしがびょおびょお吹いていて雨音に気づきません。

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【新古今集・冬歌23】古い歌

【新古今集・冬歌23】古い歌

神無月時雨降るらし佐保山の
正木のかづら色まさりゆく
(新古今集・冬歌・574・よみ人しらず)

十月になった
どうやら時雨が降っているらしい
佐保山の
正木のかずらの色が
日々美しく色づいていく

 詞書には「寛平御時后の宮の歌合に」とあります。この歌合は889年から893年の寛平年間に行われた古い古い歌合です。『古今和歌集』成立前夜ですね。菅原道真が選んだとも言われる『新撰万葉集』の有力な資料

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【新古今集・冬歌22】雨のふり

【新古今集・冬歌22】雨のふり

雲晴れて後もしぐるる柴の戸や
山風はらふ松の下露
(新古今集・冬歌・573・藤原隆信)

雲が晴れたというのに
その後も時雨が降りかかる
小さな我が家の粗末な戸
いや時雨の正体は 山風が吹き払い
松から滴り落ちる露であったか

 家の外ではパラパラと音がします。しかし傘を手にドアを開けるとそこには柔らかな日の光。雨はとっくに止んでいました。
 庭木に風が吹きます。すると葉の上の水滴が飛ばされます。

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【新古今集・冬歌21】天気雨

【新古今集・冬歌21】天気雨

柴の戸に入日の影はさしながら
いかにしぐるる山辺なるらむ
(新古今集・冬歌・572・藤原清輔)

山里の庵の粗末な扉に
傾いた日の光は
さしている それなのに
どうして時雨が降る
この山の近くであるのだろう

 職場から自転車で帰っていると雨が降り出しました。それは雨と言うより氷の粒に近くてダウンジャケットに当たるとピシパシ乾いた音を立てます。
 強い風が吹いていました。風が強く吹くと無数の粒が顔

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【新古今集・冬歌20】

【新古今集・冬歌20】

神無月木々の木の葉は散りはてて
庭にぞ風のおとは聞ゆる
(新古今集・冬歌・571・覚忠)

神無月ともなると
木々の木の葉は
すっかり散ってしまって
枝ではなく庭で 木の葉を吹く風の
音が聞こえてくる

  風が吹けば木々が揺れて葉がざわめきます。むしろ風の存在を告げるのが木の葉といって良いかもしれません。

神無月寝覚めに聞けば山里の
嵐の声は木の葉なりけり
(後拾遺集・冬・384・能因法師)

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【新古今集・冬歌19】ワックワクだぜ!

【新古今集・冬歌19】ワックワクだぜ!

月を待つ高嶺の雲は晴れにけり
心あるべき初時雨かな
(新古今集・冬歌・570・西行法師)

じっと月が現れ出るのを待っている
すると遙か高い嶺にかかる雲は
今はもうすっかり晴れてしまった
きっともののあわれを分かっているに違いない
初時雨だな

 分かるようで分からない。例えば「月を待つ」の主語。それから「べき」の意味。

 前者は「我」だと考えられてきた。たしかに高嶺も雲も月を隠すものだから月を

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【新古今集・冬歌18】北風小僧がやってきた

【新古今集・冬歌18】北風小僧がやってきた

いつのまに空のけしきの変るらむ
はげしき今朝の木枯の風
(新古今集・冬歌・569・津守国基)

いつのまに
空の様子が
空高い秋から峻烈な冬へと 変わるのだろう
気がつけば激しい 今朝の
木枯らしの風

 季節の変わり目が人の意識の切り替わりを凌駕する勢いでやってくるというのは和歌の世界では定番の詠みぶりです。たとえば『千載集』の冬歌の冒頭は

昨日こそ秋は暮れしかいつの間に
岩間の氷うすごほるら

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【新古今集・冬歌17】詠み継がれる時雨

【新古今集・冬歌17】詠み継がれる時雨

時雨かと聞けば木の葉の降るものを
それにも濡るるわが袂かな
(新古今集・冬歌・567・藤原資隆)

(訳)
おや時雨が降ってきたかと
よくよく聞いてみると
木の葉が降るのだったけれども
そんな木の葉が降る音にまでも
濡れてしまう私の 袖口

 時雨は晩秋・初冬のにわか雨だ。『万葉集』ですでに約40例みられる(『万葉ことば事典』)。晩秋の時雨は木の葉を染める仕事もあったようだ。ところが平安時代に入る

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【新古今集・冬歌16】散り際紅葉

【新古今集・冬歌16】散り際紅葉

唐錦秋の形見やたつた山
散りあへぬ枝に嵐吹くなり
(新古今集・冬歌・566・宮内卿)

(訳)
紅色の美しい唐織りの錦
それが秋の置き土産というわけです
さすがは名にし負う竜田山
ところがその散りきらず唐錦が残る枝に
秋への思いを断てとばかり 激しい風が吹き付ける音が聞こえてきます

 高貴な錦に喩えられる竜田山の紅葉。少しだけ残ったそれはせっかくの秋の置き土産。だけど竜田山は未練を「絶つ」山でも

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