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【新古今集・冬歌16】散り際紅葉

唐錦秋の形見やたつた山
散りあへぬ枝に嵐吹くなり
(新古今集・冬歌・566・宮内卿)

(訳)
紅色の美しい唐織りの錦
それが秋の置き土産というわけです
さすがは名にし負う竜田山
ところがその散りきらず唐錦が残る枝に
秋への思いを断てとばかり 激しい風が吹き付ける音が聞こえてきます

 高貴な錦に喩えられる竜田山の紅葉。少しだけ残ったそれはせっかくの秋の置き土産。だけど竜田山は未練を「絶つ」山でもあったのでした。

唐錦枝にひとむら残れるは
秋の形見を絶たぬなりけり
(拾遺集・冬歌・220・遍昭)


(訳)
舶来の唐錦が
枝にひとむら
残っているのは
秋の置き土産を
絶やさないようにしているのだな

 遍昭の歌う唐錦は紅葉の見立て。宮内卿はこの歌に学んだのです。学びつつ竜田山を舞台に仕立てて秋を絶つ流れに持って行きました。上手い!

 それにしても宮内卿は秋を絶つ風の音に何を思ったのでしょう。悔しさでしょうか。悲しみでしょうか。諦観でしょうか。

 あるいはその散り際のはかなさに美しさを見出していたのかもしれません。

☆ ☆ ☆

しがみつく枝の向こうに風の音
映える落ち方考えている 

 


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