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#ショートストーリー
火星のあの子【ショート小説】
日曜日の12時、JRと私鉄が乗り入れている駅の改札を抜けると、天井が高い通路に百貨店や旅行代理店の入口が並んでいる。目印の柱を探して近づくと、くすんだ水色のコートを着た女性が視界に入った。
実際にいて安心したが、相手の表情が少し怖い。あ、ちょっと苦手かも。
近づくと目があった。
「アヤさんですか」確信しつつ、恐る恐るたずねると、
「はい….... ナオキさんですよね」かすかに明るくして問い
くちびるまで0.5ナノ秒[ショート小説]
今日ものんびり布団を出て、自転車で大学に向かう。まず最初に学食でお昼のサバ定食をほおばる。研究室に向かうのはお腹が満たされてから。卒業論文の実験をするためだ。
研究室に着いて、お気に入りのマグカップで紅茶を淹れる。居室の自分の席に座り、背後に座る同期と背中越しにパソコンガジェットについて語り合う。あ、新しいキーボードが出てる、買うか買うまいか。アニメ新番組の情報をチェックして、どれを観るか選ぶ。
祖母のカメラのファインダー[ショート小説]
"親戚にカメラ好きを公言すると、次々とクラシックカメラを貰える"
カメラ雑誌を眺めているとそんな裏技らしき文言が目に入った。私はちょうどフィルム写真が気になっていたので、さっそく母経由で親戚に言いふらしてもらうと、一週間後におばあちゃんから宅配便が届いた。
ダンボールの中からまず野菜が出てきたが、その脇に入っていたカメラを取り出すと、いつか田舎で見た覚えがあるコニカだった。ネットで調べてみると
【ショート小説】足元に見続けてきたものたち
子供のころ、日曜日、父とサイクリングに出かけた。家を出て河原の土手を走り、もうずいぶん遠くまできた。11月の木や地面の景色はすっかり茶色と灰色が増えてきた。住宅街の狭いアスファルトの道に降りようとすると、目の前に灰色のボロ雑巾が落ちていた。汚いなぁと思いながらそのすぐ脇を通って見下ろすと、雑巾と目が合った。
体を大の字に広げてぺちゃんこになった小動物がいた。何度も車に轢かれたんだろう、骨も砕けて
赤帽タッチ![ショート小説]
異質なものが出現すると、人はそれを「穢れ(けがれ)」とみなす。異質なもの自体を排除しようとすることもあれば、見たり触れたりして穢れを受けてしまった(と感じる)自分を清めようとすることもある。
風邪は誰かにうつせば治る、みたいな昔からの考えも同じものなんだろう。
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小学生の頃、県道の大通り沿いで時折小さなトラックを見かけることがあった。それは白地に
8月が終わったと感じるとき[ショート小説]
リモートワーク中の昼休み、隣町まで買い物に行く途中に橋を渡る。土手を眺めると、草むらのなかに赤色があった。彼岸花だった。
そうか、もう9月か。
もちろんカレンダー上9月になっていたことは知っているけど、家にこもっていると季節に疎くなってしまう。秋の花を見て、夏が終わったことを改めて思い知らされた。
今年の夏は遠出をしていないけど、ささやかな小旅行をしたり、有名店のかき氷を食べたり、メロンを一
M君の夢[ショート小説]
朝、目が覚めて、夢にM君が出てきたことに焦った。何年も名前を思い出したこともなかったのに。
小学校の同級生で、いつも隣にいるライバルだと思っていたM君。勉強も、クラスで笑いを取るのも、、、恋愛も。
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大人になって働きだしてから、なぜか高校に通い始めた。僕らはお互い同じ学校にいて。帰りの電車のなか、再会を喜んで普通に話せた。
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現実では中学が別々で疎遠にな
O型の宿命[ショート小説]
雨上がりのタイミングを見計らって、スーパーに向かう夕方。並木道を歩いていると左手の指に違和感があった。見ると黒い粒があり、右手の指で弾くと血がついた。蚊に刺されていた。
スーパーに着いた頃には左手の甲も右手の甲もかゆい。7分でこんなに刺されるなんて。トイレで手を洗いがてら水で冷やしても、かゆい。虫刺されを掻いているといつも、自分の血液型がO型だと思い出す。蚊に刺されやすいだけじゃなくて、O型のメ