8月が終わったと感じるとき[ショート小説]
リモートワーク中の昼休み、隣町まで買い物に行く途中に橋を渡る。土手を眺めると、草むらのなかに赤色があった。彼岸花だった。
そうか、もう9月か。
もちろんカレンダー上9月になっていたことは知っているけど、家にこもっていると季節に疎くなってしまう。秋の花を見て、夏が終わったことを改めて思い知らされた。
今年の夏は遠出をしていないけど、ささやかな小旅行をしたり、有名店のかき氷を食べたり、メロンを一玉まるごと贅沢に食べたり、我ながら満喫したと思う。もう思い残すことはない。
でも我が家には夏の忘れ物がある。
久しぶりにベランダに出ようと思ってサンダルを履くと、カサッという違和感があった。足を引っ込めたら、セミが出てきた。
声にならない叫びをあげて、思わず飛び退いた。心臓の鼓動が早くなる。急いで窓を閉めた。おそるおそるガラス越しに外を覗くと、どうやらそれは死骸らしい。靴下を履いていてよかった。素足だったら心に気持ち悪さのダメージを食らっていた。
「なぜ臨終のときを我が家のサンダルで過ごそうと思うかなぁ・・・」
踏んづけてしまった罪悪感と、降り掛かってきた出来事への不満が入り混じったなんとも言えない気持ちになった。
そしてそれは先週の出来事なのだけど、まだヤツはサンダルに収まっている。厄介な夏の宿題を9月に持ち越してしまった。
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(今回は8割がた実話です)
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