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ショート小説まとめ

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オリジナルのショート小説をまとめています。科学を題材にしたものから、ノンジャンルまで。
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#オリジナル小説

[1分小説]新聞屋のSくん

[1分小説]新聞屋のSくん

同級生のSくん家は新聞屋。新聞を印刷して毎朝配達している。

Sくんが新聞屋だってことは、同級生の全員が知っている。

僕の家ではその新聞をとっていなかった。親同士の会話で、子供向けの新聞をとらないかとすすめられたこともあったけど、結局とらなかった。

Sくんの家にはゲームソフトがたくさんあった。見たこともないゲーム機や変わったコントローラもあった。同級生数人でSくんの家にいくと、いつも対戦ゲーム

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スペクトル

スペクトル

「夕日は虹みたいに色が分かれているから赤だけじゃなくて黄色も緑色もあるんだよ」

物知りのT君が今日も新しいことを教えてくれた。
塾帰りの18時過ぎ、土手で空を眺めた。

「黄色はわかるけど緑はどこ?」「あそこだよ」「どこ?」「煙突の先のあたり」「うーん、緑に見えなくもないけど、青じゃね?」「あぶない!」

突然手を引き寄せられた。後ろから自転車が来ているのに気づかなかった。

夕方に土の匂いを嗅

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結露

結露

生活習慣病を悪化させて亡くなった叔母の家を思いがけず相続することになった。賃貸マンションを引き払って愛犬マロンと丘の上の一軒家に転居してから半年がたった頃。

その日はめずらしく雪が積もっていた。朝は注意して歩いていたのに、昼間コンビニに行く途中にうっかり滑って転んでしまったらしい。

頭を打って目を覚ますまでに3日過ぎたことにベッドで気づき、マロンを家に置き去りにしてしまったことを察した。
お腹

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宇宙線と汗

宇宙線と汗

目に入った目覚まし時計の温度表示が30.2℃、どうりでダルいわけだと思いながらちゃぶ台に突っ伏した。

大学進学で上京して1年目の夏。友達もいないし、することもない。

ひまだ。

アパートでのんびりしようにも、エアコンはカビだらけで使いたくない。暑さから気を紛らわせようと、なんとなく手を眺めていたら高校の物理の先生の言葉を思い出した。

「人間の手のひらの面積には、毎秒1回の頻度で宇宙線が通り抜

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祖父と双眼鏡の色分散

祖父と双眼鏡の色分散

高校の夏休みに、東北の山奥にある母の実家に遊びに来た。
いつもと違う味噌汁の朝ごはんを食べて、長靴を履いて畑を散歩して、おばあちゃんが切った桃を食べて、オニヤンマを追いかける。

8月半ばに宿題なんて、考えたくもない。

暇を持て余して畳を転がっていたら、母が物置から双眼鏡を見つけてきた。両手に収まらない大きさで500mlのペットボトル2本よりも重い。鼻を近づけたら、確実に時間の経過を感じる変な臭

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