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結露

生活習慣病を悪化させて亡くなった叔母の家を思いがけず相続することになった。賃貸マンションを引き払って愛犬マロンと丘の上の一軒家に転居してから半年がたった頃。

その日はめずらしく雪が積もっていた。朝は注意して歩いていたのに、昼間コンビニに行く途中にうっかり滑って転んでしまったらしい。

頭を打って目を覚ますまでに3日過ぎたことにベッドで気づき、マロンを家に置き去りにしてしまったことを察した。
お腹をすかせているに違いない。
世話を頼める人が近所にいないため、医者を説得してすぐさま退院した。
ご飯も食べてないし、喉も乾いているだろう。無事であってくれ。
普段使わないタクシーで急いで家に向かい、鍵を開けた。

「マロン、ごめんね。マロン、マロン、どこにいるの? マロン…」

返事がなく嫌な予感がして家を探し回ると、和室の奥のカーテンからしっぽが振りふりのぞいていた。見るとマロンが窓ガラスについた結露を舐め回している。

そうか、さぞかしのどが渇いていたのか。と思いつつマロンがいつも以上に元気なことが気になった。

ためしに窓ガラスについた結露を指ですくってなめてみると、これが甘い。そうか、これを舐めて飢えと乾きを癒やしていたのかと納得した。なぜ甘いのかはわからないが、亡くなった叔母があの世で見守ってくれたのだろう。普段はそんなことを考えないが、頭がまだ痛むので適当な理由で納得して寝てしまった。

さてそれからというもの、マロンは私が与えるご飯には目もくれずに和室の窓で結露を舐め続け、みるみる太っていった。今度はカロリーオフの結露がほしいものだ。



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