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祖父と双眼鏡の色分散

高校の夏休みに、東北の山奥にある母の実家に遊びに来た。
いつもと違う味噌汁の朝ごはんを食べて、長靴を履いて畑を散歩して、おばあちゃんが切った桃を食べて、オニヤンマを追いかける。

8月半ばに宿題なんて、考えたくもない。

暇を持て余して畳を転がっていたら、母が物置から双眼鏡を見つけてきた。両手に収まらない大きさで500mlのペットボトル2本よりも重い。鼻を近づけたら、確実に時間の経過を感じる変な臭いがした。

亡くなったおじいちゃんが使っていたものらしい。レンズのキャップを外して、レンズをのぞいてみた。

ん、、なんかぼやける、、、あ、これ回すのね、わかったよ、ピントくらい知ってるよ、、、

部屋の中から玄関の外を見ると、庭の花がレトロな感じ。視界全体がうっすら緑がかってるし、どれだけピントをあわせても、どうしてもぼやける。白い物干し竿を見ても、赤と青に分かれて像がにじんで見える。

レンズが劣化しているのか、そもそもこういう物なのか。古い写真の世界に迷い込んだ気分で庭や山のいろんな方向に双眼鏡を向けた。

あれは椿の木だっけ、セミ見えるかな、アゲハチョウだ、、、隣の家の猫、

楽しくなって畳に寝そべりながら外を見ていたら、黒い影が前にふさがった。レンズから目を離すと、目の前に立っていたおばあちゃんが、スイカを食べるかと聞いてきた。

うん、食べる。


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