小林十之助

近代文学2.0をやっています。近代文学1.0は終焉したそうですから仕方ありません。トン…

小林十之助

近代文学2.0をやっています。近代文学1.0は終焉したそうですから仕方ありません。トンデモ説ではない漱石論を書いています。近著『あなたの漱石読解間違っていますよ』『人類史上初夏目漱石の『こころ』を正しく読む』『夏目漱石は何故死んだのか』アマゾンで探してください。

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記事一覧

文体の違い 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む58

※右昭和天皇左秩父宮  それにしても驚くのは、平野啓一郎が『英霊の声』において、川崎君や木村先生の嘘か芝居、この帰神の儀式の真実性を欠片も疑うそぶりを一切見せな…

小林十之助
3時間前
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なき母の倅のつけし綿帽子 夏目漱石の俳句をどう読むか101

なき母の湯婆やさめて十二年  この句はもう一度やったような気がしていたが気のせいだろうか。漱石の母が亡くなったのが明治十四年なので、明治二十八年に読むと二年勘定…

小林十之助
3時間前

太宰を読め 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む57

 ※その前に↑を読め 変革の思想  この理屈は磯部浅一一等主計にちなんで言われたもののようだが、実は何度読み返しても良く解らない。一見天皇が変革のダイナモのよう…

カメラ残しの術 芥川龍之介の『西郷隆盛』をどう読むか③

 芥川が「シナリオもの」においてかなり先進的なカメラワークを遊んでいることは既に述べた。『誘惑』しかり、  それから『浅草公園』しかり、  そして「シナリオもの…

黙然とそれはいかめし火鉢かな 夏目漱石の俳句をどう読むか100

五つ紋それはいかめし桐火桶  全国弁当祭りで大人気のイカメシの句である。  ……違うな。  五つ紋の桐火桶が厳めしいという意味の句か。  いや、違うな五つ門は羽…

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ほとんど信じがたいほどの幼稚なあやまり 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む56

何度目かの「天皇とは何か」    平野啓一郎は一度だけ神であるべきであった。三島由紀夫論を書こうとしたとき、その一度だけで良かった。しかし実際、平野啓一郎は人間…

銅瓶に心元なき冬構 夏目漱石の俳句をどう読むか99

門閉ぢぬ客なき寺の冬構  昨日パチンコ屋さんの前を通ったら、空調機入れ替えのために休業しているのに、女の子が「休業」と書かれたホワイトボードを持って道行く人に「…

割とリアルだ 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか④

 ※期間限定のポイントが余っている人、これ買って。↑  若い男女が歩いていた。どちらもスニーカーでスポーティブなファッション。女の人はおんぶひもで赤ちゃんを前に…

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誰にも間違いはある 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む55

軍人勅諭とは何か  それはむしろ「『豊饒の海』論」の瑕疵であるのだが、『英霊の声』のこんなところを再読するとやはり宮城に尻を向ける飯沼勲の不敬がはっきり見える。…

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その理由は後で解るだろう 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか③

 一昨日はこれまで読んできた牧野信一の小説には当たり前のように父がいないということを書いたような気がする。  しかしそのことがどのような意味を持ち得るのか、とい…

雪の日や取次に出ぬ塩煎餅 夏目漱石の俳句をどう読むか98

雪の日や火燵をすべる土佐日記  これは見たままの句で居眠りをして土佐日記が火燵布団の上に落ちて滑った? 雪の日や松山で読む土佐日記  紀貫之の『土佐日記』は『土…

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引っかからないと解らない 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む54

現人神とは何か  昨日は『英霊の声』が戦前戦中の三島由紀夫作品の思想への回帰ではないと書いた。本来は『酸模』あたりからいちいち戦前戦中の三島由紀夫作品を読み…

嫁が君犬盗みたる三布蒲団 夏目漱石の俳句をどう読むか97

さめやらで追手のかゝる蒲団哉  川柳のような句である。二度寝しようとして蒲団が引き戻されたという程度の意味か。  これは自分のことなのか観察者なのか読み手の立ち…

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知らなかったとは言わせない 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む53

  何故『英霊の声』なのか  平野啓一郎の『三島由紀夫論』を俯瞰した時、その作品論の主たる対象となる作品が小説に偏り、『わが友ヒットラー』や『サド侯爵夫人』など…

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顔は変わっていなかった 芥川龍之介の『西郷隆盛』どう読むか②

 芥川龍之介の『西郷隆盛』に関してはこれまでに軽く触れ、西郷隆盛が今も生きていてこの汽車に乗っている、という皮肉だけを指摘して来た。  ところで本当に西郷隆盛は…

頭巾きて蒲団に包む大蛇かな 夏目漱石の俳句をどう読むか96

蛇を斬つた岩と聞けば淵寒し  湧が淵三好秀保大蛇を斬るところ、と添え書きがある。  これに対して岩波の解説は「大蛇を退治したのは土地の豪族で鉄砲の名手だった三好…

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文体の違い 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む58

文体の違い 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む58

※右昭和天皇左秩父宮

 それにしても驚くのは、平野啓一郎が『英霊の声』において、川崎君や木村先生の嘘か芝居、この帰神の儀式の真実性を欠片も疑うそぶりを一切見せないことだ。

 大丈夫なのかね?

 それで本当にいいのかね?

 いや、あなた自身に訊いているんだよ。

 それで本当にいいの?

 三島由紀夫の『英霊の声』において明確に欠けているのは、彼らの声が真実であるという証拠、例えば彼ら以外に

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なき母の倅のつけし綿帽子 夏目漱石の俳句をどう読むか101

なき母の倅のつけし綿帽子 夏目漱石の俳句をどう読むか101

なき母の湯婆やさめて十二年

 この句はもう一度やったような気がしていたが気のせいだろうか。漱石の母が亡くなったのが明治十四年なので、明治二十八年に読むと二年勘定が合わない、と書いたような気がする。音の調子にしても、

なき母の湯婆やさめて十四年

 十四年で全然おかしくない。

 この二年の差が何を意味するのかは定かではない。漱石の記憶が曖昧な時期だったのか、単に計算を間違えたのか。

 この時

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太宰を読め 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む57

太宰を読め 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む57

 ※その前に↑を読め

変革の思想

 この理屈は磯部浅一一等主計にちなんで言われたもののようだが、実は何度読み返しても良く解らない。一見天皇が変革のダイナモのような言われ方をしているように見えなくもない。しかし二・二六事件の首謀者の全体意見からはそうした天皇の位置づけは見えてこないからだ。
 平野啓一郎も「三島由紀夫はこう書いている」という表層的な理解はしている気配はあるもののその意図を捉えきれ

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カメラ残しの術 芥川龍之介の『西郷隆盛』をどう読むか③

カメラ残しの術 芥川龍之介の『西郷隆盛』をどう読むか③

 芥川が「シナリオもの」においてかなり先進的なカメラワークを遊んでいることは既に述べた。『誘惑』しかり、

 それから『浅草公園』しかり、

 そして「シナリオもの」とは言えないが、やはり映画を意識した『影』のカメラワークはすごい。

 しかもそれは飽くまで言われてみればの話で、芥川の文章は圧搾の美で上手いとは言われるけれどカメラワークという点ではあまり言われてこなかったのではなかろうか。そして寧

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黙然とそれはいかめし火鉢かな 夏目漱石の俳句をどう読むか100

黙然とそれはいかめし火鉢かな 夏目漱石の俳句をどう読むか100

五つ紋それはいかめし桐火桶

 全国弁当祭りで大人気のイカメシの句である。

 ……違うな。

 五つ紋の桐火桶が厳めしいという意味の句か。

 いや、違うな五つ門は羽織のことだろう。正装だ。

 正装をして桐火桶に当たっていて厳めしいということか。

 暮れなのに正月みたいだ。

 冷たくてやがて恐ろし瀬戸火鉢

  今度は火桶ではなく火鉢だ。

 冷たかった火鉢に火を起こして、次第に熱くなって

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ほとんど信じがたいほどの幼稚なあやまり 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む56

ほとんど信じがたいほどの幼稚なあやまり 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む56

何度目かの「天皇とは何か」

 

 平野啓一郎は一度だけ神であるべきであった。三島由紀夫論を書こうとしたとき、その一度だけで良かった。しかし実際、平野啓一郎は人間のまま、小学生並みのずさんな読みで三島由紀夫論を書いてしまった。この責任を彼は一体どうとるつもりなのであろうか。

 このことは結局どうにもならないのではないかと私は疑っている。彼は死ぬまで何事もなかったようにしらばっくれるのではなかろ

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銅瓶に心元なき冬構 夏目漱石の俳句をどう読むか99

銅瓶に心元なき冬構 夏目漱石の俳句をどう読むか99

門閉ぢぬ客なき寺の冬構

 昨日パチンコ屋さんの前を通ったら、空調機入れ替えのために休業しているのに、女の子が「休業」と書かれたホワイトボードを持って道行く人に「本日休業でーす。明日は営業してまーす」と連呼していた。そこまでやらなくてもいいのになと思った。

 この寺は、門が開いていたら漱石が客となっただろうか。実は冬構ではなくて事件に巻き込まれていた可能性はないだろうか、とは漱石は考えなかったよ

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割とリアルだ 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか④

割とリアルだ 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか④

 ※期間限定のポイントが余っている人、これ買って。↑

 若い男女が歩いていた。どちらもスニーカーでスポーティブなファッション。女の人はおんぶひもで赤ちゃんを前に抱いていた。男の人はトートバッグを持って空の乳母車を押していた。育休中のカップルかなと思ったが追い越しざまお互いが「うちは」「うちは」とそれぞれの家庭でのやりくりの違いを比較し合っていることに気がついた。

 つまり物事は見た目ではわから

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誰にも間違いはある 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む55

誰にも間違いはある 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む55

軍人勅諭とは何か

 それはむしろ「『豊饒の海』論」の瑕疵であるのだが、『英霊の声』のこんなところを再読するとやはり宮城に尻を向ける飯沼勲の不敬がはっきり見える。

 ニ・二六事件で処刑された将校たちの霊は、現人神たる天皇陛下の馬前で死ぬことを願っていた。「現人神」に尻を向ける飯沼勲とは大違いである。

 飯沼勲の天皇は「現人神」ではなく日輪に変わっていた。この「変化」というのはニ・二六事件で処刑

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その理由は後で解るだろう 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか③

その理由は後で解るだろう 牧野信一の『嘆きの孔雀』をどう読むか③

 一昨日はこれまで読んできた牧野信一の小説には当たり前のように父がいないということを書いたような気がする。

 しかしそのことがどのような意味を持ち得るのか、という問題について考えるのはずっと先のことになるだろう。そこに辿り着く前に私の命は尽きてしまうかもしれない。間に合うのか?

 こういうところだ。「兄さんに解らないとこが出たのでお尋ねに行かうと思つたら」を「解らないとこが出たので兄さんにお尋

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雪の日や取次に出ぬ塩煎餅 夏目漱石の俳句をどう読むか98

雪の日や取次に出ぬ塩煎餅 夏目漱石の俳句をどう読むか98

雪の日や火燵をすべる土佐日記

 これは見たままの句で居眠りをして土佐日記が火燵布団の上に落ちて滑った?

雪の日や松山で読む土佐日記

 紀貫之の『土佐日記』は『土佐日記』と言っても土佐から大阪を経て京に戻る話なので、なんとなく里心がついていたのかもしれませんね。

応々と取次に出ぬ火燵哉

応々と人をすかせるやなぎかな

応々といへどたたくや雪の門

いずれも向井去来の句だと思うが、何故か丈草

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引っかからないと解らない 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む54

引っかからないと解らない 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む54



現人神とは何か

 昨日は『英霊の声』が戦前戦中の三島由紀夫作品の思想への回帰ではないと書いた。本来は『酸模』あたりからいちいち戦前戦中の三島由紀夫作品を読み解いていくべきではあるが、その前に『英霊の声』という作品に関する平野啓一郎の読みのずさんさ、あるいは読みの恣意性、あるいは「『英霊の声』論」の欺瞞というあたりを指摘しておきたい。

 普通の中学生が『英霊の声』を読み始めた時、最初に引っ

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嫁が君犬盗みたる三布蒲団 夏目漱石の俳句をどう読むか97

嫁が君犬盗みたる三布蒲団 夏目漱石の俳句をどう読むか97

さめやらで追手のかゝる蒲団哉

 川柳のような句である。二度寝しようとして蒲団が引き戻されたという程度の意味か。

 これは自分のことなのか観察者なのか読み手の立ち位置が見えない句である。

 まあ頭で考えた句ということであろう。

毛蒲団に君は目出度寐顔かな

 え?

 女?

 子規の評点「〇」。これは松枝清顕みたいな嘘自慢なのか、赤裸々な告白なのか。そりゃまあこの年でそういうことがない方が

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知らなかったとは言わせない 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む53

知らなかったとは言わせない 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を読む53

 

何故『英霊の声』なのか

 平野啓一郎の『三島由紀夫論』を俯瞰した時、その作品論の主たる対象となる作品が小説に偏り、『わが友ヒットラー』や『サド侯爵夫人』などのわずかな例外を除いて三島由紀夫の最も得意としたところであり一般的にも一部では小説よりも評価の高い戯曲に言及されず、戦前戦中の作品が無視され、そして『仮面の告白』『金閣寺』『豊饒の海』といった堂々たる長編作品に混じって『英霊の声』という

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顔は変わっていなかった 芥川龍之介の『西郷隆盛』どう読むか②

顔は変わっていなかった 芥川龍之介の『西郷隆盛』どう読むか②

 芥川龍之介の『西郷隆盛』に関してはこれまでに軽く触れ、西郷隆盛が今も生きていてこの汽車に乗っている、という皮肉だけを指摘して来た。

 ところで本当に西郷隆盛はなかなか死ななかった。

 こうして西郷隆盛生存説は繰り返され、

 なかなか死んだことにならなかった。

 実際その製紙は真面目に論じられてきたようだ。

 これはもう源義経伝説のようなもので、判官びいきの国民性の中で創られた英雄像の共

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頭巾きて蒲団に包む大蛇かな 夏目漱石の俳句をどう読むか96

頭巾きて蒲団に包む大蛇かな 夏目漱石の俳句をどう読むか96

蛇を斬つた岩と聞けば淵寒し

 湧が淵三好秀保大蛇を斬るところ、と添え書きがある。

 これに対して岩波の解説は「大蛇を退治したのは土地の豪族で鉄砲の名手だった三好蔵人秀勝である」としている。根拠は『愛媛県百科大辞典』だそうだ。なら新田義宗もちゃんと……。

 これ関係ないか。

 こういうことか。三好長門守秀吉長男三好蔵人之助秀勝。之助がぬけとるやん。あかんでそんなもん。直す時にはびしっと直さん

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