嫁が君犬盗みたる三布蒲団 夏目漱石の俳句をどう読むか97
さめやらで追手のかゝる蒲団哉
川柳のような句である。二度寝しようとして蒲団が引き戻されたという程度の意味か。
これは自分のことなのか観察者なのか読み手の立ち位置が見えない句である。
まあ頭で考えた句ということであろう。
毛蒲団に君は目出度寐顔かな
え?
女?
子規の評点「〇」。これは松枝清顕みたいな嘘自慢なのか、赤裸々な告白なのか。そりゃまあこの年でそういうことがない方がむしろ不自然なことであるが、もし本当だとしたらなんともあけすけな感じがしてしまう。
こうなると「追手」の意味も解らなくなる。「蒲団」に追手がかかるのではなく、「蒲団の中」で追手がかかるような感じもなくはない。どうも一人,寝の感じがしない。
薄き事十年あはれ三布蒲団
この句も安下宿の万年床と見れば一人寝の感じだが、以前の句、
両肩を襦袢につゝむ紙衾
すべりよさに頭出るなり紙衾
合の宿御白い臭き紙衾
こんな句と繋げてみると、安宿での一夜ということになるのか。
山山を枕に敷きぬ三布の蒲団 我鬼
そうなるとこんな句も
行く秋や身に引きまとふ三布蒲団 芭蕉
こんな句も急に色っぽく見えてきてしまう。しかし芭蕉はちょいと毛色が違うか。
片々や犬盗みたるわらじ足袋
解説に「わらじ足袋とは草鞋と足袋」とある。しかしそうなると犬がわざわざセットで盗むことにはなってしまう。
ここは「草鞋と足袋」ではなく、地下足袋ではない草鞋掛が盗まれたのではなかろうか。つまり盗まれたのは足袋である。
よりにおいのきつい方と考えてみてもやはり足袋が盗まれる方が道理に合う。盗んだのが本当に犬ならば。
羽二重の足袋めしますや嫁が君
解説に「嫁が君」とは正月三日の鼠のこととあり、子規が嫁が君に二本線をを引いて注意だけしていることが書いてある。つまりは改作しようにも意味が解らないので直しようがなかったということになろうか。
これはまだまだ修行中の漱石がうっかりなにかと間違えたのか、それとも別に何かの意図があるのか。あるいはこんな錦絵をイメージしての句かもしれない。
白い絹のような足先の鼠でも出たか。それにしても暮れに詠むのは早すぎる。この句はそのまま勘違いの句としておこう。
[余談]
クレジットカードが使えて現金払いだと安くなるOKストアーって、規約違反にならないのかな?
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