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小さな物語集

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ちいさな物語で毎日に少しときめきを。
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記事一覧

はじまりの秋の日(掌編)

はじまりの秋の日(掌編)

図書館の窓一面に、紅葉が広がっている。
私は何度も読んだ古い文庫本を手に取った。いつか私が栞がわりにはさんだコーヒーショップのカードは、まだ物語の最初の方に収まっていた。

大学裏のあのコーヒーショップは、きっと今日も空いている。

外のざわめきが、図書館の中まで聴こえてくる。窓から見下ろすと、出店のテントが立ち並んでいるのがよく見えた。学祭の日、図書館にわざわざ立ち寄る人はほとんどいない。

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はじめてZINEを作りました…

はじめてZINEを作りました…

この度、初めてのZINEを作ってみました!

物語を集めた可愛い本を作りたい。
2年前くらいから、そんな想像をしていました。それがやっと形に。

寝る前や休みの日。
ネットからは距離をおきたいけど、ぼうっと過ごしたいとき。
そんな時間にぴったりな感じにしたい、と思い作ってみました。

全部短い物語で、夢をみてるみたいな、ちょっと不思議なお話を集めています。

「小さな物語コレクション」

note

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水族館の大きな水槽の前にて

真夏でも暗くてひんやりとしたその場所で、私はぴたりとガラスに手をつける。

向こう側で、あなたがゆったり泳ぐのを見つめることが、私の日課。

あなたと私を隔てるのは、本当はガラスじゃなくて、とても分厚い何かの素材らしい。
近くに見えるあなたは、分厚いそれに阻まれてひどく遠い。

届いても届かなくても、私はあなたに語りかける。
-約束した通り、会いにきたの

ここは、2人でいたあの星に似てい

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むかし空を飛んだ女の子の憂うつ

むかし空を飛んだ女の子の憂うつ

しんとした夜には、部屋の窓を開けて空を見上げてみる。

可愛かった弟たちは、ゴツゴツして大きく憎たらしくなった。それでも昔を思い出せば可愛い弟に変わりはないけれど。

私だって、私に変わりはないけど、そとみはあのときと違ってるから、弟たちだけを責められない。

あのとき私は、もっと軽かった。そうでないと、いくら妖精の粉があったって空を飛べるなんて無邪気に信じられるものじゃない。

今はなんだか

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夢を歌う小鳥、春夏の庭

夢を歌う小鳥、春夏の庭

凛晶は夜に起き昼に眠る。

王宮の南奥に凛晶の部屋はある。白い石で造られた小さな宮がそこだ。

玻璃が張られた小さな窓からは庭がのぞめる。小川を模した水の流れにそって木々が植えられており、春の花も夏の花も同時に咲いていた。

しかし凛晶がその庭の花を、その手でつむことも間近に見ることもなかった。何しろ花は夜にはしぼんでしまうのだから。

夜になると、庭からのびる細い道をたどって星詠小屋で凛晶は勤め

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あなただけのドレスがある不思議なサロン

あなただけのドレスがある不思議なサロン

ちりんちりんと鈴が鳴ると私は手をとめて小さな木の扉へ向かう。

「いらっしゃいませ」

丁寧にお辞儀をし目をあげると、そこには大抵、困った顔のお客様が立っている。

まれに大笑いしているかた、びっくりしている方もいらっしゃるけど。

今日は、そのどれでもない。泣きそうなお顔をされた方だった。

「あの、私、黒くて重い鉄の扉を開けたはずだったんですけれど」

とまどったままにきょろきょろとされている

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砂漠にある渡し舟の話

今日はめずらしくブイノが寝る前に帰ってこられた。

「お父さん、お休みのお話をして」

ブイノはいつも、寝る前に僕のお話しをねだる。

ふだんは妻が絵本を読んでやるだけだけど、僕がするお話は、僕にしか思いつけない胸がどきどきする冒険や、想像上の生き物が出てくる物語だからきっと大好きなはずだった。

「よーしブイノ、ベッドへ行こう」

僕はブイノの頭をなでながらお話をはじめた。

そうだな、今日はあ

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嬉しすぎる話

先日「マッチ売りの少女」という小さな物語をアップしました。

それでですね!

タキさんが、それを読んでインスピレーションを受けてくださり、

とてもとても素敵な物語を書いてくださいました。

以下、文章は「小さな炎」読んでから、進んでくださいね。

………

いつも味わい深く、ぐっとくるものを書かれているタキさんの素敵すぎる物語に、私がこう言ってはおこがましいかもしれないけど、

アンサーソング

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マッチ売りの少女

マッチ売りの少女

電気というものが街にちらほら現れてからというもの、私たちのようにマッチ売りで食べていくのは難しくなった。

だけど私はマッチを売るのに困らない。

なぜかというと、私はマッチに付加価値をつけているから。私から買えるという価値。

みんなマッチが欲しいのじゃなく、私とのつながりが欲しくて私から買うの。

ほら、少年がやってきた。

私は優しい憧れのお姉さんを演じる。彼にとって永遠の初恋になるように。

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「冬の王女」を書いた気もち

昨日「冬の王女」という物語をアップしました。

この物語、中学生くらいのときに書いたお話です。そのころはパソコンも持ってなく、そういう発想もなかったので、画用紙に文字と絵を手書きしていました。

昨日アップした、へたっぴな絵は、当時書いた絵を思い出し、アラサーな私がせっせと色鉛筆で描いたものです。

このお話を想像したきっかけは、二つ。

一つ目のきっかけは、「雪の女王」という童話です。この題

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冬の王女 part3

冬の王女 part3

*前回までのあらすじ*

冬の国の王女は、人間界に冬を運んで妖精界に帰って来た。そこに、春の国の妖精である少女が働きたいと訪ねてくる。

春の妖精に頼める仕事もないので、やけくそになった王女は、行き詰っているシーズンフェスティバルの催しを考えるため、サンタクロースへの相談に同行させることにした。

*****

大きな家の前で、そりがとまった。丸太を積み重ねたその大きな家から、赤い服に身をつつみ白

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冬の王女 part2

*前回までのお話*

冬の妖精の王女は、人間界に冬を運びおわり、冬の国へ戻って来た。

4年に一度、4つの季節それぞれの国から妖精が集まるシーズンフェスティバル。もうすぐ開催される、その準備で大忙し。

そんな中、城を訪ねてきたのは、なんと春の妖精の少女だった。

*****

翌朝、王女が部屋でたまった書き物をしていると、シマリス大臣がやってきた。

「王女、シーズンフェスティバル催しの相談に

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冬の王女 Part1

一面真っ白な世界の中に、ほのかなオレンジ色の光が見えてきた。その光はだんだんと大きくなってきて、それがやがて、街の光だと分かるようになってきた。

 「やっと着いた…」

冬の国の王女はぼんやりした頭で思った。

 「今年の仕事は大変でしたね。妖精季節会本部から、雪を例年より多く降らすよう言われて―」

シマリス大臣が高い声で喋っているのを聴きながら、王女はまた眠りに引き込まれた。

冬の国の妖精

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人魚姫 part3~最終話~

これまでのおさらい*

人魚姫の子孫、セナ。陸の世界にも王子様にもまったく興味がないけれど…

ある嵐の日、王子様に拾われてしまいました。

セナは憧れていなかった世界に出会ってどうなるのでしょうか…

ある日、王子が言った。

「娘よ。お前はこの近く、島の子なのだろうか?

記憶はまだ戻らぬか…。足もまだ立たないようだな。かわいそうに。

しかし、この付近での停泊もそろそろ終えて、国へ我らは戻る

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