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はじまりの秋の日(掌編)
図書館の窓一面に、紅葉が広がっている。
私は何度も読んだ古い文庫本を手に取った。いつか私が栞がわりにはさんだコーヒーショップのカードは、まだ物語の最初の方に収まっていた。
大学裏のあのコーヒーショップは、きっと今日も空いている。
外のざわめきが、図書館の中まで聴こえてくる。窓から見下ろすと、出店のテントが立ち並んでいるのがよく見えた。学祭の日、図書館にわざわざ立ち寄る人はほとんどいない。
そ
水族館の大きな水槽の前にて
真夏でも暗くてひんやりとしたその場所で、私はぴたりとガラスに手をつける。
向こう側で、あなたがゆったり泳ぐのを見つめることが、私の日課。
あなたと私を隔てるのは、本当はガラスじゃなくて、とても分厚い何かの素材らしい。
近くに見えるあなたは、分厚いそれに阻まれてひどく遠い。
届いても届かなくても、私はあなたに語りかける。
-約束した通り、会いにきたの
ここは、2人でいたあの星に似てい
夢を歌う小鳥、春夏の庭
凛晶は夜に起き昼に眠る。
王宮の南奥に凛晶の部屋はある。白い石で造られた小さな宮がそこだ。
玻璃が張られた小さな窓からは庭がのぞめる。小川を模した水の流れにそって木々が植えられており、春の花も夏の花も同時に咲いていた。
しかし凛晶がその庭の花を、その手でつむことも間近に見ることもなかった。何しろ花は夜にはしぼんでしまうのだから。
夜になると、庭からのびる細い道をたどって星詠小屋で凛晶は勤め
あなただけのドレスがある不思議なサロン
ちりんちりんと鈴が鳴ると私は手をとめて小さな木の扉へ向かう。
「いらっしゃいませ」
丁寧にお辞儀をし目をあげると、そこには大抵、困った顔のお客様が立っている。
まれに大笑いしているかた、びっくりしている方もいらっしゃるけど。
今日は、そのどれでもない。泣きそうなお顔をされた方だった。
「あの、私、黒くて重い鉄の扉を開けたはずだったんですけれど」
とまどったままにきょろきょろとされている
「冬の王女」を書いた気もち
昨日「冬の王女」という物語をアップしました。
この物語、中学生くらいのときに書いたお話です。そのころはパソコンも持ってなく、そういう発想もなかったので、画用紙に文字と絵を手書きしていました。
昨日アップした、へたっぴな絵は、当時書いた絵を思い出し、アラサーな私がせっせと色鉛筆で描いたものです。
このお話を想像したきっかけは、二つ。
一つ目のきっかけは、「雪の女王」という童話です。この題