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フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ『帰れない山』イタリア、父親を透かし見るグロテスクな友情物語

2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。パオロ・コニェッティによる同名小説の映画化作品。映画化にあたって、監督二人はイタリア語を習得したらしい。1980年代、夏休みを過ごしにアルプス山麓の村にやって来た少年ピエトロは、人口140人の中で唯一の子供ブルーノと出会う。それは40年近くに及ぶ友情物語の幕開けだった…という話なのだが、表面的にはそうでも中身は全然そんなことないのが恐ろしいところ。というのも、ピエトロの興味は父親にあり、その関連として山が存在する、という流れなので、ブルーノは父親を思い出す触媒にすぎないのである。序盤に父親と一緒に登ったきりもう登ることはなく、自分が拗ねて家族を蔑ろにしていた時代にブルーノ青年が息子役を代行していたことで、父親亡きあとはブルーノが父親代行のような役割を担うことになるからだ。父親がピエトロに残した家をブルーノが作るという象徴的な空間は、父親としてのブルーノがいるHOMEとして機能している。それにしてもよく歩く映画だなあと思ったら、ラストで"一度訪れた山には帰れない、最初の山で失ったら残りは彷徨うしかない"と言っていて、正しく父親を失ってから彷徨い続けているのだろうと。そうすると、もう完全にブルーノ本人の存在は蚊帳の外。しかも、後半にかけてダラダラとブルーノ一家が破綻していくのを描いていたのはなんだったんだ?となるなど。まぁヒュルーニンゲンはお涙頂戴を通り越したお涙搾り取り映画『オーバー・ザ・ブルー・スカイ』を撮ってる人なので、過剰におセンチにしたがる傾向にあるのかもしれない。

『セルヴィアム』『Brother and Sister』と悩める白人アフリカに行くエンドに親しんできたわけだが、『TAR』『帰れない山』と悩める白人アジアに行くエンドも台頭してきて草。

・作品データ

原題:Le otto montagne
上映時間:147分
監督:Felix van Groeningen & Charlotte Vandermeersch
製作:2022年(ベルギー, イタリア, フランス, イギリス)

・評価:60点

・カンヌ映画祭2022 その他の作品

1 . ジェームズ・グレイ『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』1980年代NYで少年が知った"白人の特権"
2 . タリク・サレー『Boy from Heaven / Cairo Conspiracy』"国家とアル=アズハルは対立してはならない"
3 . 是枝裕和『ベイビー・ブローカー』男たちが身を呈して守る母性神話
4 . アルノー・デプレシャン『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』互いを憎しみ合う姉弟の子供じみた喧嘩集
5 . ルーカス・ドン『CLOSE / クロース』レミとレオの"友情"と決裂
6 . デヴィッド・クローネンバーグ『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』手術はセックス、セックスは手術
7 . パク・チャヌク『別れる決心』別れる決意、愛する決意
8 . フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン&シャルロッテ・ファンデルメールシュ『帰れない山』イタリア、父親を透かし見るグロテスクな友情物語
9 . イエジー・スコリモフスキ『EO イーオー』この世の罪を背負う超越者としてのロバ
10 . ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ『フォーエヴァー・ヤング』パトリス・シェローと私とみんな
11 . アリ・アッバシ『聖地には蜘蛛が巣を張る』イラン、聖地マシュハドの殺人鬼を追え
12 . サイード・ルスタイ『Leila's Brothers』イラン、家父長制の呪いとサフディ的衝突
13 . レオノール・セライユ『Mother and Son』フランス、"成功が一番重要"で崩壊した家族の年代記
14 . マリオ・マルトーネ『ノスタルジア』ノスタルジーに浸って地元をかき乱すおじさん
15 . アルベール・セラ『パシフィクション』高等弁務官、タヒチの海にて悪魔と宴す
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20 . ダルデンヌ兄弟『トリとロキタ』ベナンから来た偽装姉弟の日々
21 . リューベン・オストルンド『逆転のトライアングル』またも金持ちを嘲笑うオストルンド

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