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ダルデンヌ兄弟『トリとロキタ』ベナンから来た偽装姉弟の日々

2022年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。ダルデンヌ兄弟劇長編12作目。今回はベナンからやって来た偽装姉弟ロキタとトリの物語である。冒頭、ロキタはトリとの出会いを施設職員に尋問されている。事実ならすんなり答えられることも、ロキタはしどろもどろになり、今回も就労許可証は発行されない。二人はイタリアンレストランの地下厨房で働くベティムという男の下で、ドラッグの売人としてバイトしているが、その危険性に反して実入りは少ない。その少ない実入りを故郷にいる母親も、イタリアからベルギーまで二人を運んできた運び屋にも狙われている。八方塞がりとはこのことか。不安発作を薬で抑え込むロキタに対して、トリは年齢よりもだいぶ大人びた少年で、様々な困難を冷静さと度胸によって乗り越えていく。なので、疑似姉弟というよりも共犯関係、共依存関係という形で展開していく。毎度のダルデンヌ節ということで、対象を追い回すカメラによる緊張感導入も健在で、今回はそれに加えて麻薬売買や、途中からロキタが閉じ込められる大麻工場での仕事の様子を細部まで描いており、妙な緊張感を与えていくのは良い。ただ、全体的にあまりにも作為的な匂いがしすぎていて、特にラストシーンなんかは単純化しすぎだと思う。なんで偽装したのかとか、偽装するメリットとかの方を知りたかったんだが、そっちの深掘りはほぼなし。というか、問題の深掘りはほぼなし。NGOの資金調達用パンフレットに相当する映画というマイケル・シシンスキのバチクソ厳しい評価を最後に残しておく。

・作品データ

原題:Tori et Lokita
上映時間:88分
監督:Luc Dardenne, Jean-Pierre Dardenne
製作:2022年(フランス, ベルギー)

・評価:60点

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