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セルゲイ・ロズニツァ『Victory Day』戦勝記念日に、同志たちよ、ウラー!

第二次世界大戦集結から4年後、ソ連はベルリンの戦いで亡くなった8万人の兵士に対する慰霊碑として、ベルリンのトレプトウ公園に戦没ソ連兵の銅像を建てた。そして、毎年5月9日の終戦記念日になると戦勝記念の祝典が開かれるようになった。それは今でも続いている。ナショナリズムという文脈を孕んだ上で。老若男女問わずソ連の軍服に身を包んで記念写真を撮りまくり、会場はソ連以下カザフスタンやブルガリアの国旗が並び、民族衣装を着た女性たちが伝統音楽に合わせて歌い踊り、厳ついバイカーギャングみたいな集団がお揃いのユニフォームで会場を闊歩している。字幕の2/3は登場する歌の歌詞への字幕というくらい音楽が鳴り響いているのだが、そのどれもが戦時中のヒットソングやソ連を称賛する曲であり、この空間だけ時間が何十年も止まってしまっているかのような異質さに包まれている。

ナチスドイツに関連する作品ということで、本作品の二年前に製作された『アウステルリッツ』と対になっていると感じられる。ダークツーリズムの一環として収容所跡に"遊びに"来ている観光客たちの姿を捉えた同作品への目線は、本作品に登場する戦勝記念日にソ連の旗を振り回し、戦時中に流行した「カチューシャ」みたいな曲を歌い騒ぐ人々への目線に似ている。それに加え、ロズニツァ本人がカメラを持って製作された『アウステルリッツ』の前身とも言える『The Old Jewish Cemetery』とも似通った部分がある。記念碑の土台に彫られている、戦士たちや銃を取って戦った一般市民たちの彫刻がアップで切り取られ、鳴り響く戦時下の恋歌や手紙の朗読の合間に挿入しているのだ。戻らなかった兵士たちが眠る上で、"戻ってくるかしら?"という歌を歌うんだから皮肉がキツすぎる。

ただ、カメラが人に近すぎて切り取られる空間が狭すぎるのと同時に、公園の近くという実際の空間も狭いので、あまり"群衆"を見ている感じがしないのが難点。ちなみにこの公園、以前紹介した Michael Klier『Ostkreuz』で登場するオストクロイツ地域の川を挟んで向かいにある。

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・作品データ

原題:День Победы
上映時間:94分
監督:Sergey Loznitsa
製作:2018年(ドイツ)

・評価:60点

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