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きさらぎみやび
2021年4月24日 23:18
覚えているのは、煙草の匂いと、弦を爪弾く音。「クジラの死因ってさ、ほとんどが溺死らしいよ」一戦交えた後のベッドの上で、重ねた枕にもたれてくわえ煙草でスマートフォンをいじりながら良介がこちらに話しかけてくる。ふーん、と手鏡を覗き込んで崩れた化粧を直しながら、気怠さの残る体でわたしは気のない返事を返す。壁紙がうっすらとヤニで黄色くなったアパートの狭い六畳間には先ほどまでの熱気と湿気がまだこ
2021年4月15日 23:57
同級生のハルが病気になったと聞いて、家にお見舞いに行ったわたしが見たのは、見るも鮮やかに頭がお花畑となった彼女のすっとぼけた面だった。比喩ではない。ほんとに彼女の頭からはカラフルな花が直接生えていて、まるで花畑の様相を呈していたのだ。わたしの視線が彼女の頭に釘付けになったのも当然と言える。「あ、アオじゃんおっすー」そんなわたしに対して、気楽な様子でひらひらと手を振って呼び掛けるハル
2021年4月7日 01:14
最近じゃずいぶんと夜がなまぬるくなって、すっかり油断した僕に外にでも出てみようかなんて気を起こさせる。Youtubeで時間を潰し、みんなが寝静まった頃合いを見計らう。シャツの上からダボっとしたパーカーを身に纏い、チェック柄のVANSを履いて玄関のドアをそっと押し開ける。匿名希望のフードをかぶり、立ち入り禁止の夜へ踏み出す。昼間に雨でも降ったのか、アスファルトの路面はかすかに湿り気を帯びてい
2021年4月1日 23:45
桜の花も盛りの四月一日。私、轟美沙は所属するオカルト同好会の男子の先輩であるところの宗像先輩と二人、同好会の部室で今年大学入ってくる新入生をどうやって勧誘するかについて相談をしていた。現在大学三年である会長の東條先輩、その一個下の宗像先輩、そしてさらに一個下の私がこのオカルト同好会の実態メンバーとなっている。各学年一人ずつしかいないので、せめて新入生を二人は入れたいですね、なんて話をしていたら、東